153 キャンピング馬車出発
防具やネックレスなどが出来上がるまで、王宮と街でブラブラしていた。
日用品に食材、調味料、人数が多くなってきたから食器なども買わないと、あと空の合成練習用に薬草、回復材、あと暇な時に読めるように大量の本を買ってリングボックスの中に詰め込んでいく。
あっという間にのんびりとした時間は終わり、2日が過ぎていた。
防具とネックレスが出来上がったので、僕達は出発前にラウージャに挨拶する為、王宮前で待っていた。
そこにはキャンピング馬車が用意されていた。
そこへラウージャがやって来た。
「すまんすまん、ちょっと会議が長引いてな」
「別にそのまま行っても良かったのだけどな」
「そんな事いうなよ」
「冗談だよ」
「まあ、気を付けて行ってくれ。
実は、ここだけの話、他の貴族達も手柄をたてたい為にかなりの密偵を送っているようなのだが、なかなか尻尾をつかませない。
それに報告されていないが、行方不明になっている密偵もかなりいるらしい」
「おいおい、結構危険じゃないのか」
「大丈夫、翔ならやれる」
「何処からそんな自信が出てくるんだ。
やるだけやるけど、あまり期待するなよ」
「分かってる、頼んだぞ」
僕達は、キャンピング馬車に乗り込む。
説明は技師から受けていたが、操作は簡単だった。
ほとんど運転席にある聖霊石に念じるだけで、馬車の向きを変えるには自動車と同じで丸いハンドルを回す事で向きを変える。
最初、自転車のようなバー状のハンドルだったが、運転しにくかったので丸いハンドルに改造してもらった。
進むにはハンドル横のレバーを動かすだけ、前に倒せば前に進み、後ろに倒すと後ろに進む。
倒した分だけスピードが上がり、最大に倒すと時速40kmくらい出るそうだ。
止まるときはレバーを真ん中にするだけ、急には止まれないということだね。
僕は運転席に座り、聖霊石に念じる。
まず魔力を通し認識させる。
盗むやつは、いないと思うけど盗難防止だね。
聖霊石が認識するとキャンピング馬車の動力が動き出す。
別に音はしないのだけど、魔力で運転席のランプ類、室内の魔力灯や魔力製品が使えるようになる。
偽装で馬を8頭前に出現させ、触れないように防護壁を展開させる。
「それでは、出発します」
ゆっくりとレバーを倒すと、馬車はゆっくりと進みだす。
街中だし、ゆっくりと進まないと慣れてないので人が飛び出したり、馬車が横切ったりすると危険だ。
窓を開け、王宮前に来ている人達に手をふる。
「行ってきます」
「バイバイ」
街中をゆっくりと進んでいるが、このくらいの大きさの馬車は珍しくないのだろう、誰も気に止める人はいなかった。
運転席の僕の隣には、ルナが座っていた。
運転の仕方を覚えて自分でも運転出来るようにしたいと言うことだったが、運転は簡単なのであとは馬車の大きさの感覚を覚えるだけだろうか。
街中では、障害物が多くて曲がる時や城門をくぐる時など馬車に当たらないか、ヒヤヒヤしながら運転していた。
そして何とか城門を抜け、街道へとやっと出た。
イルプレーヌまで一本道なので迷う事はないだろう。
少しスピードを上げて走ってみる。
馬車のクッションが効いているのか、ほとんど室内は揺れずに快適だった。
精霊達とアナンタは、二階に上がりゴロゴロしているようで、他の皆はそれぞれソファーに座り本を読んだり、景虎さんと茜さんは刀を見ながら手入れをしていた。
結局、景虎さんがムラマサを手にいれ、茜さんが正宗になったようだ。
「今日は途中にある街レクラメーシャンに泊まるか」
「でも、せっかく二階が就寝出るようになっているから、野宿したいです」
「ミディアさんの言うように、私もこの馬車に泊まってみたいわ」
近くに街があるのだから、宿屋で泊まった方が良いと思うけど多数決で野宿になってしまった。
防護壁を張っているので、余程の事がないと近づくことは出来ないだろう。
それに偽装だが、馬だけじゃなく他の物にも偽装することが出来るようなので、馬車全体を岩に偽装した。
防護壁で近づく事が出来ないので、大きな岩としか思えないだろう。
そして夕食の準備を始める。
料理出来るのが、僕とルナしか出来なかったので料理係となった。
二人で分担して料理をテキパキと作っていく。
いつものように精霊達にも手伝ってもらって、外にテーブルと椅子を準備して料理を並べていく。
皆が揃った時点で食事を始める。
精霊達、アナンタがよく食べるので多目に食材を用意したつもりだったが、イルプレーヌに着くまでに食材が無くなりそうだ。
街で買い物していくか、途中で狩りをするか、次の街に寄ってから考えるか。
食事が終わり、後片付けを済ませ就寝するため二階へと上がる。
「それじゃ、翔様の隣は私とエマさんだね」
どうやら僕の隣を順番で替わるようだ。
エマさんまで入っているということは、全員で入れ替わるのか。
僕が真ん中に寝て、その横に沙羅とエマさん、そのとなりにルークが寝る。
エマさんに手を出さないように、見張ると言いながらエマさんの隣に寝ているが、既にもう寝ているようだ。
あとは適当に寝ているが、また朝になれば場所が替わっているから意味がないと思うが…。
中は暑かったので天井のシートを開け、風通るように解放した。
虫が入らないように網戸は付いていた。
寝ていても夜空の星が見えて、とても綺麗だった。
「翔様、まだ起きていますか」
「ああ、起きているけどどうしたの、エマさん」
「いえ、あの、お礼まだいってなかったので」
「え、何のお礼?」
「私を助けてくれた事と、弟のルークを助けてもらった事、あといろいろ買って貰って、そして…、いろいろです」
「なんだそんな事か、気にしないで、僕がやりたいようにやってるだけだから」
「でも」
「気にしない気にしない、今はエマさんとルークが無事故郷に帰れることを祈っていて」
「はい…、ありがとう、分かりました」
エマさんと初めて話した気がする。
少しは慣れてくれたのだろうか。
本当に無事にたどり着けるのだろうか、不安は募るばかりだが考えても仕様がない。
夜空の星を眺めながら眠りに就くのでした。





