221 民衆を襲う集団
アラームの音で目が覚めた。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、どうやら通信が入ったらしく、目覚ましがわりに起こされてしまった。
もう少し寝ていたかったが、そういう訳にもいかず、通信を取った。
「はい、もしもし、翔です。はぁ~」
起きたばかりなので、ついついアクビが出てしまう。
『翔、暇なら任務を与えるぞ』
『ラウージャ、バンブーテイルに着いてバタバタして、やっと休憩していた所だったんだぞ』
『そうなのか、すまないな』
『それで、どうするんだ』
『それがまだイルプレーヌの領主ビルトが、今援軍を送ったと連絡があった。
王都までは、まだ時間がかかるから僕達は次の街まで進もうかと思っている。
それで翔、悪いがバンブーテイルの回りを偵察してくれないか。
どうも嫌な予感がする。
翔が捕まえた集団が他にもいるかも知れないから、気をつけて調べてくれ』
『分かった、ラウージャも気をつけてな』
通信を切り、僕は早速、精霊達と一緒に空中偵察を行なった。
マップで確認しながら、辺りを確認していると前線の街から逃げ出した民衆達が、バンブーテイルには寄らず更に先を目指して長い列となって進んでいた。
流石にまだ戦闘の音は聞こえてこないが、いずれここも戦闘区域になることは間違いなかった。
街道沿いに民衆とは逆方向に向かいながら、確認していると先の方でざわめきが起きているのを確認した。
近づいて確認すると民衆の列に、50人くらいの集団が襲いかかっていた。
民衆は、悲鳴をあげながら逃げ惑い集団によって殺戮されていた。
泣き叫ぶ女、子供、恐怖のあまり立ち尽くす人達、我先へと逃げ出す人々、僕はあまりにも光景に怒りを超え、暗闇に引きずり込まれそうになるが、精霊達が近くで見守ってくれてる所為だろうか。
暖かい温もりを感じながら、暗闇に落ちるのをギリギリのところで意識が元に戻った。
「ありがとう」
「大丈夫ですか、翔様」
「無理をしない方がいいのでは」
「もう、大丈夫だよ、それに民衆を助けないと」
そう言うと僕は街道脇の森の中に降り立ち、そこから集団に向かって突進した。
いつもならトンファを出すのだが、僕は竜聖剣を取り出し、勢いのまま突っ込んでいった。
武器を殺傷能力のある武器に変えたのは、僕の感情の現れかもしれない。
武器を持たない、戦闘員でもない民衆を虫けらのように殺すなんて許せなかった。
僕はすれ違いざまに、剣を横に振るう。
なんて切れ味だ。
何の抵抗もなく、スッとすり抜けた感じだったが、人が上下、真二つに切り別れた。
竜人族からもらった剣は、切れすぎるような気がした。
僕は、手当たり次第、集団殺戮者達切り裂いていった。
50人の集団を殺し終わる頃には、辺り一面血の海となっていた。
民衆の被害も同じくらい出ていた。
「もう大丈夫だよ」
そう僕は近くの民衆達に声をかけたが、民衆は黙ったままだった。
僕が近づくと民衆は避けるよう逃げていた。
回りの民衆を見回すと誰の顔もひきつった顔のままだった。
集団に襲われて恐怖したまま、いや、僕が怖いのかも知れない。
自分の体を確認すると、返り血で体中真っ赤に染まっていた。
皆を守るために強くなったのに、強すぎる力は相手を恐怖させてしまう事に今頃になって気付いた。
僕は、民衆の見つめる目が嫌で逃げ出すように、その場をあとにした。
力をなくし、何も考えずにただ疲れたな、そう思いながら歩いていると、小さな子供が、
「ありがとう、お兄ちゃん」
そう言ってくれただけでも救われたような気がした。
軽く右手を上げ、合図を送ってから僕は去って行った。
近くの川で返り血を洗いながら、僕は何をやっているんだろうと自問自答していた。





