3 街道
「日が落ちるまでに戻るわよ」
セレナ団長の声が飛ぶと同時に、小休止からの軍行動が始まる。
散らばっていた人達が集まり、慌ただしく準備を始めていた。
斥候らしき人が二人、先行して疾風のように走っていく。
人の姿をしていたが、良く見ると二人の頭にはふさふさの耳がついている。
一人は、猫のような耳が付いていたので猫人だろうか?、もう一人は犬のような耳が付いているので犬人かなぁ、二人とも女性みたいだ。
動き易さを重視している為か、防具は軽い革製で胸と下半身部分のみ装備をし、手にはグローブを付け、防具の下には半袖、下半身はタイツを着ている。
武器は短剣のみで腰のホルダーに装着されていた。
あっという間に駆けて行き、もう見えなくなっていた。
流石、犬と猫だ。凄い速さだ。
でも犬と猫ってケンカしないのかと少々疑問に思ったりもする。
隊列を組み動き始めたので、僕はまた荷馬車に乗せてもらい動き始めた。
戦場から、かなり離れたこともあって僕は安心し落ち着きを取り戻していた。そしていつの間にか震えも止まっていた。
少しは周りを見る余裕が出来てきたのか、周りを見渡し周りを観察していた。傭兵団員をよく見てみると、全員人型なのだがいろんな種族がいる事が分かった。
主にエルフ族、肌が黒い人もいる。ダークエルフかな、ドワーフ、猫人、犬人、小人もいる。
一つ気になっていたのが、戦争はまだ終わっていないようだけど、帰還して良かったのだろうか?僕の所為ではないだろうか?突然、僕が姿を現し作戦を潰したりしていないだろうか?そうなると僕はとても責任重大な事をしてしまったと気が気ではなかった。気になってしかたないので荷馬車の近くでユニコーンに乗り進んでいた団長に聞いてみた。
「セレナって呼んで、ボンゴ以外みんなそう呼ぶから。
あ、その事ね、今回の作戦は、幾つかの傭兵団が合同で大きくなりすぎた盗賊団の壊滅だったわ、そして私達に依頼されたのは補給部隊の撃破だったの、まあ、傭兵団と言っても私達は小規模だからそんな大きな仕事は回ってこないの。補給部隊は壊滅させたから、私達の目的は達成ということ。だから本隊が来る前に撤退したって訳。流石にこの戦力じゃ盗賊団本隊が来たら全滅させられちゃうから」
仕事が片付いたから戦場から離れたってことか、もし僕がこの傭兵団に見つからず、まだ戦場にいたら盗賊団本隊が来た時、補給部隊を全滅させた仲間だと思われ殺されていたかも知れないし、殺されなくても痛め付けられ、仲間の居場所を聞き出そうとするかも知れない。
そう思ったら背筋がゾッとする。
暫く進むと平原が続いていた道は風景が変わり、回りは静寂な深い森で大きな木の所為で日の光をあまり通さない道に様変わりしていた。
道も少し登り坂になっているように見える
日も大分落ちてきていることも相まって、暗く不気味さを増している。
街道を進んでいると、先行していた斥候の犬人と猫人が戻ってくる。
「団長!この先、ゴブリン5、ワーウルフ4発見しましたにゃ」
「ありがとう。ここは私一人で十分セレナちゃんに任せて頂戴」
そう言うと集団の先頭に立ち進み出していた。
暫く進むと、『いた!』
あれがゴブリンとワーウルフか、ゴブリンは思ってた通りで小さい体で身長は1メートル位、肌は緑色、目は大きく耳は尖って、はげ頭、防具を身につけ手には槍を持っている。
ワーウルフは目が赤い狼って感じで牙が鋭く大きい。
まず自分一人だけなら、怖くて腰を抜かし逃げ出せずにその場で殺されていただろう。
でも今はこんなに頼もしい傭兵団員達が沢山いる。
こんな時は傭兵団に付いて来ずに、一人離れなくて良かったと安堵してしまう。
しかし、いくらなんでもこんな大数の魔物達、一人で無理じゃないのか?
皆で戦った方が良いのでは?
そんな事を考えていたら、魔物達が目視出来る時点で、セレナさんが何やら呪文を唱え始めた。
静寂だった森の木々が揺らぎ、ざわつき、風が吹き始める
「シルフの精霊よ、我と汝の契約により力をかしたまれ…、テンペスト」
唱え終わった瞬間、突風が吹き荒れ1ヶ所に集中し集まり渦となって行く、そして小型の竜巻みたいなもの出来上がり周りの物を巻き込みながら魔物達に向かって進んでいく。
小型の竜巻は、生き物のように魔物に狙いを定め次々に襲っていく。魔物に触れた瞬間、魔物達竜巻の中に飲み込み竜巻の中で切り裂いていく。
次々に竜巻の餌食になっていく魔物達。
まるで竜巻は意思があるかのように、魔物を目指して動き回る。
全ての魔物達を倒した時、竜巻は自然と消えて無くなり、元の静寂の森へと戻っていく。
『魔法か!凄い、魔法の世界に来たんだ。
僕にもセレナさんのような強力な魔法使えるようになるかなぁ』
さっきまであれほどこの世界に飛ばされた事を後悔していた僕だが、セレナさんの魔法を見て僕にも魔法が使えるようになるのではと少し期待感が増していた。
「あれ、死体がない?」
「ええ、例外はあるけど、ほとんどの魔物は霧状になって消えるわ。
大地に戻って、また生まれ変わると言うけど、詳しくは分ってないの。
残るのはこの核の聖霊石とたまに出るドロップアイテム」
何だかゲームチックに思えるのは、僕だけだろうか。
魔物と遭遇したのは、その時だけでその後は何事もなく緩やかな勾配の街道を進んでいく。
「見えたわ、あれが私達の拠点よ」
いつの間にか、山の中腹辺りを通る道を通っており、木々が途切れた場所から見える景色は絶景だった。そして遠くの方に森の真ん中の小高い丘に立つ、中世時代を思い浮かべる城壁が見える。
あれが拠点なのか?
距離はまだあるけれど、その巨大さがここからでもわかる。
山並みに囲まれた小高い丘に立つ城壁は、周りからも異彩を放ち、何か特別な存在感を醸し出していた。
今日は散々な1日だったな、どうしてこうなったのか思い出せないし、とりあえず今はゆっくり休みたい。
まだまだ時間はかかりそうだが歩くより大分マシだ。
荷馬車に揺られながら、早く到着するのを待ち望んでいた。