35 ゴンゲン山
次の日、フルールイルから徒歩で二時間程の所にあるゴンゲン山の麓までやって来ていた。
これから先、道らしき道はなく森の中に入って行かないといけない。だが、道は無いと言ってもそんなに険しい場所はなく緩やかな傾斜になっているようだ。
木々も青々とした葉をつけ、時々気持ちの良い風が吹いている。
日の光も木々に邪魔される事なく地面まで当たり、小さな草花も芽吹いている。
何処にでもあるような普通の森だった。
昨日はゆっくり休んだ所為か、疲れもとれ、魔力も大分回復していた。
「ゴンゲン山には、狂暴な魔物が多いから気を付けるでござるよ。
だけどその分、経験値は多く入るでござるから気合いを入れるでござるよ」
「はい」
狂暴な魔物とは一体どんな魔物が出て来るのだろうか?
僕が勝てない魔物の場所には連れて行かないと思うけど、もし勝てない魔物だったら...、勿論、助けてくれるよねムラサメさん。
鼻歌交じりで進んでいるムラサメさんを見ると、不安でしかなかった。
「懐かしいなぁ、ここに来たの何十年ぶりでちゅか。
あの頃と全く変わらないでちゅね」
エルダは、懐かしそうに周りをキョロキョロ見回しうろちょろしている。
前に来た事有るのだろうか?
エルダのいたダンジョンからは、このゴンゲン山まで、さほど離れていない。
前のご主人様と来た可能性は十分考えられるだろう。
ちょっと聞いてみたくなり、エルダに声をかけようかと思ったが、エルダの嬉しそうな顔を見ると、折角明るい表情になっているのに暗く辛い過去を思い出させてはいけないと思い、声をかけるのを躊躇った。
ゴンゲン山は活火山らしく、遠くに見える山頂付近では木々が生えておらず、岩肌の頂上では煙が立ち昇っている。
突然、噴火が始まったらどうしようと思いつつも、ムラサメさんは、そんな事は気にならないようで、どんどん頂上目指して登って行く。
僕は、ただただムラサメさんに付いて行くしかなかった。
山頂に近づいて来たのか、木々は少なくなり変わりに地面に大きな岩石がゴロゴロと沢山あるのが見て取れる。
噴火で飛んできた物なのか、それとも転がり落ちてきた物かは分からなかったが、ただ気がかりなのは竜がいるかいないか。
「竜は、居ないんですよね」
「もう何百年も、竜を見たという噂は聞かないでござるから、多分大丈夫でござる」
「冬眠してるとか、ないですよね」
「竜は、冬眠しないでござるよ」
「もし、竜に出会ったらどうするんですか?」
「さすがに竜には勝てないでござるから、迷わず一目散に逃げるでござる。」
「ですよね」
森の中を少し行くと、バッファローロックがいるのを発見した。
大きさは、観光バスほどの大きさだろうか、かなりデカイ。
普通のバッファローに岩の鎧が付いたような魔物だ。
「こいつも1人で倒すのですか?」
「当たり前でござる。岩と岩の繋ぎ目を狙うと簡単でござる」
かなりの大物だが繋ぎ目ね、やってみるか。
いつものように素早く近づき繋ぎ目を狙って剣で突いてみる。
繋ぎ目に剣が入ると意外とすんなり突き刺さった。
一旦、剣を抜きその場を離れるが、魔物は、こちらに気付き振り向く。が、そんなに早くなかった。
ゆったりとした動作で、こちらに向きを変え右足を地面に引っ掻く威嚇行動をしている。
次の瞬間、ものすごい突進で襲いかかかってきた。
僕は油断していた為、危うく直撃喰らうところだったが、すんでのところでうまく交わすことができた。
動作が遅いから、完全に油断していた。
突進力は、侮れないものがあったが、それ以外は大したことはないと判断して、昨日、いろいろ考えた作戦を試してみる。
「エルダ、人形お願い」
「わかりました、ご主人様」
そう言うと、地面から土が盛りだし人の形になっていく。
僕そっくりの人形が10体、まだレベルが低いので動かすことは出来ないが、まやかしにはちょうどいい。
バッファローロックが、人形達を狙っている隙に僕は剣でバッファローロックの繋ぎ目を狙って突き刺していく。
全ての人形を壊してしまう頃には、バッファローロックにかなりのダメージを与えていた。
「次、泥水やってみよう」
「はいなー」
「わかりました、ご主人ちゃま」
アルケーとエルダは、魔物の前に水と土を混ぜ合わせ、地面に深い泥水の罠を作り出した。
バッファローロックが突進してくると、うまく泥水に填まり、身体の半分を泥水に浸かって身動きがとれなくなっていた。
動けないその隙に鎧の隙間に剣を突き刺していく。
何度目かの突きで、霧散して消えていった。
簡単に罠にはまり、楽に倒す事が出来た。
因みにドロップアイテムはバッファローロックの肉と銀鉱石だった。
肉がドロップされるなんて解体する手間が省けて助かるけど、何だか不思議な感じ。
普通なら解体して、部分部分で肉の質が変わり、それぞれの肉質によって料理の仕方が変わってくる。
さて、このドロップした肉は美味しいのだろうか?
