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72 孤児院

今日は、朝早くからサンピースの街に向かっていた。

奴隷の解放と日用品の買い出し、あとそらが外に出たがらない引きこもりになっていた。

奴隷にされ恐い思いをした為だと思われるけど、無理やり奴隷解放を口実こうじつに一緒に連れだしていた。

そうでもしないと一生、家の中で過ごしそうだから。


「空、天気もいいし風が気持ちいいな」


「そうね」


声をかけても話が続く事はなく、気まずい雰囲気が流れていた。

サンピースの街まで、今回は馬車でのんびり進んでいる。

本当は歩いて行くつもりだったが、奴隷として捕まり傷も癒えていない、体力も元に戻るにはまだ時間がかかると思われる空と弥生先生、そして一緒に捕まっていたウェスタが居たので、歩くには体力が持たないだろうと判断して馬車で行くことになった。


歩くよりは馬車の方が断然だんぜん早いが、長時間座りっぱなしなので、お尻が痛くなり僕はあまり好きではなかった。


でも『まぁ、たまにはいいか』と思いながら、回りの景色を楽しみ、他愛もない話をしながらサンピースまでの時間を潰した。


サンピースの街に着き、まず奴隷解放の手続きをする為、役所へ向かった。

大きな街には必ず国の役所があり、そこでいろいろな手続きができるようになっている。

元の世界の役所と変わらなかった。


そこで奴隷解放の手続きをする。

身分は王女が居るから保証人としては大丈夫だろう。

最初、王女の名を出したらうたがわれたが、本物だと分かった時点から対応がコロッと変わった。

『王女の名は伊達ではないな』と感心した。

空、弥生先生、ウェスタの三人分の金貨三枚を渡す。


別の部屋に連れていかれ、手に付けている指輪に何やら呪文をかけているようだった。


呪文が終わり、三人を確認したら奴隷から平民に、ちゃんとなっていた。


役所を出て僕は、


「奴隷解放の呪文を覚えればお金払わなくてもいいんじゃないか?」


「不正出来ないように、きちんと出来ているわ」


「そうなんだ、残念。

これで奴隷では無くなったけど気分はどう?」


「ん~、あまり変わらないわ、でもありがとう」


「うん、ありがとう」


「まあ、身分が変わっただけだから、意識しないとわからないけど、一般市民になったから、やっと普通の暮らしが出来るということだな、ウェスタも奴隷解放したから、自分の行きたい所に行っていいし、好きに生きていいんだぞ」


