34 魔人化
僕達はダンジョンを出て、アルケーのいた湖の畔で寛いでいた。
今日1日、僕が失ったマナとエルダのマナを回復する為、自然エネルギーが溢れている場所でのんびり過ごす為だ。
この場所は、マナが溢れている所為なのか分からなかったが、森林浴みたいに居心地がよく空気が美味しかった。
身体の中の何かが充電されて行くのが、何となくだが分かる。
「ところで、エルダは何故ダンジョンに1人でいたの?」
「話が長くなりますがよろしいでちゅか?」
「あぁ、気になるからお願い」
「私が、前のご主人様に会ったのは、ここから少し行った所にあるゴンゲン山、別名、竜の住む山として近づく者はおらず恐れられていまちた。
その麓で前のご主人様と出会って家族となり、一緒に竜を探しに山に登りまちたが、結局、竜は居ませんでちた。
それから、いろんな所へ二人で一緒に旅に出まちた。
お宝探しや山賊退治、魔物討伐やワイバーン退治、とても楽しかったでちゅ。
こんな日がずっと続くと思ってまちた。
でもそんな楽しい時間は長くは続きませんでちた。
ある街に寄った時、ご主人様はそこの領主の娘と恋に落ちまちた。
今まで私と二人きりだったのに...、何故か私は胸が苦しくなりまちた。
人間と精霊、種族が違うのに私は、ご主人様が大好きでちた。
相手の娘を追い出そうかとも考えまちたが、それじゃ私が嫌われてちまいますから、何も言えませんでちた。
1人哀しみにくれてまちた。
しかし、ある日領主にご主人様が放浪者ということがバレて、領主は娘と別れさせる為に、あらぬ噂をたてて迫害を受け街を追い出そうとちまちた。
そこでご主人様と娘は、街を出て遠く離れた誰も居ない森の中に暮らすことにちまちた。
その暮らしも長く続きませんでちた。
領主が、娘を連れ戻そうとご主人様が住んでいる森に刺客を放ったのでちゅ。
かなりの手練れでしたが、ご主人様の敵ではありませんでちた。
何と言っても、私が選んだご主人様が負けるはずはないと。
ご主人様は勇敢にも1人で戦うと言って、何人もの相手に怯む事なく戦い続けまちた。
私も命令された事も有りますが、今のご主人様なら余裕で勝てる相手でちゅたので出る幕はないと思い控えていまちたが、ご主人様に向けて刺客の放った矢を防ごうと娘が立ち塞がり矢を受けてちまったのでちゅ。
普通なら、娘が立ち塞がなくてもご主人様も簡単に交わすことができたはずなのに。
矢を受けた娘は、矢に猛毒が塗ってあったらしくそのまま帰らぬ人となりまちた。
悲しみのあまりにそれに激怒したご主人様は、怒りにまかせて魔人化してしまい刺客達を瞬殺してしまいまちた。
私は、必死で止めまちたが私の声は届きませんでちた。
ご主人様は、そのまま領主の所へ行き、そこにいた人達を皆殺害し、それでも足りず街をすべて破壊してしまったのでちゅ。
街を全て破壊ちてちまった後、ご主人様の意識が戻りまちたが、魔人化した状態のままでちた。
力任せに街を破壊してしまった自分に、ご主人様は嘆いていまちた。
悔やんだご主人様は、もう人に会わないように地下を掘りダンジョンを作り魔物を育てて誰も近づけないようにちまちた。
またご主人様と私の二人っきりな時間が戻ってきまちた。
でも、何十年か前にご主人様はそのまま亡くなってちまいまちた。
私は大好きなご主人様の側に居ようと決め、そのまま地下に留まってちまちた。
そこへ、今のご主人様、エアリエル、アルケー、ムラサメ様が助けてくれたのでちゅ。
本当は、誰か来て助けてくれるのを待っていたのかもしれません」
「そうだったのか...、何て言うか、言葉にできないが、これからよろしくね」
「はい、ご主人様」
「あとエルダ、私の名前このからはエアルと呼んで頂戴、ご主人様からそう呼ばれているから」
「分かったでちゅ、エアル」
「さぁ、あとは翔くんをゆっくりさせないといけないでござる。
明日からは、折角なのでゴンゲン山に行ってみるでござるか?」
「ゴンゲン山って、近くなんですか?」
「歩いて2時間ほどの距離でござる。
まあ、今日はのんびりして回復に専念するでござる。」
「じゃあ、私達3人はこの辺りで遊んでるね」
「行ってらっしゃい」
3人の精霊達は、それぞれ風、水、砂に姿を変えて飛び回る。
端から見ると、小さな竜巻が水と砂を巻き込んで移動しているように見える。
魔人化とは、やはり恐怖の対象みたいだなあ、街を1つ潰す力か...、差別されるよな。
僕は魔人化しないようにしないと...。
周りの自然の気を感じながら、明日に備えゆっくり目を閉じて休養していた。