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2 放浪者

戦場から離れ、30分は歩いただろうか。

怠い身体に鞭を打ち、よくここまで歩いたと自分に褒めてあげたい。

しかし、何処まで歩くのか気になるところだ。

自分の限界が近いのだ。

あと同じくらいの時間を歩けば、間違いなく僕は疲弊しきって歩く事も立っている事も出来なくなると言い切れる。

時間が気になるが、時間を確かめるに自分の姿を見て探すが、普段の服装にお気に入りのスニーカー、時計は普段から持ってないし、いつも持ち歩いてるはずのスマホを探してみたが見あたらない。


時間を確かめるすべがなく、実際の時間が分からないので、自分の感覚では、いきなりこの世界に飛ばされ気が動転していた事、そして何より戦場から早く逃げ出したいと気が焦り時間が早く感じたかも知れない。もしかしたら、30分よりもっと短い時間かも知れない。


周りにいる人に今の時間を聞いてみたが、曖昧な返事しか返ってこない。

この世界に時計という物は存在しないようだ。街や村につけば時間毎に鐘の音がなるらしいが、普段、街や村の外では日が昇りそして日が落ちるまでに戻るというサイクルが1日という事らしい。

日時計で生活をしているようだった。


そもそもここは何処なのか?

聞きたい事は沢山あったが、今は身体の怠く、喋る気力も体力もなかった。

幸いにも言葉は通じるようなので、後で聞く事にして今は付いて行く事だけで精一杯だった。



戦場からかなり離れた所為か、いつの間にか爆発音も争う声も、もう聞こえなくなり静寂した空気に包まれていた。

最初の頃は、後ろから追手が来ないかと皆が緊張していたので、僕もその緊張感の中で物音がする度にビクビクとしていたが、ここまで来れば大丈夫そうだ。

周りの人達も緊張感が解け、にこやかに笑いながら話歩いている。


景色は変わり、何もなかった道から周りに木が生い茂る森の一本道を歩いていた。

僕達の他に音を鳴らすのは、長閑な動物たちの鳴き声と自然界の鳴らす音だけだった。


何処に向かっているのだろう?


戦場から離れたお陰かも知れないが、僕は少し落ち着きを取り戻していた。


「ここまで来ればもう大丈夫だろう。

一旦、ここで小休止する」


白銀鎧の女性、団長と呼ばれていたので、この人がこの軍の団長なのだろう。

森の中で少し開けた場所で団長の号令がかかり、皆それぞれ思い思いに休憩を取る。

その場に座り込んだり、荷物から飲み物や食料を取り出し飲み食いをしたりしている人もいる。

何人かは周りの警戒の為か各方面に散らばり、辺りを警戒しているように見える。


僕は元々の身体の怠さもあり、普段からあまり運動しない所為もあって、30分くらい歩いただけなのに足取りが重く、精神的にもかなり疲れ果ていた。

戦場に倒れていた時から筋肉痛なのか身体が怠いしとても重かったが、戦場から逃げ出したい、その一心で何とかここまで歩いて来れた。

もう動けないかも知れない。

少しでも体力を戻す為にも今のうちに早く休憩しなければ…。


僕は辺りを見回し座る場所を探していたら、近くに大きな大木があったので、その大木の木陰に座り込んだら、座ったと同時に汗がどっと吹き出してきた。

それと同時に疲れが一気に溢れだし身体全体が重く、もう立ち上がる事は出来ないのではと感じていた。

もうこのまま動きたくない、大の字で寝そべりたい。

周りを見回しても知り合いなどいるはずなく、独り物思いに耽っていた。

木陰はとても涼しく気持ち良い風が吹き、全てを忘れさせてくれるような気がしていた。


『一体、ここはどこだろう?

何でこんな所にいるんだろう?

何してた?』


疑問が頭の中で巡り記憶を探ろうとしたが、何故か思い出せない。

考えようとすると頭に激痛が走るので、考えるのを止め、暫く何も考えず周りの景色を見ながらボーッとして疲れを癒していた。

体がだるい。このまま横になれば寝れそうが、あとどれくらい歩くのだろうか、体のだるさと疲れの所為でそんなに歩けないと感じてしまう。


いっそ、ここで別れて僕だけここに残っても良いのではないのか?

という考えが頭に浮かんできた。

だが、右も左も分からない場所で残されても、僕は生きていけるだろうか?

戦場で戦っていたというが、もし敵が追撃をしてきたら?盗賊が出たら?ユニコーンがいるくらいだから、モンスターもいるかも知れない。

休憩している場所の周りを警戒しているということは、そう言う事ではないのか?

いろんな考えが浮かんでくるが、このままここに1人で居るには危険すぎる。

僕には戦うすべが無いのだ。

付いて行くしかないのか?情報が足りなさすぎる。


「疲れた?これを飲んで。疲れが取れるわよ」


考えている途中で不意に団長と呼ばれる人が飲み物を持って声をかけてきた。

近づいて来たのに全く気付かないくらい考え事をしていたので、声をかけられた時、少しビクッと驚いてしまった。


戦場で聞いた声、そして特徴のある鎧から団長だと思ったが、今は兜を外していた。

兜を外した姿は、長く綺麗な黄色の髪に尖った耳、透き通るような白い肌、綺麗な顔立ち、目は青色、ミスコンがあったら必ず優勝できるくらい美人だ。

よく話に出てくるエルフだろうか?エルフだから美人なのか?それともこの人が特別に美人なのか?暫く団長の姿に見とれていると、


「私の顔に何か付いてる?」


「い、いえ」


見とれすぎて声がするまで気付かなかった。

突然の事で驚き自分の顔が赤くなっていないか、それが心配だった。

団長は凛とした雰囲気だが、口調はとても優しかった。


「え、いや、その~、はい疲れました...。

飲み物ありがとうございます」


木の器で作られたコップを受けとり飲もうとすると、中には青色の液体が入っていた。

何だか怪しい色をしている。

団長の方を見るとニコニコと僕に微笑みかけていたが、逆にそれが怪しく思える。

もしかして騙されている!?

