43 ムラサメVS山賊
「俺様は、泣く子も黙る竜骨山賊団の団長ベイド様だ。
最強、最悪を目指し山賊団をここまで大きくしてきた。
勝負ごとで負けるのは、コイツが弱かった所為で仕様がないが、だがな、嘗められたままじゃ、これからの俺達の仕事に影響を及ぼす、だから落とし前をつけに来てやった。
亀みたい籠ってないで出て、俺達と勝負しろ!
わざわざ出て来てやったんだ。出てくるまで包囲してやってもいいんだぜ。」
山賊は大声で叫んでいるが、防護壁が張ってあるので山賊達には近づく事さえ出来ずにいたが、エレナさんも何も指示しないまま動こうとしないので、僕達は山賊達を見下ろすだけだった。
やはり主力メンバーのいない今、山賊達と戦うには無理があるのだろうか?
早く番長を助けて欲しいが、この状況ではただ見守るしかないのだろうか?
「主力メンバーの居ない今、出ていったら殺られるに決まっているだろう」
「隼人くん、それはわからないわよ、だって翔くんがいるんだよ」
「空、流石にあれだけのレベルの高い人数、僕には無理だよ」
「折角、助かったのに…、また逆戻り…」
山賊達に捕まり奴隷になった時の事を思い出しているのだろうか?
空は青ざめ、小刻みに震えているのが目に見えて分かる。
空の彼氏ならこんな時、抱きしめてあげるのだろうけど、僕と空はただの幼馴染でそんな関係ではない。
その為、抱きしめた途端に変態扱いされたら、たまったものじゃない。
そう思うと黙って見ているしかなかった。
「大丈夫さ、このまま籠城して主力メンバーが戻るのを待てば」
「でも、うちのメンバーより山賊の方がレベル高いし、人数だって倍はいるよ、戻ってきても勝てないんじゃないの」
「レベルは、関係ないでござるよ、それを翔くんが証明してくれたでござる」
ムラサメさんがいつの間にか僕達の後ろに立っていた。
「でも、僕の時は一対一だったから、相手に集中する事が出来たけど、あんなに集団で襲われたら一方的に殺られてしまいますよ」
「山賊なんて戦闘技術も無いただの烏合の衆でござるよ」
そう言うとムラサメさんは、ニッコリと笑みを浮かべるだけだった。
隣ではエレナさんが、何やら独り言を言ってると思ったら、どうやら通信が入ったようで誰かと話をしていた。
そして、通信を切ると、
「セレナ達が、もう、まもなく戻るそうよ」
「それじゃ、レベル差が問題じゃないこと実践で証明するでござる。
いいでござるか?エレナ」
「もう直ぐセレナ達も戻るでしょうから、いいでしょう。
少し遊んであげなさい、ムラサメ」
「あの〜、僕達も一緒に行きます」
「翔くん達は、ここから見てるでごさるよ」
「でも…」
「逆にムラサメの足手まといになるから見てなさい」
エレナの一言で、僕は何も言えなかった。
仲間が、あんなに苦しんでいるのに助けられないなんて、自分の力の無さに悔やみ、不甲斐なく思ってしまう。
分かってはいる。
僕が行けば逆に捕まって人質となりムラサメさんを苦しめるかも知れない。
それが分かっているから、僕は唇を噛みしめ、僕達は城壁の上から見ているしかなかった。
「見るのも勉強でござるよ」
そう言うと一瞬で消え去り、次の瞬間、1人、城門の前に立ち山賊の目の前に姿を現した。
「おいおい、バカにしているのか?
交渉なのか?、それとも人質になりに来たのか?」
「お前達を、殺しに来たでござる」
そう言うと、二本の30センチほどの小刀を、両手に持ち構える。
一本は刃先が紫色、もう一本の刃先は赤色をしていた。
「ガハハハハハハハ、たった1人で何ができる。
俺達が何人いるのか分からないのか?
お前達、可愛がってやれ」
「「「おーーー」」」
山賊達が、ムラサメ1人にむらがり襲いかかる。
山賊達の斬りかかった剣が、ムラサメに当たったと思った瞬間、そこにムラサメは居なかった。
「どこ行きやがった」
山賊達は探していたが、城門から見ていた僕達にも動きが全く見えなかった。
山賊達の前で消えたという事実しか分からない。
「グアッ」
襲いかかった集団の後方から声がしたと思ったら、1人の山賊が倒されていた。
いつの間に移動したのだろうか?
今度は違う所で声がして、そちらに目をやると1人倒されていた。
また違う所で1人と次々に山賊達が倒されていく。
「何処だ!」
「探せ!」
僕達も、城壁の上から見ているがムラサメさんが何処にいるのか全く分らない。
分かっているのは、山賊達が次々と倒されているという事実だけだった。
「翔くん達には、まだ見えないだろう。
ムラサメが高速で動いて切り裂いてる事を」
「エレナさんには、見えているのですか?」
「笑止、長い付き合いだし、レベルいくつだと思っている」
「レベルが、上がれば見えるようになりますか」
「ええ、でもそれは不意を突かれなかった場合で、今の山賊みたいに大勢だと、相手を確認できなくなるから奇襲しやすくなる」
「なるほど、勉強になります。」
「でも、主力メンバーの部隊は後方に控えたままだから、まんざらバカではなさそう」
確かにムラサメさんを襲っている集団が2/3程の集団で、後方に山賊の頭達がいる部隊1/3 程の集団に別れていた。
ムラサメさんの戦いを見ていたら、不意に耳元で声がしたような気がした。
振り返って見るとそこには、いつの間に来たのだろうか、僕の奴隷で名前のわからない赤い髪の女性が、座り込み左手を差し出している。
『外して…』
確かにそう言う風に聞こえた。微かな声、いや、声というよりも頭の中に響いたと言った方が正しいかも知れない。
彼女の差し出した手を見ると、文字の刻まれた指輪が中指に付けられている。
「これを外して欲しいの?」
女性は、力なくゆっくりと頷いたので、僕は彼女の手からそっと指輪を外してあげる。
すると虚ろな彼女の気力が少しずつ溢れてくる。
すると、彼女の足元から炎が立ち昇り全身を包み込む。
そして誰かが叫んだ。
「サ、サラマンダーだ!」





