68 婚約者
宴が終わり、ラウージャ達は帰り支度を始めている。
「翔くん、今日はいろいろありがとう。
相手国への訪問日程が決まり次第、連絡するから」
「こちらこそ王子と知らず、すいませんでした」
「王子とか、畏まらなくてもいいから、ただの肩書きだから」
「いえいえ、そういう訳には行けません」
「それが翔くんらしさか、それじゃまたね」
ラウージャは、両脇を衛兵に捕まえられて馬車に乗り込む。
「子供じゃ無いんだから、離せ」
「そういう訳にはいきません。
また、逃げる気でしょう」
「な、そんな事は…」
図星だったらしい。
この国の王家は、どうなっているのだろうか。
影が護衛しているからといって、一人で外出したり、誘拐されそうになったり、ラウージャは誘拐されていたか、呑気な王家だと思った。
衛兵に守られた馬車が進み出す。
ラウージャは、手を振ってくれているようなので、僕も手を振って返した。
見えなくなるまで振り続けた。
あれ、そう言えば、ラウサージュが居なかったような?
振り返ると、セレナ達と一緒にラウサージュがいる。
紛れ混んでいたので気付かなかった。
「ど、どうしているの?
一緒に帰ったんじゃなかったの」
「それは…、えっと…」
何か言い出しにくいのか、もじもじして話が進まない。
「拙者が、説明するなり」
不意に後ろから声がして、ちょっとびっくりした。
「影虎さんも、何故残っているのですか」
「それを説明するなり。
国王から婚約したのだから、相手のことをもっと知らなければならない。
花嫁修業として、翔くん達と暮らすように言われたなり」
「ふ~ん、って一緒に暮らすと言うのですか?」
「そうなるなり」
「影虎さんもですか」
「勿論なり、ラウサージュ様の影なので、拙者も一緒に暮らすなり」
「まだ、お互い好きとか嫌いとか、そういう段階でもないのに、同棲するなんて」
「翔くんは、ラウサージュ様のこと嫌いなのかなり」
「嫌いではないです、美人だし、でも結婚となるとまだ決められないと言うか、他の人と結婚したくなるかも知れないし」
「翔くん、優柔不断はダメなり。
別に、この国では男女問わず、何人でも結婚していいことになっているから、他の人と結婚しても大事なり。
例えば、拙者とでもできるなり」
「え、影虎さんって女性なのですか」
「そうなり、今頃気付いたなりか」
忍者の格好して顔を見えないように隠して、目元しか見えないから分からなかった。
「そう言うことで、よろしくなり」
取り敢えず、自宅に連れて帰るか。
同棲と言っても、皆いるしホームステイと思えばいいか。
「セレナさん、取り敢えず自宅に戻ります」
「そう、それじゃ今日も歓迎会と騎士団昇格祝いで、宴会やるから夕方には、広場に集まってね」
「まさか、王女様に歓迎の儀式するのですか?」
「いやいや、まさか、王女様にやったら国から追われることになるから」
「ですよね、王女様行きますか」
「翔くん、王女様はやめて、ラウサージュと呼んで」
「ハイハイ、分かりました。
自宅に案内しますので、付いてきて下さい」
僕は、ラウサージュと影虎を自宅に案内する。
すると自宅前で、皆が何やら相談している。
「ただいま」
「あ、お帰り翔くん」
「お帰り」
「そちらの方は?」
「始めまして、私はラウサージュと言います」
「拙者は影虎なり、よろしくなり」
同級生がそれぞれ挨拶をしている。
「それでどうして、皆、外にいるの?中に入らないの」
「そ、それは」
「そう言えば、博を見つけてここに来ているはずなんだけど、中にいるの」
僕は、家の中に入ろうとしたら隼人が、
「翔、今は入らない方がいい、とばっちりを受けるぞ」
「どういうこと?」
「窓から、こっそり覗いてみる」
すると、中には紗耶香と博、そして恒明さんがいる。
何やら、言い争いをしているように見えるが、中の様子を伺っていると、
「もう、しつこいわよ、博」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか、マイハニー」
「何、バカなこと言わずに、早く掃除しなさい。
もうすぐ翔くん帰って来るんだから、キレイにしなさい」
「分かっているさ、でも掃除ってなれてなくて」
「博様、私が掃除致しますので」
「恒明さん、邪魔しないでもらえますか、そんなに甘やかすから、掃除も出来ないんです。
外に出てて下さい」
紗耶香っておっとりしてるかと思ったら、意外と恐いんだなあと僕は思った。
怒らせないように気をつけよう。
恒明さんが、追い出されて家の外に出てきた。
「これはこれは、翔様お帰りなさいませ、この度は大変お世話になりました。
お陰で恙無く暮らしております」
「そんなに堅苦しくしなくても、ここの生活慣れましたか」
「はい、お陰様で」
「で、あの博と紗耶香は…」
「いつものことです、気になさらないで下さい」
「あ、そうですか」
まだ一時は、自宅に入れないだろうから、この拠点、街になったからフォレストパレスと呼んだ方がいいか、ラウサージュと影虎を案内して回った。
結局、案内して回ったら夕方になったので、広場へ直接向かった。