65 ラウージャ
砦まで1キロメートルまで近づいたので、マップで確認してみるが、砦がギリギリ写っている程度なので、山賊の赤色と捕まっている男の灰色が混ざって、山賊が何人居るのかも分からなかった。
どうにかならないか、いろいろやってみた時、気付いた。
『ん、マップの砦に触れるみたいだ』
マップの砦に、意識を集中させると『あ、開いた』
砦に居る人数が出るみたいだ。
赤色の人数56人に、その下に分かって居る人の名前とレベルが並んでいる
そして下の方に灰色、捕まっているはずの人物の名前とレベルが出ているが何故か2人になっている。
捕まっていた人は一人しか居なかったはずなのに見落としたか、もっと近づけばマップで確認出来るだろう。
森の中を静かに移動し近づいて行く。
砦まで100メートルの位置までやって来た。
砦自体、草木に覆われて見付けにくいし、蔓が砦に巻き付いており、自然なカモフラージュになっていた。
砦の場所が分からないと、まず見つけるのは困難だろう。
良い住みかを持っていると感心してしまう。
見張りの人数も、先程、見た映像の時より少なくなっていた。
中での宴に参加しているのか、それとも砦のまわりを巡回しているのか。
マップで確認するが、砦の外には居ないようだ。
砦をマップで確認、近くなると立体的にも出来るようだ
今、外に16人、一階に40人同じ部屋にいるみたいなので、宴に参加しているに違いない。
あと地下に灰色2人、やはり最初、見たときは一人しか居なかったのに誰か助けに来たのか、それとも助けに来て捕まったのか。
しかし、そのわりには動きがない。
逃げるタイミングを見計らっているのか、捕まって動けないのか。
もう少ししたら、日が暮れそうなので日が落ちてから行動しようと思い離れて待つことにした。
日暮れまで、何もすることが無かったのでメニュー画面を確認していた。
いつの間にか、なれる職業も増えていた。
精霊使い、魔獣使い、ドラゴン使い、剣士、シーフ、アサシン、魔法使い、召喚魔法使いなどいろいろある。
スキルもいろいろあるが、何を獲得すればいいのか分からなかったが、まだ4つしか取得していなかったので、残りのスキルポイント60近くある。
まずは、耐性を取得しとくか。
毒、麻痺、睡眠、魔法、物理耐性を獲得。
あとスキル、何があるのかな。
疾風迅雷、心眼、不可視、看破、跳躍、剛力を取り敢えず使えそうなので取得。
魔法は…、スキル振らなくても色が付いているのは使えそうだ。
武器は、人殺しは避けたいので、木で武器を作ることにした
昔、アクション映画で見たようなL型の棍棒を、固さ、形を探して二個作ってみた。
まあ、こんなものかな、リングボックスに入れていたパンをかじりながら日が落ちるのを待っていた。
ボックスに入れていたら、荷物にならないし腐らないから便利だな、どういう仕掛けになっているか分からなかったけど、魔法の世界だからと思い深く考えなかった。
辺りが暗くなり始め、森が暗闇に包まれ、薄気味悪い鳴き声が辺りに響きわたる。
暗闇の中、浮かび上がる砦は、まさに幽霊が出てもおかしくないほど薄気味悪かった。
『そろそろいいだろう』
僕は、怖さを振り切るためにも、早々に『スキル暗視』を使い、暗闇だった周りが昼間のように明るくなった。
これで怖さも無くなってほっとし安心感が漂う。
いや、まだ山賊達がいる。
僕はもう一度気合いを入れ直し、心を落ち着かせた。
静かに砦付近まで近づくと、外の見張りは5人まで減っていた。
5人ならいけるか、なるべく殺しはしたくないので気絶させることにした。
まず玄関入り口を見張っている一人を、素早く近づき首後ろを手刀で一撃、敵はそこまでレベルが高くない為、一撃で気絶させた。
そして起きた時騒いだり、逃げたりしないように、エルダに手と足に石でできた枷をつけて、叫ばれても困るので口も塞いでもらう。
1番上の屋根まで一気に駆け上がり、二階屋上にいる一人をみぞおちで気絶させ同じように枷を付ける。
あとは、下に見える一階屋上に二人を上から飛び降り、『スキル疾風迅雷』素早く動き二人をほとんど同時に気絶させる。
『エルダ、枷お願いね』
『アイアイさ~』
あと一人は、裏側にいる残り一人も気絶させ枷をはめた。
さてと、外の見張りはこれで倒したはずだけど、あとはどうやって中に入るかだが、正面から素早く入るか、なるべくなら戦闘は避けたい。
