4 フルールイル
拠点に近づくに連れて城壁の大きさが徐々に分かってくる。遠くから見ても思ったが、近くなるに連れて、その巨大さに圧倒される。
小高い丘の上に建つ城壁は、森の中からでもとてもよく見えた。と言ってもまだ随分先のようだが森の木々の間から見える姿は、丘の上に建っている所為もあり森の木々よりも高い。中世時代のヨーロッパの城壁のように硬い岩石を重ねて作られており、高さはビル5階くらいの高さ、横の長さは拠点の街をぐるりと囲んでいるはずだが、奥の方が見えず果てしなく続いているように見える。
拠点の街までは一本道、いつの間にか登り坂だった道も下り坂へと変わっていた。高い山並みに囲まれた中心に作られた拠点。物流などは、とても不便なようにも思えるが、周りから攻撃された場合、大軍での襲撃は道が狭く向いていないし、拠点からは周りが見易いので、攻められたらすぐに敵を察知、攻撃出来るだろう。
森の中にもいろいろ罠を仕掛けられそうだし。
考えられて作られているなと1人で思いながら、周りの景色を楽しんでいた。途中、魔物などは出ず、見たことのない小動物があちらこちらで動き回っている。道なりに進み森を抜け、開けた草原まで来た。あとは拠点までの丘を登ればゴールだ。もう既に周りは薄暗くなっていた。城壁にも明かりが灯り壮大な姿なのだが不気味さも感じとれる。何ともいえない雰囲気を醸し出していた。そして城門まであと少しという所で突然、
『バチッ!!』
「痛っ」
僕は思わず声を出し叫んでしまった。
突然、体に電気が走り何か見えない壁みたいな物が立ち塞がり、僕の進行を妨げ、その反動で跳ね返され荷馬車から落ち尻もちをついてしまった。
一瞬、あまりにも突然の事で何が起きたのか理解出来なかった。
「あ、ごめんごめん、傭兵稼業上、暗殺者やスパイなど防止する為、許可した人以外入れないように防御魔法がかけてあるの。
今、許可するから、ちょっと待ってね。
あ、その前にこの指輪付けて」
団長のセレナさんから渡された指輪を見ると何の変哲も無いただの指輪。
いきなり婚約指輪か?
と、一瞬喜んだが、会って間もないし、お互いの事よく知らないし、セレナさんは美人だから、僕は喜ぶがセレナさんはどう思っているんだろう?
まず、そんな事はありえない。
婚約指輪と言う事はないさ。
取り敢えず、渡された指輪を観察してみると、変わっている所といえば幅が1センチくらいあり、指輪といえば指輪なんだろうけど、イメージした指輪と少し違う。
婚約指輪といえば細くて小さいイメージがあったが、この指輪は指輪というにはゴツすぎる。装飾品と言った部類の指輪だろうか?
それともこれがこの世界では当たり前の指輪だろうか。
指輪の周りには何やら文字みたいな物が彫っていたが僕には読めなかった。
いきなり付けてと言われたが怪し過ぎるだろう。
付けた瞬間、これで貴方は私の奴隷ですとか言われても洒落にならない。
でも、こんな美人のエルフの奴隷になるなら...、それも良いかも知れない。
ちょっとエッチな妄想をしてしまう。
いろんな想像をしていたら、セレナ団長が、
「それを付けないと何も出来ないわよ。
何処に行くにもこの指輪が必要になるわ。
この世界ではその指輪が唯一自分を証明する道具だから、それがないと生きていけないわ。
あ、別に付けても何の害も無いわよ。
ほら、見てごらんなさい。
私も付けているし、皆も付けているから。」
周りを確認すると確かに皆、指輪を付けているようだ。
まだ信用した訳でも無いが、指輪を付けないと街の中に入る事も出来ないようだし、ここから何処かに行く宛もない。
言われた通りにするしかないか…。
渡された指輪を、婚約指輪ではないが左手の指でピッタリだった人差し指に嵌めた。
指輪を填める時、左手の甲に痣が有るのに気が付いた。
何故か一瞬見とれてしまったが全く記憶がない。
生まれつきなのか?それともどこかで付けた痣なのか?
模様のようにも見えるが、手の甲の3分の2は痣に埋め尽くされていた。
何か思い出しそうになった時、いま見ている景色の右下の方で、赤く点滅しているのに気が付いた。
「やり方教えてなかったわね。
指輪を嵌めたら後は考えるだけ、最初は慣れないかも知れないけど、いま何か点滅してると思うけど、それに意識を集中してみて」
赤い点滅に集中するが何も起こらない。
騙されているのだろうか。
「意識を集中、頑張って」
集中、集中と思いながら見ていたら、
「開いた!」
「あとはメニューの中の点滅している部分、フォレストパレス出入り招待を承認してみて」
なんだかゲームのステータス画面みたいだなと思いながらセレナさんの言われた通りに進めてみる。
「えーと、メニューの招待、承認、出来ました」
「これで通れるはずよ、その指輪は聖霊石で出来ているから、とても高価な物だから無くさないようにね」
「そんなに高い物なんですか。
そんな高価な物、借りてていいんですか?」
「いいのよ、どうせさっきの戦場で拾ったものだし、絶対必要な物だから。自分が稼いだ経験値、レベル、ステータス等、指輪に記憶されるわ。
指輪を無くしてもレベルやスキル等は、新しい指輪を嵌めれば自分のステータスを映し出しているだけだから、表示されて変わらないけど指輪の中の異次元倉庫、通称リングボックスに入れていた道具やお金は指輪自体に保存されてるから、指輪を無くしたら消えてなくなるから気をつけてね」
え、この指輪はもしかして戦場で亡くなった人の物だったのか、ちょっと嫌な気分になったが、これがないと何も出来ないので、少し躊躇しながらも仕方なくそのまま嵌めとく事にした。
ちょっと呪われそうだけど…。
そして本当に通れるかどうか、恐る恐る先程、僕が弾かれた場所まで行くと、今度はすんなり通れた。
そして城門の前までやってきた。
そんなに立派な城門ではないようだが、鉄製で高さは僕の身長の2倍くらいか、4メートルちょっとありそうだ。
幅は荷馬車が余裕で通れそうだから3メートルくらいか。
セレナ団長が城門の前に立ち
「開門!」
と叫んだ。
その合図で城門が開き、少しずつ中の様子が見えてくる。
城門が開ききった時、とても気持ちのよい爽やかな風が吹き抜けていった。
そして何故か風が僕の体にまとわりつくような感じがしたが、気の所為だったのだろうか。
城門から中に入り、中の様子を確認すると、
「森!?」
城門を潜り中に入ると、直ぐ目の前はうっそうと繁った森の中だった。
森の中を抜けて来たのに、また森の中に逆戻りかと思ったが、ここの森は城壁に囲まれている。
なので外の森とは違う城壁の中の森という事だろう。
イメージしてたのは、きっと立派な城、そして立派な街並みがあるのだろうと予想していたが予想外だった。
森の中に点々と普通の木の家もあるが、レンガ作りの家、草で覆われた家、土で固めた丘に穴を掘り家を作っていたり、大きな木の上にも家がある。
様々な家があるようだが、それだけ多くの多種多様な種族が多数いるということなのか。
かなり奥の方まで続いてるみたいだが、森の木が邪魔してよく見えない。
そして団長が話しかけてくる。
「ようこそ、我が拠点、フルールイルへ」