63 別れ
「副園長が…何故」
僕達は学園長にリベッタの件を伝えていた。
「それで学園長、リベッタの事で何か分かることありますか?」
「…それが、名前以外何も分からない」
「副園長にしたことは?」
「それも何故、副園長にしたのか思い出せない。
いつの間にか、ここにいたと言うのが正しいか」
「魔法で、精神をコントロールしたのかな」
「そうとしか考えられないな」
「リベッタについては、調べても何も分からないかもしれないな」
沙羅はこの学園に残ることを学園長伝え、僕達は学園をあとにした。
そして、その足で王都の中心部にある王宮へと向かった。
魔法学園から歩いて20分ほどの距離にある王宮が近づき、その形が見えてくる。
これが見たかった。
1枚の絵画のように美しく、時を忘れて僕は王宮に見とれていた。
ヨーロッパ風のお城、あの有名なノイシュバイン城を思い出す。
王宮の入り口まで来て、ラウドが、
「どうする?国王に会っていく行くか」
「いや、会わないで済むなら、平民がいきなり国王様会うなんて場違いな感じがするし、この国の規律なんか知らないから、変な粗相して罰せられても困る。
だいたい堅苦しいのは苦手だから」
「報酬金はどうしようか」
「そうだな。大金、持ちたくないから、直接、ギルドの銀行に振り込んでもらえるか」
「分かった、短かったけどありがとうな」
「魔法学園はどうするの」
「まだ、決めていないがもう行く必要もないからな」
「これからは、王女様と呼ばないとな」
「いや、呼び捨てでラウサージュでいいよ」
「また、会えるよね」
と僕がラウサージュに言うとニッコリと笑って、
「また、会えるよ。だってもう友達だろ」
そう言うとラウサージュは王宮の入り口で僕達と別れ、王宮の中へと入って行った。
僕は沙羅を学園へ送る為、来た道をとんぼ返りしていた。
二人で歩くの久しぶりのような気がする。
いつ以来だろうか、ほとんど会わない二人だけど、たまたま帰りが一緒だったり、親からたまには外に遊びに行きなさいと言われ追い出された時、友達なんていない僕は、よく近所の古本屋で立ち読みをして時間を潰す、そんな時もたまたまだけど沙羅にあって、一緒によく時間を潰す為に歩いて買うつもりは無いウインドウショッピングをしたり、公園、川沿いの道、海辺などよく歩いていた。
いつも待ち合わせなどせず、たまたま会って一緒に過ごしていた。
その頃から沙羅が恋人ならと甘い妄想をしていた。
たまたま会っただけなのに…、そのわりにはいつも一緒に居たような気がする。
今も僕は沙羅と一緒に歩きながら、ウインドウショッピングを楽しんでいた。
「翔くん、見て見てあの洋服、可愛くない?」
「翔くん、あの家、可愛くないない」
沙羅がこんなにお喋りだとは思わなかった。
そう言えば普段、あまり会話したこと無かったことを思い出した。
いつも一緒に歩いていたが、何を話せば良いのか分からず、会話は少なく、何を話していたのかも覚えていなかった。
僕が無口な方だからかもしれないが…
この世界に来て最初、沙羅はかなり落ち込んでいた。
今は普段と変わらないようだけど、いや、元の世界に居た頃に比べ何か分からなかったが変わったような気がする。
僕も少しずつ変わってきてるかも知れない。
沙羅と何か喋らないと思って、
「沙羅」
「どうしたの?翔くん」
「え、えっと、その、何か買ってあげるよ」
「え」
「あまり高いものは無理だけど、魔獣を倒した時のお金いくらかあるし、魔法学園を卒業するまで会えないかも知れないから」
「本当、魔法学園行っても長期連休は帰ってくるわよ、でも~、折角だから、買って貰おうかな。
えへへ、何にしようかな」
沙羅が更にハイテンションになり浮かれている。
高い物は勘弁してくれよ。
買って貰えると分かった途端にあの店、この店とスピードアップして見て回る。
付いて回るのは、結構疲れるものだな。
そして一つの露店の飾りに目が止まった。
「このイヤリング可愛くない?
私に似合うかな」
「顔が美人だから、何付けても似合うよ」
「もっと気の利いた言い回しあるでしょ。
まぁ、それが翔くんらしいかな」
「ゴメン、あまり女の子とあまり喋らないから」
「気にしないで、私、このイヤリングにする。
大人になったらイヤリング付けるのが夢だったの」
「そうなんだ、これ精霊石も付いてる。
価格は銀貨2枚、買えるけど高いのかどうか分かんないね」
「あそこの野菜屋で売っているトマトみたいなやつ、1個銅貨1枚になっているけど元の世界だとトマト1個100円位だから元の世界の価値でいうと2万円くらいかな」
「高い!精霊石が付いてるからか」
「ちなみに、今回の報酬金貨100枚になってるけどいくらになる?」
「日本円に換算すると10億円!3割引かれても7億宝くじに当たったみたいな感じだな。
一気にお金持ちになった気分だな。
よし、お金はあるから買おう。もっと高い物でも大丈夫だよ」
「んん、良いんだ。これが欲しかったから、本当ありがとう」
イヤリングを買って早速付けて歩いていた。そのあともウインドウショッピングを鼻歌を歌いながら、楽しんでいた。
そして街を抜け魔法学園の寮まで戻ってきた。
「翔くんは、どうするの?」
「取り敢えず、拠点に戻ろうと思う。
途中、魔物退治しながらのんびりと」
「いつ出発するの」
「出来ればすぐにでも出発したい」
「そう、じゃあ荷物片付けないとね」
部屋に戻り荷物を片付ける。
荷物と言ってもあまりないので、そんなに時間はかからなかった。
「一人になるとこの部屋も広く感じられるね。
玄関まで送るわ」
沙羅はわざわざ玄関まで見送りに来てくれた。
「翔くん、今日はありがとうね」
「ああ、次会うときはお互いレベルかなり上がっているだろうな」
「翔くん」
「ん」
「そう言えば、イヤリングのお礼してなかったわね」
沙羅はゆっくりと近づき、僕の頬にキスをした。
「えっ」
「じゃあね、翔くん次の連休拠点に戻るから、それまでバイバイ」
沙羅は振り返らず、そのままエレベーターに乗って上がって行ってしまった。
僕は暫く呆然としていた。
何故、キス?
沙羅は振り返らず行ったけど、どんな顔していたのだろう。
僕は少し余韻に浸りながら街の外へと急いだ。
城門のところで、何か合ったのだろうか兵士の数がかなり多くなっているようだった。
聞いてみたら、誰かを捜しているらしいが詳しくは聞かなかった。
見つけたら報奨金がでるらしいが、まぁ、そんな事どうでもいいんですが、僕は先程の事から意識を奪われ、他の事を考える余裕がなかった。
沙羅はどうして僕にキスをしたのか、そればかり気になっていた。