52 学園の寮
馬車の中、歩くよりは楽だが乗り心地は悪く、座っているだけなのでお尻が痛くなる。何より座ったまま何もすることがないので憂鬱になる。
何の変化もない外を眺めながら馬車はゆったりとした時間で進んでいく。
馬車が出発して、小一時間たっただろうか。
馬車が突然止まる。
「どうした?」
「さ、山賊が…」
前方の道を塞ぐように、山賊らしき人物達が30人ほどいる。
それぞれが武器や防具を身につけ、厳つい男達が僕達の馬車の前にいた。
「待っていたぞ、金目の物よこしな!」
今、可笑しなことを山賊は言った。僕は聞き漏らさなかった。
『待っていた』と僕達だと確信してこの馬車を狙ったのか、やはりラウドが狙われているのだろうか、村に内通者がいるか、王都に来てほしくない誰かの差し金か、誰か1人捕まえて吐かせるしか無さそうだな、となると下っ端じゃ話にならない。知らない可能性があるから、狙うはリーダー格のやつだな。
後方には、敵がいない。
周囲の気配を探ると、『いた』左右に10人ずつ隠れている。
「と、とりあえず、戦闘準備を」
そう言って、沙羅が馬車から降りそうになる所を止めた。
「待って、馬車からでると狙いうちされるかも」
「そうだ、翔の言うとおり、衛兵に任せれば大丈夫」
確かに、山賊達はレベル60、衛兵達はレベル80で10人、数では負けているがレベル差でどうにかなるだろう。
あとは、左右の敵だが…。
精霊達にテレパシーで指示を出す。
『アルケーは右の敵、エルダーは左の敵を動けなくしてくれ、エアルとウェスタは馬車を守って』
『わかりました、マスター』
『了解です。ご主人様』
「ラウド、衛兵に主犯格のリーダーは、生きて捕まえるよう言ってくれ」
「捕まえて黒幕を聞くつもりか、分かった」
アルケーは、右側の敵の手と足を凍らせ動けないようにしていく。
エルダーは、左側の敵を首まで岩で固め動けないようにした。
いきなり、動けなくなった山賊達は驚きとざわめきが止まらなかった。
誰がやったのかなんて、山賊にわかるはずもなく攻撃する前に戦意を失い、攻撃を止めていた。
というが動けないから攻撃出来ないけどね。
『完了です。ご主人様』
『ありがとう』
さてあとは、前の敵だけだが。
前方の敵に視線を移すと、やはりレベルの差で衛兵達が山賊達を圧倒していた。
「左右の奇襲はどうした?」
リーダー格が叫んでいた。
「分かりません、沈黙してます」
「使えないな、くそ」
山賊達は、次々と討たれ残り三人になっていた。
「大人しく投稿するんだ、もう勝ち目はないぞ」
「ちぇ、仕様がないな」
山賊が武器を投げた捨てた瞬間、衛兵の1人がリーダー格の男を突き刺した。
「てめえ」
「おかしら~!」
残り二人の山賊も、襲いかかってきたので衛兵達が切り捨てた。
「馬鹿者、なぜ攻撃した」
「山賊が襲ってきたから…」
「後で、説教だ」
ほかに仲間がいる為、動けるようになる前に僕達は急いでその場を離れた。
『エアル、さっきのリーダー格を刺した衛兵見張ってくれないか?』
『え~、マスターと離れたくないです。
そうだ、私の眷属を付けておくわ、いつでも繋がっているから、何かあればすぐわかります』
『じゃあ、それでお願い、何かあったら知らせて』
『はーい』
馬車を走らせ、王都が見渡せる場所まで来たが、流石、王都だ、かなりの規模だ。サンピースの街も大きかったが、王都はさらに大きい。
城壁で囲われているのは同じだが、城壁の高さ、兵士の数、建物の数どれも桁違いだ。
高い建物もあるようだが、広すぎて奥の方まで見えない。
そこから、馬車を走らせ城門までやって来た。
王都が見えていたので、すぐに到着するかと思ったが、意外に遠かった。
それもそのはず近くまで来て分かったのだが、城門の大きさが、半端なく大きい、サンピースの城門の倍はあるだろう。
城門の入り口が三ヶ所に別れており、一ヶ所は一般人用か、かなりの列が並んでる。
別の入り口の方に向かい受付している。
あとの一ヶ所は、誰も通ってないが何のための入り口だろうか?
気になったが、あとで聞けばいいかと思いそのまま通り過ぎた。
「これから、そのまま学園の寮に行くから」
「学園に寮とかあるんですか?凄いな」
周りの景色を見ながら、いろんなものが有りすぎて、興奮してあれこれ喋っていた。
入り口から10分ほど走っただろうか、学園の門が見えてくる。
門も立派で、左右の柱にガーゴイルの石碑が飾られている。
そこから、まっすぐな所に学園が見えている。
大きさは、自分達のいた校舎と変わらないくらいで、雰囲気は、ヨーロッパの城のような感じだった。
校舎の横を過ぎ、奥の方に寮があった。
「ここが今日から住む寮だ」
寮も立派で、見た目の雰囲気は先程と変わらないが、中に入ると高級ホテルかと思うくらい凄い。
きちんと受付もあるし、食堂もある、奥の方に浴場もある。
「凄いな、いくらかかってるんだろう」
「それは、貴族だけしか住めないからね」
「え、そんな所に住んでいいの」
「護衛だからね、同じ部屋になるけど」
「何だか、お姫様になったようだわ」
沙羅もかなり感激しているみたいだ。
僕も、こんなとこ一生泊まれないだろうと思う。
「僕達の部屋は、最上階10階だから」
「エレベーターまである」
受付の横にあるエレベーターが開く。
この世界のエレベーターは、どうやって動いているのだろうか?
やはり、魔法で動いているのだろうか、ちょっと気になる。
エレベーターに乗り、最上階の10階フロアにつく
「ワンフロアに、10部屋あるから部屋番号101だからね」
エレベーターを降りると廊下があり、左右に伸びている。
右側に歩き出すと部屋番号が105、104と下がっていく。
となると101は一番端か。
部屋の前まで来て、部屋の鍵を開けドアを開く。
「どうぞ、入って」
「わあ、広い」
「素敵な部屋」
「この部屋には個室が4つ、僕、翔、沙羅にもう1人護衛がいるから、それぞれ一部屋ずつ護衛は今、授業中で出てるみたいだけど、後で紹介するから、この部屋とこっちの部屋使って、リビングは共有、シャワーならここにもあるけど、大浴場は一階ね。
食事は、部屋に運ぶこともできるけど、食堂でだいたい食べる。
あとは、おいおい説明するから」
「凄いね、リビングも広いよ、30帖くらい有るんじゃないの」
「翔くん、見てみて窓の景色、街が一望できるよ」
「ほんとだ、凄いな」
「荷物は、部屋に片付けてゆっくりしててよ。
授業は、明日からだからね」
馬車の疲れも、山賊達の襲撃も忘れ、ただ今の状態に感動していた。
明日から授業ということも、護衛任務ということも忘れてしまいたかった。