「私が、行くわけないでしょ。

ご主人様のそばを離れないわ。

ファミリーの一員ですもの」


「残念です、一人減ると思ったのに」


「何ですって!」


精霊達は、言い争いを始めた。

仲がいいのか悪いのか。

あとは日用品を買わないとな、商店街の方に行くか。


「ほらケンカしてると、置いていくぞ」


「待って、ご主人様」


「置いてかないで、マスター」


精霊達が言い争いしている間、いつの間にかアナンタが僕の腕を一人じめしていた。


ずるいです、アナンタ」


「じゃんけんで、代わりばんこです」


これではまるで、幼女を連れた保母さんみたいだと自分自身思ってしまう。


商店街を歩いていると、いろんな店が並んでいる。

全部見てから買う物決めると言うので一軒一軒見ていった。


女性達は、買い物をワイワイと楽しんでいたが、男性陣は、いろいろ連れ回されてクタクタに疲れていた。


買い物が長いので、仕方なく男達は店の前でのんびりとしゃべっていた。


「女達のショッピングは長いよな」


「付いて行くだけなのに、疲れてしまうな」


「まだまだ、長くなりそうだな」


「俺達だけで、何処か行くか」


「でも、女性達だけだと心配だし」


「そうだな、早く終わらないかな」


その時、子供の猫人族が隼人にぶつかりすりぬけていく。


「あ、ゴメン急いでいるから」


そのまま走り去ろうとしたので、咄嗟とっさに僕は腕をつかみ止めた。

普通の子供に猫の耳としっぽが付いていた。

服はボロボロ、靴も履いてない、見た目からまずしいんだろうと感じる。

だけど、見逃す訳にはいかない。


「兄さん、何するんだ、急いでるんだから離してくれ」


「翔、ちょっと当たっただけだから、捕まえる必要は無いだろう」


「隼人、だからダメなんだよ」


「何がダメなんだ」


「街の中でも油断するなってこと、隼人、財布持っているか?」


「ちゃんとポケットに...、無い!」


「離せ!」


「財布を返したら、離してやる」


「泥棒したら、奴隷に落とされること知っているのか」


「お、お願い、それだけは勘弁かんべんして財布は返すから」


「どうする、隼人」


「お前、名前は?」


「...」


「言わないと、衛兵に突き出すぞ」


「...ラミア」


「よし、ラミア、お前は奴隷行きだ!」


「嫌だ!ちゃんと名前言ったじゃないか」


よほど捕まるのが嫌だったのか、ラミアは突然暴れだし僕の腕を引っき、ひるんだすきに逃げていった。


「隼人、あまりからかうなよ、僕に被害がおよぶだろ」


「翔、悪い、どうする追うか」


「そうだな、何か理由があるかもしれないけどこのままスリをやっていたら、本当に奴隷に落とされそうだしな。

あんな子供が犯罪を犯すなんて...、何とかしてめさせたいしな」


「翔、追えるか?」


「ああ、問題ないマップに映ってるから大丈夫だ」


何故か、他の人のマップには索敵機能が無いみたいで、僕のメニューだけが皆と違いいろいろ優秀な事が分かってきた。

ラミアを捕まえた時にマーキングしておいたから、何処へ逃げようとも居場所を特定する事が出来る。


「女性達はどうする?」


「追跡して調べるだけなら翔一人で大丈夫だろう、俺達は女性達を護衛しておくから」


「分かった、隼人、回りには気を付けろ」


「分かってる、もう油断しない」


「じゃあ、行ってくる」


僕はマップを確認する。

ラミアで検索すると、街の北の方に移動していた。

僕も急ぎ足で街の中をすり抜けていく。

街の中心街を抜け北の方に行くにつれ、段々、街の景色がさびれていく。

旧市街地といった所か?

