279 キュウリュウベイの街
辺りには火薬の臭い、焦げた臭いが立ち込め、一面焼け野原となっていた。
街道もあちらのこちら、破壊され通れなかったりしたので、そこは避けて通りやすい所を選び通り過ぎていた。
ディメンションルームが使えれば、こんなに苦労する事も無かったのにと思いながら、僕達は進んでいた。
マップで確認しているが、今の所、人の反応はなく、少し離れた場所に多くの々の反応があるが、これは空中戦艦の落ちた辺りなので、空中戦艦に取り残された兵士達だろう。
この兵士達はどうするのだろうか。
和平が結ばれたとして、兵士達はネイロ帝国に戻るのか、それとも捕虜となるのか、ミネルバ姫がネイロ帝国に戻るのなら部下達も戻るだろうし、空中戦艦も返す事になるだろう。
今修理を行なっているはずだから、修理が終わり次第、兵士達と空中戦艦は帰還することになるだろう。
お昼近くになった時、キュウリュウベイの街に到着した。
この街は既にナーガ国が占領しているようで、多くのナーガ兵士達が街の護衛に当たっているようだった。
民衆に被害はなかったようだが、建物が壊され、その復旧を多くの人々がやっていた。
そんな中を進んで行くと、民衆からの冷たい視線が目につく。
それはそうだろう。
昨日までは、何事もなく暮らしていたのに今日になると一変して、多くの建物や城門は壊され、ナーガ国の領土となっている。
攻めて来たのはネイロ帝国のほうからだし、恨まれるのは、お門違いだと言いたいが、この状況を見ると言葉に詰まってしまう。
ナーガ国の領土になるのが嫌な民衆は荷物をまとめて逃げる準備をしている。
そして、この街に留まろうとする人は復旧作業を行っていた。
その中をよく見ると、逃げ出しているのは身なりの好い人達、貴族だろうか。
商売人や民衆は、あまり逃げ出していないようだ。
国が違っても、この街を愛しているのだろうと感じた。
「翔様」
馬車の中から声をかけてきたのは、姫の執事だった。
「どうしたんですか、ネイバンさん」
「姫がお腹空いたと申されますので」
「あ、そうですね。僕もお腹空きました。
もうお昼ですし、何処かでご飯を食べましょうか」
馬車の中でネイバンとミネルバ姫が、何か話しているようだった。
「翔様、出来ればチングスという店がいいそうです」
「それは何処にあるのですか」
また馬車の中で話している。
「このまま、真っ直ぐ行き鍛冶屋の手前を左に曲がって突き当たりだそうです」
「はぁ、どうしてミネルバ姫が話さず、ネイバンさんが話すのですか」
馬車の中でこそこそと話している
「それは若い女性が食事の事を話したら、周りから何て言われるか分からないからだそうです」
「はぁ、そうですか、取り敢えずチングスに行きましょうか」
表通りは軍隊が通った為だろうか、建物があちらこちら崩れているのが多いが、一歩裏通りに入ると被害はほとんどなく、普段通りの生活を送っていた。
ミネルバ姫の言った通りに突き当たりまで来ると、大きな看板の大きな店が目に飛び込んできた。
周りの家は茶色のレンガでできているのに対して、このお店は緑色で周りからよく目立つ、店の内部も緑の植物が溢れており50席ほど席がある。
店の前には大きな白と青のストライプカラーで出来た日除けの下に、外でも食べられるようにテーブルと椅子が30人分、並べられていた。
結構、お洒落なお店で人気なのか、店の中には多くの女性達が食事をしていた。
僕達の席は外の席しかないようだ。
「ミネルバ姫、外の席しか無いようですが良いですか」
「構いませぬ」
「それじゃ、ここで食事にしましょう」
僕とミネルバ姫、ネイバン、ガクシンが同じ席に座り、その周りに護衛達が座っていた。
ミネルバ姫は何だかそわそわしているような気がした。
「どうかしたのですか」
「実は、わらわはこんな所初めてなのじゃ、いつも決まって領主邸で腕の良い料理人の食事を食べてばかり、勿論かなり美味しい…、でも、わらわもこんなお洒落なお店で食事をしてみたかったのじゃ、いつもメイド達の噂に耳を傾け、何度、隙をついて出掛けようと思ったことか、その都度、そこのじぃや、護衛の兵士に捕まり行けかった。
それがやっと…、」
「でも、どうしてじぃは…、失礼、ネイバンさんは止めたのですか」
「それは一国の王女がこんな所で食事をしては品位が落ちます。
それに毒など入れられたら、と考えましたら変な所では食事させられません」
「今は良いの」
「今は捕虜の身、私が口出す事は出来ません」
成る程ね、王女は王女で苦労しているんだな、
ラウサージュやミディアなんかも同じような扱いされていたのだろうか、次に会った時聞いてみるか。
ミネルバ姫はメニュー表を嬉しそうに見ていた。
ファミリーレストランみたいに、写真と名前、値段が書かれていたが、どれにするか迷っているようだ。
僕は定食ランチ、ネイバンは紅茶とパン一つあれば良いらしく、普段はご主人の前では食事はしないらしい。
ガクシンは鳥の丸焼き、ヒゲブタのヒレ肉、水牛のステーキなど肉ばかり頼んでいた。
ガクシンが言うには筋肉を付けるには肉を食べるのが一番らしい。
最後まで決めかねていた姫だが、季節のフルーツケーキにイチゴとチョコのフルーツパフェ、そしてプリンにタルト、デザート尽くしに紅茶を注文した。
デザートを何を食べるか悩んでいたみたいで、結局、食べたい物全部頼んだみたいだ。
ふと思ったが、ここの料金は誰が払うのだろうか。
ミネルバ姫達と僕の仲間達、そして護衛の50人分、勿論必要経費で落ちるよね、ラウージャくん。





