7 話し合い
僕はあの時の出来事、全てを思い出していた。
そうだ、あの魔法陣の所為か...、あの時の事が昨日の事のように鮮明に思い出された。
僕は左手に目を移し、左手の甲にあるアザをじっと見つめる。
そうか、この左手にある黒いアザは、木の破片が刺さった跡か...。
「あの魔法陣は、元の世界とこの世界を繋ぐものだった。
だから僕の血が魔法陣にかかった瞬間、魔法陣が発動し光り輝き異世界へと来てしまった。
この世界に繋がったのは俺の所為か...」
「いや、それはたまたまだろう。
確かに誰かが魔法陣に血を垂らさなかったら、この異世界に来る事もなかっただろう。
でも竜巻が出現した時点でおかしいだろう。
突風はいつも吹いてるけど竜巻なんて始めて見たぞ。
その時点で、異世界に繋がることは確定していたのかも知れないな。
そもそも魔法陣を描いた事、事態が間違いだったんだ。
それに皆で決めた事だろう。
まあ、今さら言っても、どうしようもないけど」
「それでも、やっぱり...」
「何グズグズ言っているんだ!
俺は異世界に来て楽しいよ、なんたってゲームの世界みたいで、剣も魔法も使えるんだぞ。
俺は、この世界に来た事に感謝しているよ」
やさしいな隼人は、いつも何かあれば助けてくれる。
僕にとって唯一信頼できる友達だ。
だから、いつまでも親友と呼べるのかも知れない。
「これからどうするかだが、俺だけはもう傭兵団に入団している。
だってせっかく異世界に来たのに、何もせずにはいられないだろう。
残念ながら異世界に来たらチートなスキル持ちとはならなかったけど、早くこの世界に慣れないといけないと思うんだ」
他の皆は黙ったまま沈黙しているが、そのまま隼人が話を続ける
「俺の目的は強くなって、この世界に飛ばされた仲間を探し出す事だ」
「でも、傭兵団に入ったら戦いに巻き込まれるし、下手すれば相手の命を奪わないといけないことも出てくるだろうし」
「祐太、強くなる為には仕方ないと思う。
相手を殺らないと、自分が殺られるからな、こうしている間にも、クラスメイトが殺されているかもしれないんだぞ」
確かにそうかも知れない、だが相手を殺すという行為に抵抗を受けていた。
平和な日本に生まれたせいだろうか、世界の何処かで戦争はいつも起きている。
皆、自分の家族や友人、国を守る為、争いは起きる。
だけど、いざ戦いになって自分が出来るのだろうか?
それより元の世界のように平和でのんびりと生活が出来ないのだろうか?
納得出来ていない自分がいた。
「戻れる方法も分からないし、戻れるかどうか分からない。
この世界に来たからには、この世界の法則に従って行くしかないのではないか!?
ここを出て、行く宛なんて無いんじゃないか?」
確かにそうだけど、隼人は強いな。
僕はとてもじゃないけど、まだこの世界に順応できていない。
自分では、どうすればいいのか決めかねていた。
というより、他人の意見に付いていこうとしていた。
自分の意見を言わず、周りに合わせ少数派にならないようにしていた。
それが僕の当たり障りのない生き方だった。
でも、また他人の意見に流されて、なあなあとこの異世界でも生きて行くのだろうか。
この異世界に来て、変われるチャンスかとも思えた。
「皆はどうする?」
「まだ決めていないけど、隼人くんの話には賛成かなぁ。
友達が大変な目にあっていると思ったら、助けなくちゃって思うのが当たり前だから...」
紗耶香ものほほんとしているわりに、しっかりしているな。
こっちに来て変わったのか、それとも今まで上辺だけしか見ていなかったのかも知れない。
話し合いは、夜遅くまで続いだが、なかなか結論が出なかった。
今日は夜遅い事もあり、僕には、いろいろあり過ぎてとても疲れていたので、話は明日に持ち越しになった。
部屋は、それぞれ一人一部屋は十分あるみたいで、その中の空き部屋の一つを僕の部屋にした。
中はシンプルな作りで、6畳ほどの広さにベッド、机、椅子、窓が1つずつ付いていた。
疲れ過ぎてベッドに倒れ込む。
意外とベッドは柔らかく、草原の匂いがした。
これならゆっくり休み、疲れがとれそうだ。
夢なら覚めてほしいと思いつつ、いつの間にか眠りについた。