その内、料理されて出される事だろう。
「まぁ、うまくいったね」
「上出来でござる。
今の技も、名前を付けて登録すると次から技名を言うだけで発動するでござる」
「そうなんですか?」
メニュー画面で確認してみると確かに技欄があり、名前登録欄がある
早速、覚えた技を登録していく。
更に先に進むと、コンドルキングが飛んでいる。
コンドルのデカイバージョンだ。
翼を広げた長さが、10メートルくらいあるだろうか、高い高度を飛んでいたが、僕達が獲物に見えたのか、こちらに気付き飛んでくる。
「空から来ますが、剣では届かないのですが、どうやって倒すのですか?」
「それは、自分で考えるでござる。
いろんなこと覚えないと、応用のきかない戦闘にになってしまうでござる」
「ウム...」
ヒントくらいくれないのだろうか?
とりあえず地上におろさないと...。
「エアル、風で落とせる?」
「やってみる」
エアルが突風を起こし、コンドルを巻き込んでいるが向こうも風を操って防いでいる。
向こうも風属性か?
風と風は相性が悪いか。
「属性も、ちゃんと考えるでござるよ」
「分かってます!アルケー、お願い」
「まかして」
アルケーが大量の水をコンドルの上から落とす。
水の重みと翼に水が染み込み、飛ぶ力が弱まっているようだ。
ついには耐えきれず、徐々《じょじょ》に高度を落としてくる。
まず狙うは翼だ、飛べないようにしないとまた空に逃げられると攻撃出来なくなってしまう。
だが、近づいて来ると嘴と爪で威嚇してくる。
「エアル、翼を攻撃してエルダは飛び立たないよう足を土で固めて」
「わかった」
「わかりまちゅた、ご主人ちゃま~」
重みに耐えられず、コンドルキングが地上へと降りてきた。
コンドルキングが地面に着地したと同時に、アルケーが足枷の付いた足と地面をくっつけて動けないように固定した。
この隙を逃すわけにはいかない。
僕も一緒に翼を攻撃する。
「飛べないように、翼を切り落とすよ」
エアルが風で翼を切り裂いていく。
すかさず、僕はコンドルキングの攻撃を交わしながら翼の根元を前から後ろまで切り裂いた。
右の翼が、一気に切り落ちた。
これで、もう飛べないはずだ。
「よし、あとは総攻撃だ」
アルケーがいくつもの水流を作り、左の翼に穴を開ける。
「グォーーーーーー」
魔物は、雄叫びをあげる。
注意するのは、嘴だけなので、交わしながら切り裂いていく。
我ながら剣の扱いがかなり上達してきたと思う。
風が切り裂き、水の水圧で穴を開ける、上から岩石が降ってくる。
最後に僕が首を切り落とし霧散して消えた。
「戦闘になれてきたでござるな、もう少し上に登るでござる」
しばらく行くと、ロックファングが2匹いた。
身体はチータのような体型で、大きさはチータの倍くらいだろうか、鋭く長い牙が特徴的だ。
今回は、二匹いる。
遠目に何か岩の間を掘ってるように見える。
気付かれないよう(そっと近づいて行き、20メートルほどの距離でこちらに気がついた。
匂いなのか、気配でバレたのかは分からなかったが、二匹同時にこちらに向かって走ってくる。
『速い!』
あっという間に距離を縮める。
「ウォール」
技名、『土の壁』を発動するが、二匹は避けて左右から迫ってくる。
『かまいたち』
左側からくる一匹に風で切り裂き攻撃を行った。
「キャイン、キャイン」
一匹の出鼻を挫いたが、右側から一匹襲いかかる。
剣を構えようとしたが、間に合わず右足を噛まれた。
「痛っ」
「マスター」
「ご主人ちゃま」
「大丈夫、魔物に注意して」
牙が右足に深々《ふかぶか》と突き刺さっている。
このまま右足を食いちぎられると思い痛みに耐えながら、剣をロックファングの背中に何度も突き立てた。
我慢比べは僕が勝利し、食いちぎられる前にロックファングは口を開け僕の足を離した。
もう既にロックファングは瀕死の状態だった。
僕は足の痛みを堪えながら、更に何度もロックファングを突き刺した。
するとロックファングは霧散して消えていった。
そこへ、もう一匹がやって来た。
『プレスシャワー』
高圧水のシャワーを浴びせる。
ロックファングは高圧水に耐えようとして動きが止まっていた。
だが、まだだ。次、『流星』
岩石の雨を降らせる。
ダメージをかなり与えているのか、みるみる内にロックファングが弱っていくのが目に見えて分かった。
動きが止まった所で剣を滑らせながら、頭から横一線、後ろまで切り裂く。
ロックファングは霧散して消えた。
「翔くん、大丈夫でござるか?」
「はい、とても痛いです...」
ロックファングに噛まれた深いキバの跡から血が流れでていた。
ムラサメさんが僕に近付き魔法で回復してもらった。
傷が一瞬で消えて痛みも無くなった。
魔法は凄いなと改めて思った。
「ロックファングは、何を掘っていたんだろうか?」
掘っていた場所を確認してみると、岩と岩の間に小さな穴がありその奥に何かいるみたいだった。
覗き込んでみると、中にはトカゲの身体が膨らんだような魔物がいた。
色は緑色で大きな目、最初ツチノコかと思ったが足が四本ついている。
「可愛い」
前に、爬虫類が好きでカメレオン買っていたが、こういう魔物は大好きだ。
こいつはペットにしないと...。
「マスター、何か、にやけてますが」
「何かの幼獣でござるな」
幼獣は、穴の奥でこちらをじっと見つめて震えていた。