新しい建物はなく、殆どが直ぐに崩れそうな建物や古い建物が建ち並び、ここに立ち入る人は居ないのか、人通りも疎らで数人とすれ違うだけだった。


マップで確認していると、ラミアの動きが止まった。

近くまで来るとどうやら一軒の家の中にいるのようなので、少し遠くから様子を見ることにした。

便利なスキル『遠視』で。


窓が開いていたので、そこから入り回りを見渡すと子供達が20人いるのが分かった

そしてその中にラミアの姿がああった。


最初、学校かと思ったが違うみたいで、どうやら孤児院みたいだ。

大人は居ないようだが、ラミアは子供の中では年上みたいで、面倒見めんどうみのよいお姉さんって感じかな。


そこへ、一人の大人の女性が現れる。

姿は、よく見る修道女の格好をしており、若くて顔は美人というよりは可愛いと思う。


「お昼の用意が出来ましたよ」


昼食なのか大人の女性が食事を運んで来たみたいだ。

大人の女性が一人ずつスープを渡す。

『えっ、スープだけ?』

中身をのぞくとは、ほとんど無く水で満たされていた。


それでも皆、感謝の挨拶をして食べていた。

子供達を一人ずつ見ていくと、やはり栄養不足か、身体はせこけて、ガリガリな感じがする。

明らかに食事が足りず栄養失調の状態だ。


「お母さんは食べないの?」


「私はお腹空なかすいてないから、遠慮なく食べなさい」


僕は見ているだけで泣きそうになる所をこらえていた。


食事を食べ終わり、皆でかたずける。


「今から、夕飯に薬草を取りに行くけど手伝ってくれる人いるかな」


「はーい、お母さん私が行きます」


返事したのは、ラミアだった。

他の皆は、栄養不足か動く気力が無いようだった。

お母さんとラミアは、出かける準備をしている。

ここは僕が足長おじさんになるかと思っていたら、一人の男が家に近いていく。


『コンコンコン』


「お邪魔しますよ」


男は勝手に家の中に入ってくる。

それを止めようとお母さんと呼ばれた女性は玄関で男と話をしているようだ。

話が聞こえない、もう少し近いて話を聞いてみるか。


「もう少し待てませんか」


「すまないが、ここら一帯立ち退きが決まっているだ。

あとは、あんたらだけなんだ」


「ここを出て行ったら、いく宛が無いんです」


「それで何日いるつもりか」


「...」


「回りの家から、壊していくから近日中に出ていってくれ」


「そんな、何処へ行けというのですか」


「スラム街でも行ったらどうだい。

かく、ここを壊す前に出て行ってくれよ」


そう言うと男は何事もなく帰っていった。

何て酷い奴なんだ。

ありふれた立ち退きの話だが、もう少し考えてくれないのか。

お母さんは泣き崩れて、その回りに子供達が集まって来る。

これじゃ、悪い事と分かっていてもスリや泥棒しようとするよな。

可哀想すぎるから僕が面倒見るか、でもそう言った話が広がれば私達もと言って多く集まり過ぎて、僕1人では面倒みれないほど来るかも知れない。

だけど目の前で困っている人をみたら僕には見捨てる事が出来ない。

一度、皆に相談するか。


街で買い物をしている仲間と合流して相談してみた。

僕が立ち退きにあっている子供達をフルールイルに連れて行きたい事を伝える。


「翔は、そういうところあるよな。

募金とか、お金も無いくせに躊躇なく入れるし」


「それで、何人かは救われると思ったらいいじゃないか」


「でも、孤児の人を助けるとなると、次から次に増えて最後はまかないきれなくなるぞ」


「それでも、目の前で困っている人を見過ごすことは僕には出来ない。

全部を助けることは出来ないかも知れないけど、助けられる人は助けたい」


「翔らしいと言えば翔らしいが、まあ、俺達が反対しても連れていくだろうから、反対はしない。

あとは、セレナさん達が何て言うか」


「分かった、ありがとう、皆、セレナさんに聞いてみる」


早速、セレナさんに聞いて見たら、人手不足だから将来を見越して連れてきてもいいと言うことだった。


僕は、孤児院のドアをノックした。

中から出て来たのは、ラミアだった。


「あ、お前は!俺を捕まえに来たのか」


逃げようとしたので、慌てて話を進める。


「いや違う違う、いい話があるんだが、お邪魔してもいいかな」


「何か、怪しいな」


「そんな事ないって、話だけでも聞いてくれないか?」


中に通され、リビングにあるテーブルに着く。

テーブルには、お母さんとラミアだけ、あとの子供達は別の部屋にいる。


ラミアはお母さんにスリの件を告げ口されるのではないかと、ソワソワしているようだ。


「立ち退きをせまられているのをお聞きしまして」


「何故、それを」


「ある人からです。

フルールイルという街があるのですが人手不足で、そこで皆さん行き場がないということですので、新しい街で暮らしませんか」


「ありがたい話ですが、今は余裕がなくて新たな場所で生活する資金も、それに移動する為のお金がなくて」


「その心配は要りません。

移動には馬車を用意しますし、暫くは僕らと同じ家に住むと思いますが、新しい家も用意します」


「本当でしょうか」


「はい、この命にかけても」


「嘘でも行くところ無い私達ですので、信じるしかないので付いていきます」


「ちょっと待ってお母さん!

それは立ち退きさせる為の罠じゃないの?

私達をここから連れ出して、別の街に捨ててそのままっていうこともあり得るのじゃない?」


小さいながらにラミアは、キチンと物事を考えているようだ。

確かに悪者の立ち退き屋なら、それくらいしそうだけど。


「ラミア、失礼な事を言わないの」


「だってお母さん、私達、住む所が無くなったら何処に住めばいいの?

ねぇ、お母さん!」


「大丈夫よ、この人達は信用出来るわ」


「どうして?」


「立ち退きさせたいなら、わざわざこんな面倒な話をしなくても、私達を縛って連れ去り、森なんかに捨ててしまえば、あとはモンスターに襲われて跡も残らないでしょう」


「モンスターに...」


「だから、信頼出来るよ思うわ、私の勘だけどね」


「お母さんの勘...」


「うん、大丈夫よ、ラミア。

ああ、この出会いに神に感謝します」


「それではまずは食事にしましょう。

この状態では、フルールイルまで体力が持たないようなので」


僕は隼人達に連絡をして、馬車でくるように頼んだ。

歩くことも困難な子供もいるので、馬車で商店街まで行くことにした。



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