244 王都戦 2
僕は『何故』と心の中で叫んでいた。
どうしてこんな風になったのか理解出来なかった。
今、僕達は何故かビルト兵士の陣地の中にいた。
僕達は、ラウージャが食事を一緒に食べようと言って、セレナさん、そして僕のファミリを連れて歩いていた。
他の仲間達は殿下と食事するのはちょっと…、と言ってついてこなかった。
ラウージャに何処で食べるのか聞いても、『付いてくれば分かる』と言って答えてくれなかった。
そして王都の中で食べるのかと思いきや、城門横の小さな扉から外に出てしまった。
外に出ては危険なのではと思いながら、どんどん歩いて行く。
無言のまま進んで行くと、いつの間にか回りにはビルト兵士が多く休憩していた。
その中を平気な顔して歩いて行くラウージャ、ビルト兵士は僕達の人数が少ない所為か、誰もこちらを気にする素振りを見せなかった。
そして僕達は回りより大きなテントの前まで来ていた。
テントの前には、30人の兵士とビルト軍の旗だろうか。
大きな旗が風で揺らめいていた。
テントの前まで来ると、流石に兵士達に止められた。
「お前達、何処の所属だ。
部署と要件を言え」
テント守る兵士は、上から目線で話をしていたが、テントを守る守備隊は兵士の中でも上の方なのかと感じてしまう。
「降伏勧告に来た」
と一言、ラウージャが言うと守備隊の兵士達はラウージャの顔をじっくりと見て
次の瞬間、
「ラ、ラウージャ殿下」
と言うと慌てたように守備隊の兵士はラウージャに敬礼をしていた。
「責任者に会いたいのだが」
ラウージャがそう言うと守備隊の兵士の一人が、
「畏まりました。只今、確認しますので暫くお待ち下さい」
そう言うと、慌てて走りだしテントの中に入っていった。
その間も他の兵士達は敬礼をしたまま動かなかった。
ラウージャが
「元の仕事に戻りなさい」
それだけ言うと兵士達は僕達から離れ、テントの回りの警戒に戻って行った。
僕には理解出来なかった。
食事を誘われただけなのに、何故こうなってしまったのか。
他の仲間達の顔を見ても、皆、心配そうな顔をして一言も喋らなかった。
暫くすると先程の兵士が戻ってきて、
「司令官がお会いになるそうです。
こちらへどうぞ」
僕はこのまま付いていっていいのだろうかと考えていた。
だって、敵のど真ん中で兵士二万人に囲まれたら流石に殺されてしまうだろう。
例えばテントに入った瞬間、テントの中は敵兵だらけで奇襲されたら逃げようがない。
ここはラウージャに進言しなければならないか…、僕は勇気を振り絞り、
「ラウージャ、このまま行くのは危険なのでは」
「何が、翔」
「だって回りは敵だらけだぞ。
総攻撃されたら終わりだぞ」
「そんな事できないさ」
「何で?」
「領主ビルトならその可能性もあったが、今は部下達だけになっているし、騎士団団長ともなれば、まず降伏勧告に来た者を殺すわけないさ。
それこそ騎士道から外れる事になるからな、それに僕には強力な護衛がいるしな」
「え」
僕の事?でも流石に二万人は倒しきれないか、それかラウージャを連れて逃げるか、逃げ切れる可能性は低いと思うけど、いざとなっ
たらディメンションルームを開けて仲間が入るまでの間、時間稼ぎをするしかないか…。
そんな事を考えているうちに兵士に連れられテントの中に入っていった。
長いテーブルには片側に六人のビルトの幹部達がクレハンから順に座っていたので、反対側にラウージャ筆頭に座っていった。
「降伏勧告にきたと聞きましたが」
「ああ、お前達の領主ビルトは捕まえた。
一応、偽物と疑われるかもしれないから、確認させてやったのだが本物だと確認出来たかな」
「はい、確認出来ましたが、ここで貴方を捕らえれば、まだ我々の戦いも終わりではないのでは」
「騎士団団長がそんな事するとは思えないが」
「ビルト様の為なら…、」
「それに私には強力な護衛がいるから、私を捕まえるのは無理だろ」
「ほう」
司令官のクレハンは僕達を一通り見回し、
「セレナ団長さんかな」
クレハンは薄笑いしながら答えた。
「残念ながらセレナ団長ではない。
僕の隣に座っている翔士爵だ」
そうラウージャが答えた瞬間、クレハンは少し驚いていた。
それはそうだろ、年齢だって若いし強そうに見えないし、でもレベルは…、あ、偽装石の所為か、相手にはレベル80に見えているはず、
でも実際はレベル200なんだけどね。
まあ、弱く見せていた方が、相手が油断してくれるかも知れないし、そう思っていたら、ラウージャが、
「これでも、隠密部隊を倒したのだぞ」
その一言で、一気にクレハンの形相が変わった。
温厚そうに見えていたが、今はうって変わって険しい表情で僕を睨んでいた。
それはそうだろう、僕一人の力ではないが僕達が隠密部隊を止めなければ領主ビルトが捕まる事もなかったはずだ。
「それより、司令官、我々は降伏勧告の大使として来たのだが、こちらでは接待してくれないのか」
「これは気付かず、申し訳ありません。
直ぐ支度をしますので少々お待ち下さい」
食事ってこれか!
でも、敵陣の真っ只中、こんな所で食べ物が喉を通るか!と心の中で叫んでいた。
続々と料理が運ばれて来て、軍事中というのにこれほどの料理が出来るのかと思うほど豪華な料理が出て来た。
鳥の丸焼き、魚の料理からステーキらしき物、ワインなどテーブル一杯に並べられた。
「それでは、ラウージャ殿下、遠慮なくどうぞ」
「それでは遠慮なく」
「不手際で毒が入っているかもしれませんが…、」
クレハンがしれっと呟いたが、ラウージャは気にする事なく、取り皿に料理をとっていた。
「翔、遠慮なく食べろ。
毒など気にしなくて良いから」
気にしなくても良いと言われても、本当に毒は気にしなくてもいいのか、食べた瞬間、泡吹いて死ぬなんて嫌だぞ。
っていうが、こんな状態で食べること出来ないだろう、普通は、それなのに精霊達とアナンタは特別として女性陣まで、遠慮なく食べているなんて…、悩んでいる僕が馬鹿らしく思えてきた。
「翔くん、早く食べないと無くなるわよ」
「食べないと損ですよ、ご主人様」
あ~もう、どうでもいいや、頂きます。
僕は手当たり次第、料理に手を付けていく。
美味しい、どの料理も今までと違った味付けで同じ料理なのに、違った料理に思えてくる。
やはり海に近い分、地域差があるのだろうか。
暫く、料理に舌鼓を打ちながら、あっという間に間食していた。
料理の後片付けが終わり、いよいよ本題へとラウージャは話始めた。





