5 親友
ほとんどの団員達は街に入ると同時に蜘蛛の子を散らすように去って行き、今はセレナ団長と数名、そして僕を乗せてくれた荷馬車が1台。
僕はどうすれば良いのだろうか?
ここに残っているのは数名だけ、一緒に付いていって良いのだろうか?
それともここから自分で住む場所を見つけないといけないのか?
見知らぬ土地に来て、一文無し、何も持っていない。
今まで自分でやってきた事など有るだろうか?
そう考えると、自分は学校に行くことが自分の役割だと思い当たり前になっていたのではないだろうか?
もちろん学校に行くことが将来働く為の勉強だと思っているが、学校に行くお金も食事や生活費など、すべて親がやってくれていた。
だから、勉強すること以外、何もやってこなかったし、する必要がなかった。
今、思えば何か家庭で手伝える事があったのではないか?
そう考えてしまう。
いきなり訳のわからない世界に来て、誰かに助けて貰わないと何も出来ない。
自力で出来ないから助けて貰う、甘い考えだろうか?
言葉が通じるだけでも有難いと思うべきなのか。
こんな時、自分の不甲斐なさをとても感じてしまう。
お金の稼ぎ方、人との付き合い方、自給自足のやり方など、もっと覚えていれば良かったと後悔してしまう。
行く宛もなく、どうしようかと考えていたら、セレナ団長が、
「それじゃ、翔くんも一緒に私に付いて来て。
これから傭兵団本部に行って、今回の報告と戦利品を預けるから、その後、翔くんが住む場所に案内するからね」
「あ、ありがとうございます」
良かった~。思わず笑みが浮かんでしまう。取り敢えず付いて行けば良さそうだ。
住む場所が有るだけ有難い、でもこれからの事を思うと不安になってしまう。
何もかもお任せしているようだけど、この世界の事、何も分からないし、こんな所に一人にされても僕一人では何も出来ないだろう。
生きる為には食事を取らないといけない、その為には働いてお金を稼がなくてはならない。
食事なんて作れないけど、誰か作ってくれるの?働くと言ってもどこで?
やはり傭兵団に入れて貰うしかないのか?
通貨はどうなっている?物価は?電気やガスは?今までの生活を考えると必要な物が沢山有りすぎる。
逆に言えば不必要な物が沢山有ったのではないか?
この世界にテレビ等有るわけないだろうし、ましてやパソコン、携帯電話、有るわけないだろう。
これから僕の満足のいく生活が出来るだろうか?
そんな事は後から考えれば良い、まずは住む場所だな。
出来れば個室でフカフカのベッドが欲しい。
図々しい期待だろうか?
今日1日、いろんな事がありすぎて、とても疲れた。
今は、フカフカのベッドに横になり、ゆっくりと休みたかった。
そんな淡い期待を胸にセレナ団長達はゆっくりと歩いて進んで行った。
僕は、その後ろをついて行く。
森の中へと続く道を通り、森の奥へと入っていく。
暫く行くと森を抜け、原っぱというか人工的に作られた広場が広がっていた。
広さは学校の校庭くらいの広さはある。
その広場を通っている時、周りを見ていると何処から現れたのか次第に人が集まりだした。
セレナ団長が帰還したから、出迎えの人達だろうか、無事を確認しに集まって来たのだろうか?
ほとんどがエルフみたいだが、他にもほとんどが人型で、猫、犬、兎、爬虫類みたいな体をした人もいる。
普通の人間も、チラホラと何人かいるみたいだ。
広場に集まったのは約100人くらいだろうか。
セレナ団長の人気度が伺える。
その中から、一人のエルフが歩いて近づいて来る。
白いローブを羽織り、左の目だけに丸いメガネをかけている。
髪は緑で長く、肌は透き通るような白色、見た目秀才風な美人エルフだ。
「お帰り、セレナ」
「ただいま、エレナ、ちゃんと仕事終わったよ」
エレナは、セレナ団長の後ろにいた僕に気付き、僕をじろじろと見ていた。
何だが気まずい雰囲気だ。
「また、見知らぬ人がいるみたいだけど」
「うん、入団希望者なの」
まだ入るとは言ってないのだが...、争いは嫌いだし出来れば戦争なんてしたくない。
殺しもしたくないし、殺されもされたくない。
死ぬかも知れない戦場に駆り出されて、まだ若い命を散らすつもりは毛頭ない。
平和な日本に住んでいた所為なのかも知れないが、争い事、ましてや殺し合いなんて僕には無理だ。
出来ればそんな環境からは離れて、今まで通り気楽に楽して暮らしたい。
でも、お金を稼ぐ為には働かなくてはならない。
傭兵以外、他に仕事が無かったら...。
「こちら、翔くんよ、皆、よろしくね。
ほら、翔くんも皆に挨拶して」
ここでまさかのいきなり紹介!?
