64 山賊砦
僕は城門を抜け街道をのんびりと歩いていた。
まだ王都の近くということもあって、比較的行き交う人は多い方だ。
大きな荷物を載せた馬車や荷物を担いだ人々とすれ違って行く。
「最近、いろいろあったけど一人旅も良いかも」
僕は、始めての1人を満喫していた。
何処か出かける時は、いつも誰か隣に居たけど今回は1人、ちょっと寂しいような気もするが、これからは1人で動くこともあるかも知れないから、自分に練習だと言い聞かせ歩いていると、精霊達が声をかけてきた。
「マスター、そろそろ人の姿に戻っていいですか?」
そうだった、1人だと思っていたが精霊達がいた。
いつも誰かが隣にいることに慣れすぎて、1人だとやっぱり何だか落ち着かなかった。
精霊達が居ることで安心してしまう自分がいる。
元の世界では、1人で居ることが当たり前だったのに、異世界では皆と居ることが当たり前になってきていた。
環境の変化で、僕自身も変わったのかも知れない。
それとも人間、1人では生きていけないのだろうか。
王都から大分離れ、人通りも疎らになってきていたが、念のため街道脇の茂みに入り、周りに人が居ない事を確認して、精霊達に話しかけた。
「ああ、もういいだろう」
「やった、人の姿じゃないと触った感じがしないんだよね」
「ちょっとまて、今聞き捨てならないこと言わなかったか」
「え」
「見えないことを良いことに、僕に触っていたのか」
「え~、何の事かな~」
精霊達が惚けているが、見えるように人の姿にしとかないと、何されてるか分かったものじゃない。
精霊達が人の姿になると、何だか家族旅行みたいだ。
ウェスタが母親、あと子供を三人連れて歩いているように見える。
このまま街道を、サンピースを通って拠点へ行くと遠回りになるから、この付近に強い魔獣は滅多に現れないので、拠点まで森の中を突き抜けてみることにした。
指輪にマップ機能も付いているから、迷うこともないだろうし、
「よし、拠点まで直線で突き抜けて行こう」
「はーい」
「ご主人様について行きます」
森に入れそうな場所を探し突き進んでいく。
まだこの辺りは穏やかで、木々の隙間から日の光も入りとても明るい、森林浴には、もってこいの場所だ。
精霊達は、誰も見てないことを良いことに、人の姿のまま飛び回っている。
見つかっても、精霊と思わずに幽霊だと勘違いされそうだけど。
暫く歩いているが、動物も魔獣も見つからない。
マップで確認するが、この辺りには何も居ないようだ。
今気付いたのだが、スキルにサーチというのがあるが(隼人がお薦めだったが)、これは半径10メートルの敵しか捕捉出来ないが、マップの索敵機能は、半径1キロメートルまで捕捉出来るし敵は赤色、味方は青色、その他は灰色になっている
マップで拡大縮小出来るが、1キロメートル以上にすると、行った事のある遠くの場所など表示されるし、通ってない場所は灰色、通っている場所はカラーで表示されている。
マップ機能の方が便利だと今さら気付いた。
隼人のやつ、無駄なスキル取らせやがって、その内文句の1つでも言わないとな。
ただメニュー欄とマップが、目の端の方に写っているのが邪魔だけど、慣れれば良いかというより慣れなければこの先、生きて行けないだろう。
マップ画面を開いたまま、移動することにした。
他にも何か、いい機能付いているかも知れない、拠点に着いたら皆に聞いてみよう。
そう思っていた矢先、マップに赤色が光った。
『敵か?赤色が一つだから一匹だけかな』
赤色だから敵だと思うけど、ちょっと気になったので赤色に光った場所へ向かうことにした。
精霊達には、僕が鍛える為だから余程不利にならない限り、手出ししないように言い聞かせた。
何がいるか分からないのが怖いな。
名前、種類、レベルとかも表示されればもっと便利なのにと思う
敵まで20メートル、そろそろ確認出来てもいい頃だけど、気付かれないように慎重に近づく。
居た、ゴブリンだ。
一匹だけしか居ないようだが、僕はゴブリンに気付かれないように後ろから静かに近づ行っていった。
