8 傭兵団入団
次の日、大きなリビングにあるテーブルで朝食を取りながら、また昨日の続きの話が始まった。
結局、昨日の夜はいろいろ悩み過ぎで、途中で起きてなかなか眠れなかった。
いつもと違うベッドの所為なのか?
いきなり異世界に飛ばされ、これからどうやっていくのか?
1人ではなく仲間が居るから、大分、気は楽になったはずだが...。
大きなアクビをして、まだ眠たそうにしながら食事を取っている僕は、この異世界に来たばっかりで何も出来ない自分が、食べ物を食べられるということに感謝していた。
普段なら毎日当たり前のように三食、食べていたがもしあの戦場で置き去りにされていたら、死んでいたかも知れない。
もし逃げ延びたとしても今頃、お腹を空かせて食べ物がなく困っているのでないだろうかと考えていた。
寝床と食事の分のお礼は返さないといけないと考えていた。
「おはよう、どう決まった?」
起きてきた隼人が、僕に声をかけてきた。
「ん~、まだ全然わからないよ、皆の意見を聞いてから決めようかなぁと思って」
「相変わらず、優柔不断だな」
「ほっとけ、こんなこといきなり直ぐに決められるか」
祐太と海斗が、ドアを開けリビングに姿を現した。
「おはよう」
「おはよう」
祐太が席に座り、朝食を取りながら話始めた。
「海斗と二人で、あのあと話したんだが他に行く宛もないし、取り敢えず傭兵団に入ってもいいんじゃないかと、この世界の事も分からないし、ある程度強くなれば何処でも行けるしな」
「そうだな、この世界に慣れるまで傭兵団にいて、それから団を抜けて生きていくのも有りか」
「翔、慣れるというより強くなるまでは集団でいた方が安全だと思うけど」
3人賛成か、僕はどうしようと考えていた。
この異世界の事を知るには、暫くここに留まった方が良いような気がしてくる。
ただ命の危険性も無視出来ないが、いきなり知らない世界にほうりだされても何も出来ない。
何よりここにいれば住む所に困らないし、三食ちゃんと食事が付いてくる。
食事をしながら話し合いをしていると紗耶香が起きて来た。
「おはよう、私は勿論、入団に賛成よ」
「それじゃ、皆、入団するという事で、もちろん翔も入るよな」
「皆が入団するなら仕方ないか...、沙羅はどうするんだ?
部屋から出て来ないんだろう」
と話をしていたら、後ろのドアが開いた。
「私も、入団するわ」
ずっと泣いていたんだろうか、目の周りが赤くなっていた。
沙羅は皆を見ているはずだが、気の所為か僕と一瞬、目と目があったような気がした。
沙羅は直ぐに違う方向を見たので、そう見えただけなのかも知れない。
顔がまだ青白い沙羅がそこに立っていた。
「もう大丈夫なのか?」
「皆、心配してたんだぜ」
「一人だけ置いていかれるのは嫌だもん」
元気ではまだ無かったが、一人じゃ心細いのだろう。
自分も同じだが、皆と一緒だと何でもやれるような気がした。
というよりも、1人だと仲間外れにされたように思えて、特にこの世界で1人ぼっちは辛いものがある。
仲間外れにされたくないから、皆と同じ行動をとる。
優柔不断な僕は何も決められないし、付いていくしかない。
我ながら情けなく思えてくる。
自分の意志で決めることが出来たら...。
早速入団するために、セレナさんのいる家に向かった。
家は、この拠点の中心部辺りにあり傭兵団の本部としても使われているのでかなり大きな建物だ。
受付でセレナさんへの面会申請をする。
傭兵団の身内しかいないような村ではセレナさんに会いに来る人は少なく、直ぐに来るそうだ。
待合室で待っているとセレナさんとエレナさんがやって来た。
「どう、入団する気になった?」
「はい、全員、入団希望します」
「いいのよそんなに畏まらなくても、傭兵団は家族みたいなものだから気楽に」
「セレナがそんな事言うから、軍規が乱れるんでしょ」
「いいじゃない、入団したら家族みたいなものだし。
エレナあとの入団手続きお願いね」
「もう~、たまには自分でしたらどうなの?」
文句を言いながらも、何か操作している。
回りから見たら、画面を指で操作しているように見えるが、リングメニューは考えるだけで操作出来るので、指が動くのは癖なんだと思う。
「傭兵団入団許可申請出したわ。
指輪のメニューで操作してみて」
何回か練習してコツを掴み、メニュー欄を開くのが簡単に出来るようになっていた。
メニュー欄にある傭兵団加入の操作を行った。
「これで白銀傭兵団の一員よ、よろしくね。
傭兵団に入団している間は、指輪によって何処にいるか、敵を倒した数、ドロップアイテム、お金の出入り等わかるようになっているから、獲得したお金に関しては3割傭兵団に入金、傭兵団で行うクエストは、その働きによって褒賞金など出すから、まあ、詳しくは隼人に聞いてね」
「わかりました」
「そうね、まず長老に挨拶にいきましょうか」
傭兵団に入団してしまったが、本当に戦えるようになるのか。
これでよかったのか、僕1人では何も出来ないので今は皆に付いていくしかない。
いずれは自分の意志で...、そう思いつつ前へと一歩を踏み出した。