22 試合申し込み
「ウッ」
『ドン』
僕は、一瞬、何が起きたか分からなかった。
番長に向かって走っていたはずなのに、今は壁にもたれて倒れ込んでいた。
不意に腹に激痛が走り、息が出来ない。
僕は呼吸が困難になっていた。
殴りかかった時、どうやら腹に蹴りが飛んできたようで、番長は蹴った右足を伸ばした状態で止まっていた。
僕は番長から蹴られて反対側の壁まで飛ばされたみたいだ。
「翔!!」
「翔くん!!」
「マスター!!」
皆がの呼ぶ声が聞こえるが、腹の激痛と呼吸困難で声を出す事ができなかった。
「よくも、翔に...!!」
隼人も殴りかかりに行こうとしていたが、ミレナさんが立ち塞がり止めた。
「ミレナさんどうして?」
「あなたでは勝てないからよ」
「あ~あ、誰に向かって喧嘩売ってるのか分かってんのか!?
この街で俺様を知らない奴は居ないはずだがな。
お前みたいな弱い奴が俺にかなう訳ないだろう。
相手のレベルも分からね~のか、レベルが違い過ぎるだろう」
と、番長は威嚇しながら話かけた。
それに対してミレナさんは、落ち着いた声で話す。
「翔くんの先ほどの態度は謝るわ。
でも、その女の子達、ちょっと可哀想じゃない?」
「ハッ、こいつらは、俺の奴隷だ。
どうしようと俺の勝手だろう」
三人とも、虚ろな目でこちらを伺っているが、まったく生気を感じない。
何か催眠か魔法をかけられ従うように強制させられているのか。
体には何ヵ所もアザができ、腫れているのが見て確認できる。
「奴隷だからといって、あまりひどいことするのは、良くないわね。
私もちょっと本気出しちゃおうかなぁ」ミレナさんは言う。
「おいおい、俺様に喧嘩売るつもりか!?
確かに俺じゃあんたに勝てないだろうが、俺のバックには山賊達が付いてるんだぜ。」
「山賊?」
「ああ、俺様はここいらでは、かなり大きな竜骨山賊団の一員だぞ。
俺様に手を出せば何千という山賊が襲いかかってくるぞ。
それを相手にする勇気はあるのか」
番長は、強い口調で脅しをかけてくる。
ミレナさんは少し考えて、
「そうね、流石に私1人で山賊を相手にするのはちょっとね。
でも、どうしてもそこの三人を解放してほしいの。
どうにかならないかしら?」
「それなら、そっちの女三人と交換してもいいぜ」
三人というと、精霊達では無いだろうから、ミレナさん、沙羅、紗耶香という事だろう。
沙羅と紗耶香は一瞬で真っ青になっていた。
「い、嫌よ、奴隷なんて」
沙羅と紗耶香は口をそろえて言う。
しかし、ミレナさんは、
「いいわよ、でも勝負に勝ったらよ」
「勝負?」
「そうよ、私だと勝負にならないから、翔くんと試合して勝ったらよ」
「翔?こいつのことか?、弱すぎるぜ、勝ったも同然だな」
「待って勝負は1ヶ月後よ、あなたが勝ったら私達三人はあなたの奴隷、翔くんが勝ったらそっちの三人貰うわ」
「ちょっとミレナさん、勝手に決めないでよ!」
「そうよ、何で私達が賭け事の商品にされないといけないのよ」
沙羅と紗耶香はそれぞれ文句を言っていたが、ミレナさんはお構い無しに話を進めていた。
「ワッハッハ、たった1ヶ月で何ができる。
言っとくが俺の今のレベルは56だぞ、分かっているのか?
いいぜ、勝負してやる。逃げるんじゃね~ぞ」
「それじゃ1ヶ月後、街中では試合は出来ないから、街の入り口辺りでいいかしら?
あとそれ以上、奴隷いじめないでね。
いじめるとミレナちゃん、本気出しちゃうから。」
「ああ、いいだろ、精々《せいぜい》1ヶ月間頑張りな!」
笑いながら番長は席を立ち、奴隷を引きずりながら店を出ていく。
出ていく時、僕は空と目と目が合ってしまった。
「...翔くん」
「空...」
それ以上僕は何も言えなかった。
蹴り一発で動けない僕、目の前に助けたい人が居るのに助けられない。
今なら僕はどうなっても良い、番長を殺してでも助けたい。
こんなに悔しい思いは始めてだった。
今までレベルが早く上がるとか、精霊がファミリーになったとか浮かれていたけど、あまりにも力の無さに不甲斐なく思う。
沙羅と紗耶香は、その場に座り込み呆然としていた。
それはそうだろ、相手はレベル56、僕はまだレベル20、相手のレベルの半分もないのに1ヶ月では無理だろう。
誰もがそう思うだろう。
何故、ミレナさんを含め三人を賭けの対象にしてしまうのか、不思議でならなかった。
僕が負ければミレナさんも番長の奴隷になってしまうのに、本当に僕に勝てる見込みは有るのだろうか?
それとも別に何か思惑があって勝負を受けたのか分からないが、僕の所為で、とんでもないことになってしまった。
ミレナさんにその事で聞くと、
「大丈夫よ、翔くんなら。
さぁ!特訓に行くわよ」
何故かミレナさんだけは、楽しそうにしている。
ミレナさんを見ていると本当に勝てそうな気がしてくる。
そして特訓する為、急いで拠点に戻ることになった。