2、3歩行けば剣の届く位置まで来たが、まだ気付いてないようだった。
剣を構え、ゴブリンに突撃、剣を一突きした。
「グア~」
一声叫んだと思ったら、霧散して消えた。
何だか呆気ないものだったが、緊張の為か僕の体から汗が流れているのに気付いた。
「ふぅ、やっぱりゴブリンでも戦闘は緊張する」
「マスター、それにしては剣の扱い上手くなってますね」
「そう、自分ではあまり実感無いんだけど」
「ご主人様、ゴブリンが居たということは、近くにゴブリンの住み処が有るのかも知れません」
「そうなのか、ゴブリン退治やってみるか。
ゴブリンは収集癖があるから、何か面白い物溜め込んでいるかも知れないし、精霊達、住み処がないか調べてくれないか。
僕もマップで探してみるから」
「はーい、探してきます」
「行ってきます、マスター」
精霊達が探している間にマップを操作してみる。
1キロメートル以内に敵は居ない。
5キロ圏内は、何もないか。
10キロ圏内は…、何か建物がある。
北西の方角、約6キロ位かな。
「精霊達、誰か調べて来て欲しい所が有るんだけど」
「どこでしょうか?」
「北西6キロの所に、建物が有るみたいだから調べて欲しいんだけど」
「分かりました、私が近くに居ますから調べて来ます」
「お願いね、エアル」
「任せてください、マスター」
調べて来るまで、この辺りで休憩するか。
近くにあった木の根元に腰掛け、暫くぼ~っとしていた。
森の中は静かで、何処からか鳥の鳴き声がして、時々吹く、ささやかな風が気持ちよく、木々の葉を揺らしている。
まるで森林浴だな。
周りの生命の力を感じなから、ゆったりした時間を過ごして、少しうとうとと眠りかけていた時だった。
「マスター」
「どうした、エアル」
「建物まで来ましたが、中は山賊達のアジトになっているようで、50人ほどと縄で縛られた男が一人居ます」
「ちょっと俺も見てみるから、『スキル遠映』」
自分の目の前に、今見ている風景にマップ画面、遠映画面、メニュー画面が下の方に少し透き通るように映し出されている。
画面が多くなり、少し見にくくなってきている。
エアルが見ている映像だろうか、それとも風の眷属が写し出した映像だろうか、遠映画面を見ると砦みたいな建物が見えている。
見張りだろうか、至る所に人が配置されている
種族もいろいろいるみたいだ。
建物の中に入ってみる。
誰も風になっているエアルに気付く者は居なかった。
なるほど、建物の中にもかなりの人数がいるようだ。
一階と二階、くまなく探してみたが縛られた人はいなかった。
「エアル、縛られた人居ないけど」
「地下室に閉じ込められてます、マスター」
僕は意識を集中して、画面を動かし地下室への道を探していた。
一階を一部屋ずつくまなく探すが見つからない
砦の中の山賊達は、宴が始まりお酒を飲み始めていた。
山賊達の会話である程度の名前が分かったので、レベル、ステータスなど調べたが平均レベル50くらい、僕のレベルは今63まで上がっていた。
レベルでは勝っているが、多勢に無勢、人数で襲われたらたまったものじゃない。
一番奥の部屋に入って調べるとやっと見つかった。
床に木目調で分からなくしていたが、地下に降りる階段を蓋で隠してあり、一見分からないようにしてあった
その隙間から地下に入ると中は電灯に明かりが灯され、辺りを明るく照らしていた。
電気は無いはずだから、魔法だろうか。
これが魔法なら便利だから覚えてみたい、そう思いながら先へ進む。
部屋が二つあり、一つは宝物庫で部屋一杯に財宝が溢れていた。
かなり溜め込んでいるようだな。
そしてもう一つの部屋に、いた!
見た目から位の高い貴族という印象を受けた。
一階で聞いた話によると、身代金狙いで誘拐されたみたいで、貴族を何回も誘拐して、その度金銭を巻き上げているようだ。
このアジトの場所が分からない為、衛兵も来ない。
こんな山奥では見つけにくいし、道らしき道もない為、獣道を通るしかないだろう。
これは僕が少し凝らしめないといけない。
さてとどうやって凝らしめようかな。
僕は、アジトに近づく為、山の中を動き出していた。