ニコニコしながら近づいてくる人は怪しすぎる。

何か企んでいるのでは?と思ってしまう。

痺れ薬とか変な物が入って入るのでは?

特にこの訳の分からない世界に独り、何でも疑ってかからないと生き抜く事は出来ない。

そう思いながら暫く、コップに入った青色の液体を揺さぶりながら眺めていたら、


「あ、そうだね。いきなり知らない人から飲み物渡されても、怪しいわね、ちょっと貸して」


「あっ」


そう言うと団長は、僕に渡したコップを取り一口飲んだ。


「うん、美味しい。はい、飲んでも大丈夫よ」


コップが返されてきたけど、これって間接キッスになるのでは...。

今までこんな経験ないからどう対応していいのか分からなかった。

毒とか入ってないと分かったけど...、団長を方を見るとまたニコニコしながら僕方を見つめていた。

飲むしかないのか?

僕がこんな美人の飲みかけを飲んでも良いのだろうか?

そういう事は気にしない人なのか?


『えい!ままよ』


どうにでもなれと思い一気に飲み干した。

味は蜂蜜の味がしたような...、それよりか僕にとって間接キッスだけど、初めてのキッスじゃないか?

こんな美人となら…と少し動揺してしまう。


「どう、美味しいでしょう?」


はい、あなたの飲みかけで、更に美味しく頂きました。とは言えず、


「あ、はい、ありがとうございます。」


と普通に返事をした。


「ところでこれから何処まで行くのですか?」


「今から、私達が駐留する拠点に戻るわ」


「まだ距離はあるのですか?」


「そうね...」


僕は既に歩けそうにないので、せめてどのくらいの距離有るのか聞いてみた。

最悪、置いて行かれても、一本道のようだから1人で後から歩いて行く事も出来るだろう。

すると団長の後ろから男の声がした。


「団長、こいつ連れて行くんですか?」


見ると、背は低く筋肉ムッチリの男がいる。

戦場で声をかけて来た人だ。

ドワーフだろうか、黒い髭を生やし、バイキングスタイルのように鉄のヘルメットに角が、左右に伸びている。

動きやすさの為か部分的に、胸当て、腰当て、肘、手甲、膝、ブーツだけプレートアーマーを装着している。

武器は、自分と変わらないくらい大きな斧を抱えている。


「もちろんよ、紹介するわ、えーっと…」


「名前も知らないのに、連れて行くのか!

このおてんば娘が!」


「戦場から慌てて撤退したから、聞く暇無かったんだもん、戦場ではちゃんとやってるわよ」


「普段からきちんとすればいいんじゃ」


団長は団長と言うくらいなので威厳があり、恐い人かと思っていたが、意外とおてんば娘のようだ。

団長とドワーフ、話からしてどちらが偉いのかよく分からなった。

団長の方が偉いと思うけど、何だかドワーフは保護者のような存在、ただ単に上下関係がないのかも知れないが...。

ドワーフは、1人でまだ何やら小言をぶつぶつ言っている。


「あの~、すいません挨拶遅れて、僕、塚原 翔と言います」


「私はこの白銀傭兵団の団長をやっているセレナよ、よろしくね。

で、こっちが...」


「わしはボンゴじゃ、この傭兵団ができた時からいる古参者だ。

昔は、これでも名を馳せたんじゃが、今は弱小の傭兵団で、実際戦えるのは30人くらいかの、先代の時全盛期で300人はいたがの」


「ボンゴ、話が長くなるから昔話はそれくらいにして、それにそれは言わない約束でしょう。

それよりどう、この白銀傭兵団に入ってみない?

見ての通り人数少なくて困っているの、試しにどう?

まあ、無理強いはしないけど、後でゆっくり考えてみて」


「傭兵団に入らなかったら、どうなりますか」


「ん~、とりあえず私達の拠点の近くの街まで送るけど、そこから直ぐに職が見つかって生活できるかどうかとても厳しいと思うわ、だってあなた放浪者でしょ」


「放浪者?放浪者って、何ですか」


「ん~、あまりよく分かってないけど、たまたま出来た時空の歪みからこの世界に移動してしまった人のことを言うの、だからあなたの住んでいた場所と今のこの場所は残念ながら違うと思うわ」


「そ、そんな...」


「そんなに落ち込まなくても、特に生活に支障が有るわけではないから、あとで落ち着いたら、いろいろ教えてあげるからね」


しばらくして小休止が終わり拠点へと行軍をはじめる。

結局、後どれくらいかかるのか分からなかったけど、僕はこれ以上歩く事が出来ずに荷馬車に乗せて貰うことになった。

違う世界に来てしまったと言う事実を突きつけられ、自分自身どうすればいいのか、分からないまま日は暮れ始め1日が終わろうとしていた。








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