25 スライム
僕とムラサメさんは、いつも狩りをしているフルールイルの周辺の森よりも更に奥、僕達がまだ行った事のない未開の土地を、ただひたすら真っ直ぐ駆け抜けていた。
日の光もあまり通らないような木々の間を風の如く走り、途中で出会うモンスターは、ムラサメさんがすれ違いざまに瞬殺していき、僕はムラサメさんの後を付いて行くのがやっとの状況だった。
これでもムラサメさんは全力で走ってる訳ではないだろう。
時々、僕の方を見て僕が付いて来ているか確認していた。
きっと僕のペースに合わせてくれてるんだろう。
「昼までには、ダンジョンに着きたいでござる」
「ハァハァ、どうしてムラサメさんは、ハァハァ、ござるを付けるのですか?」
「忍者は、ござるを付けるのが当たり前でござるよ。
喋らず急いで付いてくるでござる」
そうだったかなと思いながらもまあいいか。
僕には、お喋りしながら走り抜ける余裕はなかった。
僕はムラサメさんの後を追いかけ木々の間をすり抜けていく。
ムラサメさんは途中にあった大きな岩を飛び越え、僕は飛び越えきれなかったのでよじ登り、ムラサメさんは小さな川を軽々飛び越え、僕は幅が有りすぎて飛べないので川を濡れながら歩く。
小さな岩に躓き、木を避けきれずにぶつかったり、そしてムラサメの後を付いていったら、いきなり目の前が崖になっていて何メートルも落ちたり、ダンジョンに着く前に僕は死ぬのではないのか、自分でも良く無事でいられるのかが不思議なくらいだった。
道というか森の中に作られた獣道からも行けるそうだが、道を通って行くと遠回りになるらしく文字通り直線で突き進んでるたけなんだけど、特別何事もなく(僕は死にかけているが...)マップを開いても行った場所しか表示されないので、少しずつ通った場所がマッピングされていくだけだった。
エアルとアルケーは、一緒に回りの木々を縫うように飛んで付いて来ていた。
僕も、飛べたら楽なのに、羨ましく思える。
「もうすぐでござる」
暗い森を抜け、突然、目の前の視界が広がった。
そこは半径300メートルの円状の原っぱになっていて、その中心に古墳を思わせる巨大な岩、長さ約10メートル、幅約3メートルもの巨石が幾つも重なっているのが見えた。
近くまで来ると、その大きさに圧倒される。
ダンジョン入り口には、何故か狛犬みたいな石像が左右に立っている。
狛犬といえば狛犬なんだけど、微妙に何だかちょっと違う。
目的地に着いた時には、ダンジョンに入る前なのに僕の服や装備、体が傷だらけで既にボロボロの状態だった。
「さぁ、入るでござる。ここは地下30階の初心者用のダンジョンでござる。」
「すいません、ハァハァハァハァ。
ちょっと、ハァハァハァハァハァハァ。
休ませてください、ハァハァハァハァハァハァハァハァ」
ダンジョンまで走って来るのに、こんなにきついとは思ってなかった。
最近、皆とフルールイルの周りで狩りを行なっていたから、体力が大分付いてきたと思っていたが、帰宅部だった僕にはまだまだ体力が足りないようだ。
「仕方ない、10分だけ休憩するでござる」
「10分!?」
10分で、どれだけ僕の体力が回復するか分からないが、大の字になって寝そべり呼吸を整えていた。
ムラサメさん、ちょっとスパルタ過ぎるのではと言いたかったけど、このままでは番長に勝てないので頑張るしかないと感じていた。
休憩が終わり入り口からダンジョンの中を覗くと、中は暗く薄気味悪い、何か出そうな雰囲気を醸し出していた。
モンスターは出るだろうけどね。
「あの~、とても暗いんですけど…」
「普通はライトの呪文で明るくするでござるけど、敵が寄ってくるので暗視というスキルを使うでござる。
このスキルで、暗闇でも昼間のように明るく見えるでござる。
