44 サラマンダー
炎と化した赤色の髪の彼女サラマンダーは、城壁を飛び降り山賊達の前に降り立つ。
「よくも騙してくれたわね!
私の怒り食らいなさい」
そう言うと、山賊達の周り地面から何本もの火柱が吹き上がった。
火柱は、まるで自我があるかのように山賊達を動き回りながら襲い、炎に巻き込まれた人は身体を焼かれ、戦闘不能に陥っていく。
まさに阿鼻叫喚の渦の中で逃げ惑い、逃げ道はなく、あっという間に山賊達の前衛部隊の殆どが倒されていた。
「バカな、たった二人に半数を殺られるとは、一旦砦に戻って体制を整えるぞ!」
頭がそう指示して反転して逃げようとした時、後方から声が聞こえた。
「あら、もう帰っちゃうの?折角急いで戻ってきたのに」
いつの間にか、セレナさん達、主力部隊が戻ってきて退路を絶っていた。
「いつの間に後方から…、これじゃ挟み撃ちにあう。
迂回して戻るぞ」
山賊達は道を塞がれていたので、近くの森へ走って行こうとしていた。
逃げ道がないから、仕方なく森の中を突っ切るつもりなのか?
森の中を知り尽くしている僕達ならまだしも、通った事のない森を通ると言う事は、道も分からなければ、自分の位置さえも分からない。
遭難の危険性もあるはずだ。
それでも山賊達は逃げようとしているのか?
「あら、連れないわね、でも、もう帰る場所はないわよ」
「なに~、どう言うことだ!」
「あなた達が、ここを攻めてる時、私達が逆に貴方達の山賊の砦を攻め落としたという事、お陰様で守りが少なくて簡単だったわ」
「そんなバカな!」
「ほら、そんな事よりサラマンダーが来たわよ」
サラマンダーは、自分の炎を竜の形に変え大きく息を吸い込み、そして炎の息を吐く。
『ゴォォォォーーーーーー』
サラマンダーの怒りは凄まじく辺り一面、山賊達と共に業火に包まれる。
怒りの炎はなかなか消えず、一分間は燃え続け炎の消えた跡に残ったのは、灰色のローブを着た人物だけだった。
あの姿、顔は見覚えがある。
僕と番長の試合を見届けたタナトスだけだった。
それより今は番長だ。
番長も一緒に燃えてしまったのか?
「番長は?」
「一緒に炎に包まれた?」
「いや、ほら、あそこ」
少し離れた炎の及ばない所に、番長とムラサメさんがいた。
どうやら、番長はムラサメさんが救い出してくれたみたいだ。
「やれやれ、ここまで団を大きくしたのに、あの男は器じゃなかったという事か。
今回はこれ迄ですかね、またそのうちお会いしましょう。」
「逃がすか!」
セレナさんが斬りかかるが、蜃気楼のように消えてしまった。
タナトスは何者だろうか、サラマンダーの攻撃もセレナさんの攻撃も交わして消えて行ってしまった。
「おかえりでござる」
「ただいま、逃げられてしまいましたね」
「番長くんは、大丈夫?」
「命に別状はないみたいでござる」
「ベッドに寝かせて治療させましょう」
自宅に戻り、今日のことを振り返っていた。