中では宴会の真っ最中だろうから、見張りが倒されているのに気付くには、まだ時間外かかるだろう。
マップ画面を見ているが、一つの部屋に皆集まっていて、地下に入る部屋には誰も居ないようだ。
玄関から奥の部屋に抜けてもいいが、途中で山賊達に見つかると面倒なので、外から壁に穴開けるかと考えた。
地下室のある場所は土の下に埋まっているので、土を掘り出し壁を開けるよりも、1階部分の壁に穴を開けた方が断然早いと思った。
『エルダ、この壁、音がでないように壊せる?』
『任せて下さい、ご主人様』
『砦が壊れないように、通れるくらいの穴でいいから』
『はーい』
エルダが壁に触れると、まるで砂のようにサラサラと崩れ、穴が開いていく。
凄いな、そんな事も出来るんだ、改めて精霊達の力に驚かされる。
『もういいよ、ありがとうエルダ』
『はーい』
僕は、開いた穴から部屋に忍び込んだ。
マップで確認した通り、1番奥の部屋には誰も居なかった。
地下へと続く道を塞いでいる蓋をそっと開け、地下に入る。
勿論、侵入したのがバレないように蓋を元に戻す。
スキル遠映で見た景色と同じなので、前に来たような錯覚に陥るが、まずは人質を助けようと思い、人質のいる部屋に向かった。
部屋に入ると、縛られた男が一人だけだった。
しかし、マップ画面で確認するとやはり二人になっている。
前にもあったな、そうだ影虎さんだ。
そこに居るのに見えないという、そういうスキルだろうか。
僕は『スキル看破』を発動させる。
すると縛られた男の後ろに、忍者の格好した人が透き通るように見えた
取り敢えず、男の人の縄をほどき自由にした。
「ありがとう、助かったよ一時はどうなるかと」
「もう少し静かに話してもらえますか、上に山賊達がいるので」
「これは、すまなかった、私はラウージャという」
「僕は、翔と言います」
「ああ、キミが翔くんか」
「え、知っているんですか?」
「あ、いや、キミに会いたいと思ってね」
「そうなんですか、何か用があったのですか」
「そういう訳ではないんだが、ここを出てから話そう」
「その前に、後ろの人も紹介してもらえますか」
「!、…流石、翔くん、こんなに早く見抜くとは、姿を現して挨拶して」
すると後ろにいた人物が透き通っていたのから、段々濃くなって浮かび上がってくる。
「私、影龍と言います、よろしくです」
忍者で、影虎と影龍同じようだけど兄弟、それとも知り合いかなぁと思い聞いてみようとしたが、今は脱出が先なので後回しにした
「急いで脱出しましょう」
「待て、翔くん」
「何ですか?」
「この隣の部屋見たか?」
「はい、見ました」
「そのまま行くつもりか」
「だって、早く脱出しないと」
「翔くん、山賊の持ち物は、誰のものでもない。
山賊をやっているだけで、殺されても文句も言えない立場なんだ
だから、山賊を殺しても罪に問われないし、山賊の持ち物を取っても罪に問われない。
この宝物の権利は、今、翔くんにあるんだぞ」
「それはラウージャさんにもあるのでは?」
「私は捕まっていただけだった、その権利はないし、貴族だから、こんな端金いらない。
翔くんは、今からお金必要になってくるのじゃないか」
確かに、同級生の為、傭兵団の為、自分の為と考えたら、この前のクエストで貰った金貨100枚では全く足りない。
お金は、沢山あった方がいいが…。
「でも、こんなに一杯どうやって運ぶんですか」
「それは、指輪を使えばいいだろう
リングボックスには、容量制限があるけどこのくらいは入るだろう」
「なるほど、でもこれ全部貰っていいんですかね」
「遠慮せずに、全部持っていきなさい」
「それじゃ、遠慮なく」
僕は、宝物庫にある宝物を一つ一つ指輪の中に入れていく。
まとめて一度に入らないのが不便だな。
全部入れ終わるのにかなり時間がかかった。
「よし、では行こうではないか」
来た道を戻り、地下から一階に昇る蓋を少し開け回りを確認する。
よし、誰も居ないようだ。
ゆっくりと蓋を開け、一階に出る。
あとは外に出るだけだ
「逃がしはしないぜ」
しまった、いつの間にか山賊達が取り囲んでいた。
「俺達の宝物と人質を返してもらおうか」
「何故、気付いた」
「宝物に手出ししたことがいけなかったな
探知スキルに気が付か無かったか」
そんなスキル有るんだったら、先に教えて欲しい。
囲まれたが抜けられるか、ラウージャはレベル40、影龍はレベル56、ちょっと厳しいか
幸いにも部屋の中なので全員が入れるわけではない
