270 捕虜輸送
僕は前に出て剣を構えた。
ここでまた再戦するつもりなのか。
姫を助ける為に、僕と戦おうとしているのか。
また戦って勝てる保証はない。
姫には見られたくないが、ディメンションルームに逃げ込むか、そう考えていた時、ガクシンが話始めた。
「俺も連れていけ」
「はぁ~?、今、何て言いました」
「だから、俺は姫の護衛だ。それにお前の事も気に入った。だから、俺も連れていけ」
そんな事、突然言われてもガクシンを連れて行ったら危険なのではないか。
もしかしたら、ラウージャやその側近を殺るため付いて来るのではないかなど、いろいろ考えていたら姫が先に、
「良いぞ、付いて参れ」
「は、有り難き幸せ」
あり得なくない?何で捕虜なのに勝手に決めてしまうの、僕が優柔不断だから決めきれないとでも言いたいの?
「翔殿、早く参れ」
いつの間にか、姫と爺、ガクシンは馬車に乗り込んでいた。
このまま連れて行って良いのだろうか不安に思える。
それを見透かしたように姫は、
「大丈夫じゃ、わらわ達は降伏したから、わらわの部隊はもう攻撃をしたりしない」
この馬車にも白旗を上げているし、空中戦艦の外に出ると戦艦にも目立つように白旗が掲げられており、空を飛び回っていたワイバーン部隊もいつの間にか居なくなっていた。
そして精霊達も見えないように、馬車と一緒に並走しているのが分かった。
外に出て分かったのだが、墜落したのが戦場から少し離れた平野地で、道なき道をバンブーテイルに向けて走らせていた。
舗装された道路ではなかったので、馬車はかなり揺れ、乗り心地が最悪だった。
その上、馬車の中は気まずい雰囲気で、ガクシンは目を閉じ腕を組んで、瞑想しているのか、寝ているのか分からなかったが、顔も厳ついし、体格も大柄の為、気迫に圧倒的され声をかけるのも躊躇われた。
爺は執事らしく、年齢からでは思えないほど背筋を伸ばしきちんとした姿勢のまま座っていた。
主から指示があるまでは、ずっとその姿勢のままなのだろうか。
そしてその主の姫は、妖艶な雰囲気を出しながら、足を何度も組み直し、此方をチラチラ見ているのが分かったが、僕はこれ以上関わりたくなかったので、外の景色に目をやり、気付かない振りをしていた。
心の中で早く着かないかなと思いながら、時間の過ぎるのを待っていた。
平野といっても、岩場や水場、森になっている所などあったので、それらを避けながら通って来たら、バンブーテイルに着いたのは空中戦艦から出発してから一時間後だった。