翔くんは使えるでござるか?」
「あ、ちょっと待ってください、今、確認しますから」
僕は急いでメニュー画面を操作していた。
「はい、今はまだですが、スキルを取得出来ますから直ぐスキルを取得します」
暗視スキルを取得し、スキルを発動させるとダンジョン内が外と変わらない明るさになった。
「おお凄い見えます。エアルとアルケーは大丈夫?」
「大丈夫よ、マスター、精霊は明るさはあまり関係ないから気にしないで」
「そうなのか」
「それでは、今日は地下一階層制覇で潜るでござる」
僕は初めてのダンジョンに足を一歩を踏み入れた。
明るさはあまり変わらないが、入った瞬間、何か外とは違う明らかに雰囲気が変わったような気がしたが、ただの気の所為かもしれない。
ムラサメさんが言うには、中はダンジョンらしく迷路になっているそうだ。
「私がサポートするから、翔くんメインで戦うでござる」
「え、僕が戦うんですか?」
「当たり前でござる、レベルもだけど戦闘経験積まないと、番長には勝てないでござる。
だからまずは精霊達の力は借りずに自分だけの力で魔物を倒すでござる。
ここはトラップとかないから、安心して進むでござる」
今ある武器は杖だけなので、杖を構えて進もうとすると、
「待つでござる、これを」
ムラサメさんから予備の剣を渡される。
「僕、精霊使いですが?」
「一階層のスライムは炎で燃やすか、剣で急所を突かないと倒せないでござる。
それから使えるスキルは、均等に使ってスキルレベルも上げるでござる」
「この剣は、どこから出てきたんですか?」
「そんな事も知らないでござるか?
メニュー、道具で出し入れできるでござる」
「あ、なるほど、でも意外とムラサメさんって、お喋りですよね」
「しまったでござる!
忍者は、無口じゃないといけないござる。
そ、そんな事はいいから、はやく進むでござる」
忍者はござる、無口だと思っているムラサメさんが、ちょっと恥ずかしがって、それがとても面白く可愛いらしく見えた。
こうして僕達は奥へと進みだしたが、中は意外と大きく広い。
マップで確認するが、入り口付近しかまだ見えない。
マップ画面がある限り奇襲を受ける事はまずないと思うが、外と比べると見える範囲がえらく狭まっていた。
まず最初の角を曲がると、そこにはスライムが一匹いた。
僕の頭の中では勝手にゲームで良く耳にする戦闘シーンの音楽が流れ、そしてテロップが頭の中で流れる。
『スライムが現れた』
直径50センチくらい、青色でつぶれた大福みたい、何やらスライムの回りがうねうね動いているように見えた。
まるで水が重力に反して、丸く固まっているようだ。
「翔くん、スライムは外周はどろどろだけど、中身はちゃんと体があるから剣で深く突くでござる」
疑う訳ではないが水の塊に本体なんて有るのだろうかと半信半疑で言われるまま、スライムの中心を剣で力一杯突いてみた。
刺した瞬間、感触が粘っこい感じがしたが、さらに奥へと突くと確かに硬い部分に当たった。
これが本体か?さらに剣を押し込む。
するとスライムは苦しがっているのか、外周のネバネバが剣を巻き込んで登って来ようとして、『うゎ』と思い剣を引き抜こうとした瞬間スライムは、破裂し霧となって消えた。
残ったのは聖霊石と小さな石だけだった。
「どう?、スライムは簡単でござる。
この辺りはスライムだけしかいないから、楽勝でござるよ。
その石はドロップアイテムで、鉄鉱石でござるな」
「スライムってなんか、気持ち悪い」
「気にしないでござる。
まだまだ、いっぱい居るから、どんどん倒して行くでござる。」
まだ始まったばかり、先はまだ長いけど番長倒して空を助ける為に強くなるんだと思いながら先へと進んだ。