55 イフリート
授業が終わり休憩時間に入ると、僕の周りに人盛りが出来ていた。
「翔くんだっけ、凄いね」
「マナ量が多いと、魔法何発も撃てるね。
それとも一発に込めて、巨大魔法にするの?」
「何処から来たの~」
色んな話で、僕の周りは盛り上がっていた。
一気に人気者になり、ラウドに迫る勢いだ。
ただ、沙羅だけは、ちょっとご機嫌斜め、
「マナ力あっても、考えて使えるかしら。
毎回、学年トップ10に入っている私と、翔くんの頭、どちらが勝つでしょうね」
嫌味っぽく言われたので、『それはあなたの方が頭良いでしょうね、でもそれはあっちの世界のことで、こっちではどうですかね』と言いたかった。
でも、それを言ってしまうと気まずくなるので言うのを止めた。
隣のラウドの方を見ると、何やらニヤニヤしている。
「いや、いつもなら僕の周りに集まるのに、今回は翔くんの方に行ったから、のんびり出来てありがとう」
こちらも嫌味か…。
この辺で話題を変えないと、
「次の授業は、何かな」
「次は、精霊学だよ」
「お、精霊学か、精霊についていろいろ詳しく知りたいこと有りすぎて、授業で出るかなぁ」
「翔くんが、授業にのめり込むなんて、初めて見た」
確かに、自分でも驚いている。
今までの授業なんて面白くなくて、いつの間にか寝ていたり、ただ淡々《たんたん》と過ごしていた。
だけど、魔法学園の授業は、面白い。
元の世界には、魔法というものがなかったせいかも知れないが、今、本当に学びたいと思っている自分がいる。
何か、やっと自分のやりたい事が見つかったような気分だ。
チャイムが鳴り、次の授業が始まる。
やって来たのは、エルフの男性、見た目は黄色い髪でショートカット、色白で顔は美形だ。
エルフは、男女問わず美形顔みたいだ。
服装は、まるでピーターパンを思い出す。
名前は、シュールと言うらしい。
「精霊学と言うことで、精霊の力を借りて魔法を使ってますが、強大な力を使うとなると、それなりに器が大きくなければなりません…」
長々と話すが苦にならず、『なるほど』と思いながら聞いていた。
話を進めていた先生が、突然話を止め、
「今日は、この教室何だか精霊がざわついていますね」
その言葉に、『ハッ』と思った。
しまった、精霊達に外に出ているよう言うの忘れていた。
いや、もしかしたら僕のせいかも知れないな、そう思い様子を伺っていると、
「ラウドくんの隣の君、ちょっと来なさい」
「!」
やばい!
僕は仕方なく、席を立ち教壇に向かう。
「初めて見る顔だね」
「はい、今日から編入してきました、翔と言います。」
「翔くんか…」
先生は、右手を僕の方に向け、何か呪文を唱えているようだった。
すると、小さな精霊達が僕の方に飛んで来ようとしていたが、その光景に周りの人には、見えていないようだった。
皆、何が起きるのかを固唾を飲んで、成り行きを見守っていたら、僕と先生の中間辺りで、精霊達は沈黙し周りに消えていく。
『私達がいるのに、低精霊が使える分けないわ』
とテレパシーが飛んでくる。
やっぱり、近くにいたのか、でも見える範囲には居ないようだ。
『僕の周りに居なくても、低精霊を抑えられるの?』
『もちろんです、マスター』
『私達が居なくとも契約しているので、私達より下級の精霊達は私達の言うことを聞いてくれますよ』
『なるほど』
「ウム、私の精霊が何も反応しないとはどういうことでしょうか?
あなたの中の精霊の力のせいでしょうか。
あなたに物凄い力を感じる…、その所為でしょうか。
そうですね…、ちょっと試してみたいので、実戦してみましょうか。
皆さん、今からグランドに移動しますよ」
え、実戦?
今から何が始まるんだろう。
そう思いながら、皆と一緒にグランドに移動する。
「翔くん、準備はいいかい?」
「先生、準備って何するつもりですか?」
「どちらが精霊力あるか比べてみるのですよ、
優位な精霊がいれば、相手の精霊は沈黙するしかない。
あとは、火の精霊には水の精霊が優位に立てます。」
先生は、呪文を唱えて始める。
地面に魔法陣が浮かび、光出したと思った瞬間、
「出でよ、イフリート」
地面の魔法陣から炎の渦が湧き出て、その中からゆっくりと現れる。
身長は六メートル、炎でできた鬼という表現が正しいか。
「さあ、見せて下さい!あなたの力を」
あんな精霊どう相手すればいいんだ。
武器は、効きそうにないし、ここは魔法を使うか。
テレパシーで声をかけてくる。
『ご主人様~』
『ウェスタか、今、取り込み中』
『私を呼んでください』
『相手は、イフリートだぞ』
『大丈夫です。あんなの見かけ倒しです』
『分かった任せるぞ、ウェスタ』
『は~い』
「出でよ、サラマンダー」
声に出さなくても、直ぐ現れるのに、ついつい先生の見ていたら格好良く呼び出していたので、僕も同じように呼んでみた。
サラマンダーが、出た瞬間周りがザワついた。
姿が美人女性だからかも知れない。
男子生徒から黄色い声援が飛ぶ。
「翔くん、イフリートの格下のサラマンダーで、勝てると思いますか?
それが貴方の限界ですか…。
仕方ありません、行け、イフリートよ、すべてを焼き尽くせ」
しかし、イフリートは動かなかった。
「なぜだ、上位のイフリートよ、なぜ動かない」
その答えにウェスタが答えた。
「それは、そのイフリートがハリボテだからよ」
「ど、どういう意味だ」
「あなたは、精霊の力を借りてイフリートを呼び出している。
だけど私は精霊そのものだから、分かりやすく言えば、力を借りているのか、精霊自体を使っているかの違いだね。
だから、ハリボテのイフリートなんて」
そういうと、イフリートは精霊の力を分散されて消えていった。
「バカな」
「これが精霊の格の違いだね」
「翔くん、そのサラマンダー譲ってくれないか、頼む」
『い、や、よ、私は』
「先生に譲ることはできません」
「どうしても駄目か」
「私は、翔様と契約したから他を当たって頂戴」
「そうか…、残念だ。皆、教室に戻れ、授業再開するぞ。」
ちょっと落ち込み気味の先生。教室に戻り授業が再開する。
精霊の基本、マナの集め方、精霊の種類、精霊の扱い等とても勉強になった。
今日の授業は、午前中で終わりになるようだ。
ラウドへの嫌がらせはまだないが、自分達の存在が抑止力になればと思っている。