170 擬態魔物
僕は魔物に向かって全力で走っているが、それでも神楽と茜には追い付けなかった。
レベル差もあるだろうけど、身体能力が全く違うような気がした。
既に神楽と茜はビッグバットに攻撃を加えていた。
それぞれ魔物1体を両手に持った2本の小刀を使い、切り裂いていく。
あまりの速さに僕には3~4切り裂いたようにしか見えなかったが、実際は10回以上切り裂いていたそうだ。
神楽と茜が1体ずつ倒した頃に、やっと僕は追い付き戦闘に参加する。
「遅いなりよ、翔殿」
「翔様、早くしませんと全部狩ってしまいますよ」
「分かってます」
僕は剣を構え、ビッグバットの1体に狙いを定めて駆け出していた。
ビッグバットに目掛け剣を振り下ろすが、スッと避けられ空高く逃げられた。
「何をしてるなりか、早く倒すなり」
その間に神楽と茜は更に1体ずつ倒していた。
ビッグバットが僕目掛けて襲いかかって来たので『今度こそは』と思い、力一杯突きを行ったが、ビッグバットはさらりと交わして、僕に爪跡をつけ飛び去っていく。
痛みのする場所を確認すると、左腕の服が破れ服の隙間から血が滴り落ちていた。
服の下ではどうなっているのか気になったが、服を脱いで確認するには少し勇気がいるし、今はまだ戦闘中だ、後で確認しようと思った。
「大丈夫なりか」
「はい、何とか」
「今のままじゃ、ビッグバットは倒せないなりよ。
超音波で避けているの知っているなりか、避けるよりも早く動かないと倒せないなり」
そうだった、コウモリは超音波の反射で物の大きさ、形、距離などを判断してると聞いたことがある。
神楽と茜の戦闘を見てみると、ビッグバットを逃げようとしているが、それよりも早く動き切り裂いている。
なるほどビッグバットより早く動くか、スキルを使ってやってみるか。
僕はスキル疾風迅雷を発動する。
ビッグバットの1体に狙いを定め、一気に加速する。
ビッグバットは退避行動をとろうとするが、それよりも早く近づき、僕は剣を力一杯振り下ろし、ビッグバットを一刀両断にする。
「神楽、出来た」
僕はビッグバットを倒したことを喜んで、神楽に伝えようと振り向いて見たら、他のビッグバットは討伐され戦闘は終わっていた。
「まあ、最初だからこんなものなり」
「翔様、気になさらないで下さい。
私達は小さい時から、戦闘を教え込まれてきましたから、どのように戦えばいいか、何が弱点か直ぐ分かりますから」
何だか戦闘経験において、圧倒的違いを感じてしまった。
その時、何か揺れているような感じがした。
「何か揺れてませんか?」
「地面が揺れているなりな」
「翔様、地震か噴火の所為でしょうか」
「いや、これは気をつけるなり。
回りの確認を怠らないようにするなり」
何か嫌な予感がしたので、マップを確認する。
すると、ここから山の方へ200
メートルほどの所に、一際大きい魔物の反応があった。
「神楽、山の方へ200メートル巨大魔物です」
「確認してみるなり、付いてくるなり」
反応のあった場所近くで、速度を落とし気付かれないように近づいていく。
近く度に地面の振動は大きくなってきているような気がした。
大きな岩の陰に隠れて、反応のあった場所を確認すると、直経10メートルはあるだろうか巨大な岩石がヒビが入ったり、塞がったり、まるで呼吸をしているようだった。
昼間には全く気付かなかったが、夜間に動き出したのでマップに反応したようだ。
暫くすると大きな縦揺れ振動と共に、岩石が幾つかのヒビが入り、そこから頭、手足が出てきてフレイムゴーレムに変化した。
擬態魔物だったのだろうか、昼間にマップに全く反応しないなんて、擬態能力の凄さに驚いていた。
「フレイムゴーレムいましたが、どうしますか」
「三人で戦ってみるなりか」
「レベル高いようですが、大丈夫でしょうか」
フレイムゴーレムを調べてみると、レベルは161、僕達の誰よりもレベルが高い。
でも三人で戦えば何とかなりそうな気がする。
「三本の矢作戦なり」
「ん」
「翔殿は三本の矢、知らないなりか。
一本の矢は折れるけど、三本なら折れないなり」
「それは知っているけど、三本の矢作戦って」
「それは三人で、当たって砕けろなり」
「…、なるほど」
戦闘に入る前に僕は精霊達を呼んでいた。
「エルダとウエスタは防御をお願い、エアルとアルケーは攻撃お願い」
「分かりました」
「あいあいさ」
「はいな」
「ダーリンの為に頑張りますわ」
「皆、準備はいいなりか。
それじゃ、攻撃開始なり」
僕達はフレイムゴーレムとの戦闘に突入した。





