42 襲来
今日も日課の瞑想に行こうと自宅を出た時、日も昇らない朝早くから広場で約50人くらいの人々が集まり戦闘準備を行なっていた。
その中にセレナさんの姿が見えたので、声をかけてみた。
「セレナさん、何処かに出かけるのですか?」
「今回のターゲットが動き出したと報告が来たからね。
ちょっとお出かけしてくるわ」
「装備が軽装みたいですが…」
普段なら荷馬車に沢山の食料や装備品等を沢山積んで出かけるのに、今日はそういった物が一切無く、着の身着のままの状態で荷物は自分の持てる分だけを抱えていた。
「まぁ、今回は険しい森の中を進むことになるから、重装備だと動けなくなるからね」
「険しい森の中って、そんな所へ何の為に行くのですか?」
「それは…、今はちょっと言えないな。秘密裏に動かないと意味が無いからね」
「そうですか…、そうですよね」
依頼の仕事は完璧にこなさないと信用がなくなり次の仕事が回って来なくなる。
だから、関係以外には極力情報を漏らさないようにしている。
それは分かっているが、自分がこのメンバーに選ばれない不甲斐なさと次はメンバーに選ばれたいという願いから、もっとモンスターを倒して経験を積まなければならないという気持ちが込み上げてくる。
「でも主力メンバーが殆ど居るみたいですが、ここの守りは大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫、大丈夫。ここの防御壁は、まず破られないから、それに万が一に備えてムラサメは留守番してもらうから大丈夫よ。
それにあと翔くん達もいるからね。安心して出かけられるわ。
頼りにしてるわよ。翔くん。
だから今日は、外に出ずにお留守番お願いね」
そんな事を言われてもまだ狩りの1つも満足に出来ない僕達に何ができるのだろうか。
まあ、ここの防護魔法は強力なようだし、何かあったら頼りになるムラサメさんも居る事だし、何かあっても僕達の出番はないだろうと考えてしまう。
「わかりました。気を付けて行ってらっしゃい」
僕がそう言うとセレナさんはニッコリと笑い、また仲間達と出発準備に取り掛かっていた。
何処へ行くのか気になったけど、今日はお留守番と言われたし、いつになったら僕達も団員として一緒に行けるのだろうか?
まだレベルも低いし、経験が足りないからなのか?
そう思いながらも僕は瞑想を行う為、一人拠点の中にある森に入っていった。
お昼過ぎだろうか、自宅の隣の畑を耕していると、城門付近が何やら騒がしい声が聞こえてきた。
周りの皆も気になったのか城門の方に集まりだしている。
僕達もそれに釣られるように、急いで城門まで走り、城門の外の様子を見る為に城門横にある城壁内通路を通って城壁の上に登った。
城壁の上にある監視通路から街の外の様子を覗き込むと、城門前に200人もの武器を構えた人達が群がっているのが見えた。
騒ぎを聞いてみると、番長のいる山賊団らしく何か叫んでいた。
ステータスを確認してみると誰もがレベル100越えで、リーダー格の人はレベル180もある。
今、あの集団に主力メンバーがいないのに襲われたら一溜まりもない。
僕達はお互い自分達のレベルの低さに『襲われたらどうしよう。痛い目にあうのかな』など、最悪な事ばりを話していた。
「大丈夫、この防御壁は破られない」
声のする方を見ると、エレナさんとムラサメさんだった。
「エレナさんも、留守番だったんですか?」
「私は、戦闘には向いてない」
何故か、素っ気ない話し方をするエレナさんだったが、これはこれでは、気位の高い美人エルフと言うことで良いんじゃないか。
知的で魅力的に見えるのは僕だけだろうか?
「ねぇ、あれ番長じゃない?」
沙羅が言った方を見ると、馬車の荷台に固定された十字架に張り付けされた番長がいた。
身体中、殴られたり、抉られたり痛めつけらたのだろうか、痣や大量の血が滴り落ちている。
見た目で、瀕死の状態だとすぐわかる。
意識はあるのか?項垂れたままで動かない番長。
ステータスを確認すると今はまだ何とか生きているようだ。
「早く、助けないと」
「待ちなさい、あなた達が出ていっても勝ち目はない」
「でも…、番長が!」
「少し待ちなさい!」
そんな悠長なこと言っていられないが、あの人数とレベルの高さ、自分達が出ていっても返り討ちに合うだけだろう。
すぐにでも飛び出して行きたい気持ちはあったが、僕達ではどうする事も出来ないので、見ている事しか出来なかった。