56 刺客
「授業って、いつもお昼までしかないの?」
「いや、単位制を採用しているから、今日は2つだけしか受けなかっただけだ。
それに、お昼から都市を少し案内しようと思って」
「わ、ありがとう、楽しみ~」
沙羅は嬉しそうにしている。
アイドルに案内されたら、喜ばない女性はいないだろう。
僕も何故か嫉妬してしまう、周りから嫉妬をを受けなければいいけど…。
「翔くんも行くでしょ」
「僕は…。」
「一緒に行くのよ」
せっかく、二人きりにしてあげようと思ったのに、沙羅から強制的に誘われてしまった。
本当はラウドと一緒に行きたいのではと思いながらも、まぁ、もう1人の護衛カンダスくんがいるのを忘れていたけど。
「一度、着替えに戻ろうか」
「学園内では、特に何もなかったな」
「そうだな、いつもなら何かしらあるんだけどな」
『マスター』
精霊からテレパシーが送られてくる。
『どうした、エアル?』
『呪い的な攻撃なら、二回ほどありましたが』
『それは、本当か』
『はい、私達が阻止しましたが…』
『呪いって阻止する事出来るの?』
『呪いにかかる前なら、打ち消す事が出来ますよ』
『そうか、ありがとう。引き続き頼むよ』
『はい、マスター』
学園内で攻撃受けたということは、内部の人間に限られてくるな、学園自体にも防御魔法がかけられているみたいだし、先生達もいることだし、まさか先生ってことはないよね
「そういえば、カンダスくんは?」
「護衛は君達がいるから、先行して罠がないか確認してもらっている」
部屋に戻ると、そこにカンダスくんは居なかった。
「あれ~、カンダスくん居ないね」
「何処行ったんだろう」
「もう、都市の方に行ったのかなぁ」
「あとで、会えるでしょ」
「僕は、ちょっとシャワー浴びるけど覗くなよ、翔」
「誰が、覗くかよ」
ラウドは、シャワーを浴びに行った為、この部屋には沙羅と二人きりになった。
「翔くんって、もしかしてそっち系の人?」
「断じて違う」
「ふーん、そうなの」
「僕は、女性が好きなの」
「へ~、いつも女性に対して素っ気ない気がして、やっぱり興味あるんだ」
「そりゃ、男だから」
「意外、興味ないかと思った。
この次、私シャワー浴びるけど覗かないでね」
「男も女も、覗かない!」
くだらない話をしていたら、シャワー室からラウドの悲鳴が聞こえた。
「ギャー!」
「どうした、ラウド」
僕と沙羅は覗くなと言われたので、シャワー室の前まで来て中にいるはずのラウドに声を掛けた。
僕達はシャワー室の中に入らず、シャワー室の前で中の様子を伺っていた。
「翔くん、行きなさい」
「でも、覗くなと言われているし…」
「ラウドくんの悲鳴よ、何かあったのよ。
女の私が行くより、男の翔くんでしょ、行きなさい!」
慌てて、僕はシャワー室の中に入る。
シャワー室の中を探すと、部屋の隅にラウドがへたり込んでいる姿が見えた。
周りを確認するラウドの視線の先、ラウドがへたり込んでいる隅と対角線の所の天井の隅に、人の顔の大きさはある蜘蛛がいた。
僕は剣を取りだし、蜘蛛をひと突き、霧散して消えた。
霧散したということは魔獣なのか、こんな所にいるなんておかしい。
入る隙間もないこの部屋、何処から侵入したのだろうか。
それとも、誰かが仕掛けたのだろうか?
「ラウド、大丈夫か?」
ラウドに近づき、手をさしのべる。
あれ、何か変だ。
タオルで見えないように隠しているが、右手で胸を左手で下半身を隠しているが、タオルが水で透き通って肌が…、そして体のシルエットが分かる。
ラウドってこんなに肌が白くきめ細かかった?
隠しているが、胸が意外とある。
あれ、え、僕は混乱しラウドに見とれて何秒間か固まっていた。
そして、ふとラウドが僕を睨んでいるのに気がついた。
「いつまで見ているのよ、早く出ていけ」
『バチィン』
左頬にビンタを食らって、正気を取り戻し、シャワー室を跡にした。
叩かれた時、はっきり見えた。
タオルを押さえていた右手を放した瞬間、タオルが落ちて女性ならではの、ふくよかな胸が…。
「どうしたのその顔、赤くなってるわよ。
何かあったの?」
「あいつに聞け…」
蜘蛛から、助けてやったのに何で叩かれなければならないのか?
まあ、普通、裸を覗かれたら叩くよな。
グーパンチじゃないだけましか。
しかし、なぜ女性を隠して男装しているのか、この部屋に魔獣がいたのか、ラウドが出てきたらいろいろ聞いてみないとな。