160 関所
ペイヴワールを慌てて出発し、イルプレーヌに向かってキャンピング馬車を走らせていた。
何事もなく進めば二時間で着く予定だが、関所が何個あるのか、その度に止められて調べられるのを覚悟していた。
街道を進んでいると、何かが匂ってきた。
嗅いだことがある匂いだが思い出せない。
進むに連れてだんだん肌にベトベトと、まとわりつくようなこの感じ。
そうだ、潮の匂いだ。
「クロ、この辺りはもう海に近いのか」
「はいニャ、左側の平地の奥に小さな丘があるニャ、その向こう側はもう海ニャ」
「翔くん、海を見てみたい」
「私も見てみたい」
「先に安全にイルプレーヌに着く事を考えてくれ。
海はその後でも見れるから」
「仕様がない、我慢するか」
「早く海、見てみたかったな」
女性達はすごすごと後ろの部屋に戻って行った。
しかし、精霊達の姿は見当たらなくなったので、自分達だけ海を見に行ったのかも知れない。
「ちなみに左側に大きな山が連なっているけど、一番大きな山が竜の住むと言われるフグエン山ニャ」
竜の住む大きな山は活火山だろうか、黒い噴煙が空高く舞い上がっているのが確認できる。
僕の力では、流石に竜には勝てないのでフグエン山には近づかないようにしようと思った。
暫く走ると関所が見えてきた。
街道部分だけ城門みたいな建物があり、その回りは何もない、街道以外の所を通れば見つからず行けるのではと聞いてみたら、クロが、
「無理ニャ、街道以外の部分には探知システムが作動してるニャ、すぐに発見されてしまうニャ」
「やっぱり、そうだよな」
素直に関所の列に並ぶ事にした。
偽装を発動させているが、大勢の兵士達を見ると緊張してしまう。
そして順番が回ってきた。
「よ~し、ここで止まれ。
お前達に質問する、何用で何処に行くんだ」
「はい、海賊退治のクエストでイルプレーヌに行く途中です」
「何処から来たんだ」
「イルフルールから王都経由で来ました」
「それならペイヴワールは寄らなかったのか」
「寄りましたが、何故ですか」
「そこで検問は受けたのだろう」
「はい」
「通行許可証は、貰わなかったのか」
「通行許可証?」
「聞いてないのか、ペイヴワールの奴らめ、一応、念の為、馬車の中を確認させてもらう」
兵士達は馬車の内と外をくまなく調べていた。
「問題はないようだな、それにしても豪華な馬車だな、レベル30じゃこんな馬車買えないだろう。
貴族の坊っちゃんなのか」
「いえ、借金で買ったので返して行くのが大変で、だからなるべく高い報償金を受けているのですが…」
「それにしても、海賊退治は無理じゃないか、もう少しレベルを上げないと」
「そうなんですか、この辺りでレベル上げする所ありますかね」
「そんな事はギルドにでも聞けばいいさ」
「わかりました」
「それじゃ、ほれ」
「これは?」
「通行許可証だ、これでイルプレーヌまでの関所は見せるだけで通れるはずだ」
「ありがとうございます」
「いや、こらこそすまん。
本当はペイヴワールで渡さないといけなかった物だ」
「そうなんですか」
「2度も調べてしまってすまなかった。
これも任務だから仕方ないのだ」
「いえいえ、任務ご苦労様です。
もう通ってもいいですか」
「ああ、大丈夫だ…。
ちょっと待て」
「そこの女、見たことあるような気がするが、どこかで会ったか」
ヤバイ、何とか冷静に対応していたが、心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。
兵士に指摘を受けたのは、ラウサージュだった。
王女だから、この国で知らない方がおかしい。
迂闊だった、僕はどう誤魔化そうかと考えていたら、ラウサージュが
「似た人は、世界に何人もいるでしょ。
あなたの知り合いの誰かに似ているかも知れませんが、私はあなたに会うのは初めてです」
「これは失礼しました。
確かに勘違いかも知れません。
どうぞ、お通り下さい」
1つ目の関所は何とか通過することが出来た。
「助かったよ、ラウサージュ」
「いえ、こらこそすいません。
私の所為で…」
「関所が通れたから問題ないよ、気にしない気にしない。
しかし問題はこれからだな、王女だから顔がばれている、それをどうするかだな」
街道は海のすぐ横を通る海岸道路になっていた。
海に触りたいと女性達が煩いので、止めれるスペースがあったのでそこで馬車を止め、暫しの休憩をとった





