189 最後の試練
いつものように目が覚めるとベッドの中にいた。
自分の体を確認したが、隠密部隊と戦った傷や疲労は消えて無くなっていた。
僕が寝ている間に回復魔法をかけてくれたのかと思っていた。
「おはようございます~、ご主人様」
「あ、おはよう」
「翔様、お目覚めになられましたか」
「はい、え~っと何時間くらい寝てましたか」
「そうですね、2日ほどですか」
「2日も…、早く急がないと遅れた分取り戻さないと」
「お待ちください、ここはゆっくり休まれて体力の回復に努めてください」
「でもしかし、まだ半分しか攻略してないのに、あと何日かかるか分からないじゃないですか」
「その事なのですか、次の階層で終わりになりまして」
「え、どうして」
「この竜の試練ではレベルが200までしか上げることが出来ないのです。
翔様の今のレベルは196、レベル200になると魔物が作り出せなくなってしまいます」
「そんな」
「翔様のレベルが意外に早く上がったのが原因ですね、恐らく次の階層で竜の試練は終わりますので、体力を回復させてから進みましょう」
「分かりました、ラドン。
でももう大丈夫です。
体力も回復してますし、体も何だか軽いくらいです。
僕はいつでも大丈夫ですよ」
「そうですか、それなら食事を済ませてから出発しましょう」
「やった、ご飯だご飯~」
食事を済ませ、異空間室を出る。
次は51階層だ、次が最後になるのならどうなるのだろうか。
やはりレベルの高い敵が数多く出てくるのか、それともボス的な魔物が出てくるのだろうか。
ちょっと期待しながら、階段を登ると目の前に現れたのは、
「ちょっ、う、嘘だろ」
「お、お母さん~」
目の前にいたのはアナンタとラドンの母親である王竜だった。
見た瞬間、震えと冷や汗が出てしまい、威圧的な王竜に対して逃げ出しそうになる。
一度拠点に見たときの恐怖が甦り、狭い空間の中に閉じ込められているので、更に拍車を駆けた。
僕の何百倍もある大きさ、一気に噛み砕いてしまいそうな鋭い牙、ズタズタに切り裂いてしまえるような大きな爪、一撃ですべてを粉砕してしまうような大きな尻尾、自分の体を持ち上げ、すべてを吹き飛ばしてしまいそうな大きな翼、鋭い眼光で睨み付け、まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
「よくぞ、ここまで参った。
最後の試練は私を倒すことだ。
見事、私を倒して見せよ」
倒して見せよって、無理、絶対無理、あの圧倒的な強さにどう立ち向かえばいいんだ。
それにアナンタの母親だよ、それを攻撃するなんて。
「アナンタ…、」
と言いかけた時、既にアナンタは母親である王竜に向かって走り出していた。
「お母さんにだって負けないんだから~」
『お~い、帰ってこ~い』と言いたかった。
だって勝てる訳ない、王竜のブレス攻撃で一瞬で蒸発してしまうよ。
アナンタの無茶ぶりなのか、それとも戦う勇気なのか。
「翔様は、いかないのですか」
僕は考えていた。
アナンタ一人に行かせて良いのだろうか。
それではアナンタ一人を死なせてしまうかも知れない。
そうなった時、僕はどうなるだろうか、毎日罪の意識にさいなまれて、きっと後悔してしまう。
そう僕は後悔だけはしたくない。
ラドンは命の保証はすると言っていたが本当だろうか。
「ちくちょう!死んだら化けて出てやるからなラドン」
僕はアナンタの追い走り出した。
戦闘モードに入り、『スキル疾風迅雷』『スキル防護壁』『スキル肉体強化』、今考えられる全てのスキルを重ね掛けした。
「グオー」
王竜は威嚇の為なのか大きく吠えた。
そしてアナンタも負けじと返す。
「グオーオン」
それが開戦の合図となった。
王竜は近けまいと翼を羽ばたかせ、強風を吹き荒れ竜巻となって襲いかかってくる。
僕とアナンタは、飛ばされないようにするのが精一杯でどうすることも出来ず、竜巻に飲み込まれ、そのまま天井に叩きつけられ、真下の地面へと落下した。
アナンタは竜人族なので、頑丈でそれほどのダメージは受けていないようだった。
僕は防護壁をかけていたお陰で、被害はほとんどなかった。
近くだけでこんなに困難なんて、攻撃することは出来るのだろうか。
「翔様、私が囮になりますから、隙を見て攻撃してください」
「大丈夫なのか、アナンタ」
「はい、今の所は二人で試練なんて簡単に突破してしまいしょう」
「お、おう、そうだな」
子供だと思っていたアナンタの意外な言葉に、いつの間に成長したのだろうかと感じてしまう。
「よし、アナンタ行くぞ」
「はい、ご主人様」
僕とアナンタは、再度、王竜に向かって走り出していた。





