158 クロネコ
街を散策していると、兵士をよく見かけた。
近くにあったお店に入った時、何気に街の事を聞いてみたら、この街の人口の半分は兵士達で、主にイルプレーヌに進入する盗賊を防ぐ役割があり、この街からイルプレーヌの間の街道に幾つもの関所があるらしい。
しかし、それは建前でイルプレーヌに進入した密偵や隠密を逃がさない為だとお店の人は言っていた。
情報をもらったからには、何か買わないと、そう思い探していると、空が1つの商品に見とれていた。
大きさは10センチくらいの何処にでもいそうなクロネコの置物。
目が宝石みたいで、キラリと光っていた。
「空、その置物」
「あ、翔くん、向こうの世界の事思い出してしまって」
「猫に思い出があるの」
「うん、家でクロネコを一匹飼っていたの名前はクロ、安易な名前でしょ。
最初クロネコと呼んでいたのだけど、いつの間にかクロになっていて、私にとてもなついていたわ。
今、どうしているのかなぁと思って」
僕はやぶ蛇をつついたのかも知れない。
皆、元の世界の事を言わないようにしているが、それは元の世界の事を思い出してしまうと帰れない絶望が襲いかかり、哀しみに打ちのめされ、生きる気力がなくなりそうだったからだ。
「え~っと、その~」
「あ、大丈夫よ、翔くん。
私、帰れないなら、この世界で翔くんと生きていこうと決めたから」
「強いな空は…」
「まだ何も出来ないけど、精一杯生きるつもりよ」
「ああ、分かったよ」
「それじゃ、記念にこの猫買って。
私、動物の中では猫が好きなの」
空はにっこりと微笑んでいた。
哀しみを見せないように笑っていたかも知れないが、とても愛らしく思えてくる。
クロネコの置物を手に取り支払いをする。
「ありがとうございます。
銀貨10枚になります」
高い、意外と高かった。
ただの陶器製の置物だと思っていたが、やはりクロネコの目の部分は宝石で出来ていて高価な品だったようだ。
「あ、空さんだけズルい」
「私にも買って」
「ご主人様、私にも」
「分かったから、1人1つだけだぞ」
「ありがとう」
「大好き翔くん」
「翔様、ありがとうございます」
皆、店の中の商品を探していたが、無かったらしく次の店に移動した。
食べ物屋があると、そこで立ち止まり買って食べていた。
よく食べるよなと思いながら、買い食いが始まった。
何軒目かでアクセサリー屋で沙羅とラウサージュがアクセサリーを見ている時、急に空が走り出した。
「空!、ちょっと空を追いかけて来るから待っててくれ」
アクセサリー屋と隣の店の間にある路地を、空は掛けていく。
「空、どうした。何があったんだ」
空は夢中で走り、僕の声は聞こえないようだった。
少し走った後、空は急に立ち止まり座り込んだ。
僕は追いつき何があったのか聞こうとしたら、そこには大きなクロネコがいた。
よく見ると人の形をしていた。
猫人族の子供のようだ。
倒れてぐったりとしている。
空は必至で問いかけていた。
「猫さん、猫さん、大丈夫ですか。
どうしたのですか」
クロネコは返事がなかった。
もう死んでいるのではないかと僕は思っていた時、クロネコは一言、
「お腹すいたニャ」
僕と空は、一度顔を見合せお互い笑いだした。
何だか久しぶりに笑ったような気がした。
僕達は買い食いを一杯した後だけれど、クロネコと食事をする為に食堂を探す事にした。
クロネコを僕がおんぶして、沙羅とラウサージュにはアクセサリーは食事の後でという事で了承を得て食堂を探した。
なぜ一匹だけ、腹をすかせたクロネコがいたのか疑問だったが、食事をさせて元気になったら聞こうと思い食堂へ急いだ。