せいぜい10人くらいしか入れないだろう
「影龍は、ラウージャを守って」
「翔くんは、どうする?」
「やるだけやってみます」
そう言うと、僕は作っておいたL型棍棒を取りだし、構えると、同時にスキルをかける
『疾風迅雷、心眼、看破、剛力…』
覚えているスキルをほとんどかけた。
「では、行きます」
僕は独りで山賊に突っ込んだ。
山賊達も一気に襲いかかってくる。
スキルのせいだろうか、山賊達がスローで回りがよくわかる。
狭い部屋で斧を振り回そうとしているが、ここでは、無理だろう
そう思いながら、斧を棍棒で弾きもう一方で横腹を強打する
『ゴキ』
鈍い音がした、確実に骨が折れその場にたおれ戦線離脱する
次は右側が早いか、斧が振り下ろされるが余裕でかわしながら、腕と足に棍棒を叩きつける
「グア」
痛みで倒れこんだ
左右同時に来たが、右側は右手の棍棒で、左側は左手の棍棒でそれぞれ腕を叩く
骨が折れただろう、斧を落とし倒れ込む
スキルかけすぎて、打撃が強すぎるか?と思うが、死ぬよりましだろと言い聞かせ、全力で叩いていく
端から見たら、映画の殺陣の場面のように見えるだろう
次々と交わして叩き、すり抜けては叩きして確実に一人ずつ倒していった
残り半数まで来ていた
「化け物か」
そう言うと、山賊達が逃げ出そうとしていたので、エルダに言って逃げられないように土壁で回りを取り囲んで貰った
あとはもう逃げ腰になっていたので、エルダに一人ずつ動けないように、岩石で固定して貰った
「ふぅ、これでもう大丈夫です」
「おお、目の前で見ると予想以上だ」
「そんな事ないですよ、まだまだですよ」
「それにしても、山賊達を何故殺さない」
「僕は、出来れば殺しはしたくないんです」
「甘いな、翔くんはそうかも知れないが、こいつらは人を殺して金品を奪っているんだぞ
もし、こいつらを生かして逃がしたら、翔くんに仕返し行くかも知れない
もしかすると、翔くんではなく回りの誰かかも知れない
まあ、今の状態じゃそんな事思わないだろうが、その事は忘れないで欲しい」
僕は、言い返せなかった
確かに、仕返しに来るかも知れない
回りに迷惑がかかるかも知れない
でも、それじゃ今までと変わらないのではないか
答えは見つからない、答えが出る日は来るのだろうか
ラウージャが声をかける
「何されてるか考えている
今が大事だから、今生きることだけ考えればいいんだ」
そんな簡単では、ないと思うが
「あと、今、街の衛兵に連絡したからすぐ来るだろう」
「そう言えば、何故ラウージャさんは捕まっていたのですか」
「王都のバーで、白銀傭兵団の拠点に行く為に、傭兵を探していたんだが、どうせ誘うならヤローじゃなく女性がいいだろう
それで、お酒でも飲みながら口説いていたら、いつの間にか縛られてこの状態よ」
「私が捕捉します、口説いている途中に睡眠薬入れられて眠ってしまったのです
そして山賊達がやって来て、連れ去られたということです」
「影龍、分かってるなら何故助けない?」
「それは、いつものことでしょう
女性にだらしなくお酒飲んでばかり
たまにはきちんとしたらどうですか」
「俺は、ただ女性に優しくしているだけだぞ」
「そうでしょうか、今回だって何の為に白銀傭兵団の拠点まで行くのですか」
「そ、それは翔くんに会いに」
「なら、もう達成しましたから、戻りますか?」
「い、いや、折角だし、拠点まで」
「違うでしょ、美人と噂のエルフ三人姉妹に会いに行くんでしょ、女たらし」
「いいじゃないか、なあ翔くん美人に会いに行って何が悪い、目の保養の為に行くのだ」
僕に振られても困るんですけど、押し問答が一時間近く続き、その間に衛兵達がやって来た。
僕たちは衛兵が来るのと同時にそっと逃げ出していた。
何故かラウージャがそそくさと逃げたしたので付いていった。
「何故、逃げるんですか」
「僕は、衛兵が苦手なんだ」
「ラウージャさん、何か罪になることしたのですか」
「私がそんな事するわけがない
とにかく、拠点へ案内してくれ」
僕はセレナさんに連絡を取り、連れていってもいいか尋ねたが、翔くんがいいならいいよと言うことだった。
あまり近づけたくない人物だが、連れて行かないと付きまとわれそうだから、連れて行くことにした。
勿論、森の中をまっすぐ進む。
マップでは、拠点まで10キロメートルのところに今いる。
のんびり狩りでもしながら、ゆっくり進もうと思った。