100人程と言っても、こんな大勢の中で僕は挨拶した事など今までなかった。
突然の事で、緊張して手が汗ばみ冷や汗をかいてきた。
でも、これからここでお世話になるんだ、挨拶はキチンとしないと第一印象で人は決まると言うし、争い事の種にならないようにしないと、居づらくなっても他に行く所なんて無いし。
「翔です、皆さんよろしくお願いします」
「はぁ〜、捨て猫みたいに拾ってきても戦力になるかどうか、人数だけ集めてどうするの」
と眼鏡をかけたエルフは言った。
とても気不味い。
でも直ぐにセレナ団長が言う。
「大丈夫よ、放浪者だからすぐに強くなるわ」
メガネをかけたエルフが、またジッと僕を見つめている。
何かを確認しているみたいだった。
「まあいいわ、放浪者ならすぐ戦力になるでしょうから。
私はエレナよ。
戦闘に不向きだから、この傭兵団の内政、事務的な事を担当しているわ。
セレナの姉になるわ」
「姉妹ですか?」
セレナ団長とエレナさんを見比べると、確かに似ているような気がする。
エルフだから美人だと思ったが、姉妹だから美人なのか。
「あと、一番下に妹のミレナもいるけど、今は仕事の受注の為に隣の街のギルドに行っているわ」
その時、話を遮るように見知った声が聞こえた。
「翔!、翔じゃないか?」
何処からか集まった人達の間から僕を呼ぶ声がする。
聞き覚えのある声だが、何処から声がしたのか分からず探していると、誰かが叫びながらこちらに向かって走ってくる人影がいた。
「あ、隼人!」
それは、紛れもなくクラスメイトで親友の島 隼人だった。
小柄で髪は短く横は刈り上げて上は少し長い、運動神経抜群でサッカー部に入っていた。
色黒で人気は多少あったので、モテる方だと思う。
「お前も、この世界に来ていたのか?
よかったな無事で、クラスメイトがあと4人保護されて無事にこの街にいるぞ」
「そうなのか、本当よかった~。
僕も一人でどうしようかと思ってた」
セレナ団長が僕達に近づいてきた。
「何~、知り合いだったの、それなら話が早いわ。
この傭兵団の事、隼人くんにいろいろ教わってね。
住む家も取り敢えず同じでいいね。
1週間くらいの間には、入団するかどうか決めて頂戴ね」
1週間とは早いような気がするが、いつまでも居られて困るということだろう。
クラスメイトも居るようだし、皆と会ってから決めても遅くないか。
「はい、分かりました」
「セレナ団長、コイツもう連れて行っていいですか?
早く仲間に会わせたいので」
「いいわよ、仲良くしてね」
「早く行こうぜ来いよ、住居とクラスメイトに会わせてやるから」
セレナ団長と別れ、僕は隼人に付いて行った。
独りこの世界に取り残されたと思っていたが、隼人の出現で僕の気持ちは安堵していた。
それに仲間が他に4人も居るなんて、この世界に来て初めて安心感を持てたのではないのかと思った。
「ここが、俺たちの住居だ」
住居は、城門から右側へ少し離れた場所にあった。
家の周囲は森が囲まれ、空き地にポツンと家があった。
一軒家で木造平屋1階建て、建物は大きいが、家と言うよりかは小屋と言った方が近いかも知れない。
隼人はレトロ風で味わいがあると言っていたけど...。
『ガチャ、ギィ~~~~』
木材で作られた家のドアを開け、中に入るとそこは広い部屋になっており、広さは30畳くらいのリビングになっていた。
そこにあるソファーに、3人のクラスメイトが座っていた。
一人は青木 祐太、背は170センチくらいで、髪はボサボサ、あまりモテそうもない顔でちょっとポッチャリしている。
デブと言ったら腹を立てるので、本人の前ではポッチャリ体型と言っている。
運動は苦手みたいで、いつも何か食べているイメージしかない。
神崎 海斗、背は175センチくらいでメガネをかけている。
男なのにロングヘアーでガリガリではないけど痩せている。
がり勉というイメージしかない。
雪村 紗耶香、背は160センチくらいで痩せているが巨乳だ。
どうしても顔より胸を見てしまうので、顔の印象は少ないが、可愛いい方だと自分では思っている。
だいたいポニーテールにしている。
どこかぬけていて、のほほんといつもしているが怒らせたら恐いというのが印象だ。
「皆、驚け!、翔がいたぞ」
皆が、玄関から入って来た僕の方を全員が振り向く。
そして、入って来た僕の所に集まって来てくれた。
はっきり言って、記憶があまりない所為なのか、隼人以外の人物に、それほど感動という物があまり無かった。
名前と顔は知っているが、果たして仲が良かったのか?
まあ、顔見知り程度でも仲間がいれば、誰もいないよりかは安堵感が全然、違うだろう。
「皆、無事でよかった」
皆、喜んでくれて手と手を取り合いながら、一人一人声をかけていく。
僕に気にかけてくれるだけも嬉しかった。
「あと一人足りない見たいだけど」
「ああ、あと安藤 沙羅がいるけど、こっちに来たときのショックで、部屋から出て来ないんだ」
沙羅は、背は160くらいで学級委員長をやっていて、とにかく真面目、髪の毛はロングでメガネの似合う美人だ。
美人投票では、この人も上位、メガネが似合う美人投票なら間違いなくベスト3には入るくらい美人だ。
「普通に高校生活送っていたのに、どうしてこういう風になってしまったのか…」
「翔、あの時の事、覚えてないのか?」
親友の隼人が答える。
「あの時の事って?」
「ほら、高校生活の記念にって、夏休みグランドに集合したじゃないか」
「夏休みのグランド...」
ゆっくりと頭の中で、思い出そうとしていた。
思い出そうとすると頭痛がしてくるが、我慢して言葉を繰り返す。
「高校…、記念…、夏休み…、グランド…」
1つずつ思い返していくと、あの時の光景が徐々に浮かんでくる。
いつも読んで頂きありがとうございますm(__)m
少しずつ訂正させて頂いていますが、まだまだ誤字脱字、文がおかしい所なのど、多数あると思います。
そういった部分を教えて頂けると大変助かります。
ブックマーク、評価、感想等頂けるとヤマイチは嬉しくてやる気が湧いてきます(^_^ゞ





