216 進軍
「あれ~、どうして翔くん、ここにいるの。
千年の森に行ったんじゃなかったの」
「それがいろいろありまして、なかなか進めずに行ったり来たりしてます」
僕は今までの出来事を食事をしながらセレナさんに話した。
セレナさんは、僕の話に頷くだけで、ただ淡々と話を聞いているだけだった。
セレナさんは、ボ~とした状態で時折食事を口に運んでいたが、何処か虚ろになっているような感じがした。
「セレナさん、大丈夫ですか」
「え、あ、ごめん。ちゃんと聞いているわよ」
「話の事じゃなくて、体調が悪いとか」
「全然大丈夫わよ」
「何か悩み事とかあるのですか、さっきからボ~としているみたいでしたから」
「うん…、今回の作戦だけどね、イルプレーヌの領主が裏切ったら、たぶん白銀騎士団の半数は死ぬかも知れないの。
そのくらい厳しい戦いになるわ」
「作戦はもう決まっているのですか」
「だいたいね。仲間に死に行けと言いたくないけど、騎士団としては国に逆らえないし、どうしたらいいか…」
「セレナ団長、会議の秘密事項をそんなペラペラしゃべるものではないですよ。
何処に密偵がいるか分かりませんから」
「あ、申し訳ありません」
いつの間にか後ろに立っていたのは、ラウージャだった。
「いえ、気を付けてもらえればいいのですから。
私は翔に用があって来ただけだし、王宮以外では普通に接して下さい」
「はい、ありがとうございます」
「それで翔、領主から巻き上げた武器は何処に置いてあるんだ」
「それは、人に見られると困るから人気の無いところで」
「翔くん、人気のない所なら何処でもいいの?」
「はい」
「それなら、私が使っている団長のテント内でもいいかしら、何人かは、いるけれど暫くだったら人払いできるわよ」
「分かりました。それではテントに移動しましょう」
団長のテントは小高い丘に大きなテントが張られていた。
騎士団で会議したりする為だろうか、回りのテントに比べて二倍の大きさはあった。
中に入るとエレナさん、ミレナさん、ムラサメさん、三人で話をしていた。
「あ、お帰り、セレナ、どういう話になった?」
「あれ、翔くんに、それに…、殿下」
「申し訳ありません、気付かず」
「いや、王宮ではないから普通にいいから」
「じゃあ、翔くん、暫く人払いするから、終わったら声かけてね」
「あ、ついでになので皆さんにも、見てもらおうかと思います」
「翔くん、私達も見ても大丈夫なの」
「いずれ見せるつもりだったし、それに仲間ですから」
「翔くん…」
僕はディメンションルームの扉を出現させ、扉を開けて中に案内する。
「翔、これはいったい何だ」
「ラウージャ、これは異空間魔法で作られた僕の部屋だ。
ここからいろんな所に繋がっていたり、部屋として使っていたりとしているんだ。
武器は2部屋に分けて入れてある。
こっちだ」
僕は武器の置いてある部屋を開け、武器を見せた。
「こ、これは…、見たことのない武器ばかりじゃないか。
それもこんなに大量に…、これほどとは、これがもしイルプレーヌの領主に渡っていたら王国は間違いなく滅んでいただろう。
ありがとう、翔」
「僕一人では無理だった。
海賊達が手伝ってくれなかったら、移動させるのは困難だった」
「翔、海賊達はイルプレーヌの領主に全滅させられたのでは無かったのか」
「それが…」
「まだ、生きているということか、翔」
「ごめん」
僕はディメンションルームの扉の1つに立ち、海賊洞窟への扉を開けた。
「あ、お帰り、翔」
「翔様、お帰りなさい」
「今日は魚に山に行ったら獲物が沢山取れましたので、野菜を入れて鍋にしましたよ。よかったら食べて行って下さい」
そこには、海賊達と神楽、茜と同級生達がいた。
ラウージャが扉から出て来た時、最初に気付いたのはやはり神楽と茜だった。
素早くラウージャの前に移動し膝をついて頭を下げていた。
「お前達、普通にしていろ」
「は」
「翔、これはどういう事か分かってるんだろうな」
流石に犯罪者を匿っていると分かると、僕もただでは済まない事は理解できた。
「しかし、ラウージャ様、翔くんと海賊達がいなかったら、武器が領主に渡り大変な事になっていたはずです」
「分かっている」
「それなら…」
「今考えているから、黙っていてくれ」
「申し訳ありません」
「翔、この部屋は人は何人くらい入るんだ」
「海賊達を入れた時、200人くらいは入りました」
「そうか」
そう言うと暫く辺りを動き回り何かを考えているようだった。
「翔、海賊達は元漁師だった人達だったな」
「ああ、そうだが」
「なら、報告通り海賊達は領主に全滅させられた。
そしてあそこにいるのは漁師達で間違いないか、翔」
「え、それじゃ」
「間違いないか、翔」
「ああ、間違いないよ、ラウージャ」
「これ以上は問題起こすなよ、そしてこのディメンションルームを利用するかも知れないがいいか」
「断る訳にもいかないだろう」
「王都に戻って一緒に飲むか」
僕は、大地達に略奪など行わないように注意し、もうすぐ漁師として戻れるからこれ以上動かないよう指示した。
そして僕達は、王都へ戻り白銀騎士団の陣営で宴会が始まった。
ラウージャは独り言のようにブツブツ言っていたが、僕も酔っ払っていたこともあり、よく聞き取れなかった。
セレナさんとも話をしたかったがラウージャが隣にずっといたので、なかなか抜け出せずにそのまま朝を迎えた。
朝早くから誰かを呼ぶ声がする。
気がつくと頭が痛い、いつの間に寝ていたのだろうか。
いつも光景が広がっていた。
「殿下、ラウージャ殿下はいらっしゃいますか」
僕の隣を見るとラウージャはテーブルにうつ伏せになり、まだ眠っていたので代わりに僕が、
「ラウージャ殿下は、ここにいるぞ」
と叫んだ。
すると甲冑を着た兵士三人が近付いてきて、ラウージャを起こしていた。
「殿下、大変です。
ネイロ帝国が進軍してきたと報告がありました」
「な、なに、会議を至急開く、皆を招集してくれ」
「は、畏まりました」
「翔、お前も会議に出席してくれ」
「ぼ、僕も…」
大事な会議に僕も出席していいのだろうか。
皆、偉い人ばかり、知らない人ばかりの中に僕が出ていくのは何故だろうと考えていたが、ディメンションルームを使って作戦を考えるのだろうと思い、僕はセレナさんと二人で王宮へと移動した。





