118 ハムレット
「隼人、どうしてスキルの名前に竜ばかり着けるの」
僕は疑問に思い聞いてみると、
「それは、竜って格好いいじゃないか、それに強そうに見えるだろう」
「それだけで、竜ばかり付けているの」
「それは違うぞ、翔、気に入った名前を付けるとモチベーションが上がって威力も上がるんだぞ、知らないのか」
「そうなのか、知らなかった」
「たぶんだけど…」
隼人は、聞こえないように呟いた。
ゴブリンと出会ってから、何事もなく進み、ハムレットの街が見える所までやって来た。
城門とその回りの城壁が壊れ、城門としての機能を果たしていない。
所々、城壁も壊れており、如何に攻撃が凄まじかったのかが伺える。
馬車は城門へと近づいて来たが、城門、城壁の修理は、まだ行っていないようだ。
というより、そこまで手が回らないのだろう。
城門には何人かの衛兵が駐在し、城門付近に作られていた仮の入場施設で審査して街に入る。
街の中は、ほとんどの建物が燃えて、燃えた跡が残るだけで、運良く燃えずに残った建物が何軒か、新しく建築している建物が多く見受けられた。
そんな中、ルナが一人走り出した。
突然のことで、僕達は馬車で跡を追った。
ルナは一軒の残骸跡に立ち止まった。
僕達は馬車を降り、ルナに駆け寄った。
「全部、燃えちゃった」
「あ、もしかしてルナが住んでいた所?」
「そう、でも思い出も形見の品も燃えて無くなっちゃった」
ルナは、呆然と立ち尽くしていた。
僕達は、何の言葉もかけきれず、ただ黙って見ているだけだった。
「あ!」
ルナは突然声を出して、残骸の中に入って行った。
「ルナ、危ないぞ」
僕は声をかけるが、そのまま残骸がどかしているようだった。
「あった」
ルナは両手に大事そうに持って戻ってきた。
「一つだけあった、思い出のペンダント」
煤で汚れていたが、金色のペンダントだった。
火災から残っているのを考えると金で出来ているのだろう。
「これ、私が鳥人族の村を追い出された時に、母から貰った物なの。
お父さんは、人族で私の記憶には居なかったわ、どうやって出会って、今何処にいるか聞きそびれちゃた」
「お母さんには会いに行かないの?」
「場所はちょっと遠いの、高い山脈に囲まれた千年の森って知っている?
その入り口辺りに集落があるの、でも私がハーフだから嫌われて追い出されたの」
「それでも、会いたいでしょ」
「…、そうね、会いたいと思うけど、今はまだ…」
そう言うと黙り込んでしまった。
深く話さないほうがいいかと思い話をそらす。
「ハムレットには、まだ宿がないらしいから、今日は野宿するから」
「え~、宿ないのか」
「博様、贅沢はいけません」
「だって野宿だぜ、藤堂どうにかしてくれ」
「坊っちゃん、それはちょっと…」
博の執事も大変だ。
言いたい放題のワガママを聞かないといけないから。
「博、皆も野宿するんだ、それに街の人達を見ろ。
1日位我慢しろ」
博は沈黙し言い返さなかった。
一度は、スラム街で過ごした経験を思いいだしたのだろう。
僕達は、街の隅の方に移動してテントを張る。
「まるでキャンプみたいやね」
「翔くん、お腹空いた晩御飯作って」
「たまには女性達で作ったらどうだ」
「だって翔くんが作った方が美味しいもの」
「キャンプだから、バーベキューでいいだろう」
「翔、何か手伝うことあるか」
「それなら、潤、肉、野菜を切ってくれ」
そしていつものように精霊達に手伝って貰い、釜戸を作り火を入れる。
テーブル、椅子も作り、肉、野菜を焼いていく。
そう言えばこの世界にタレとかソース類がなかった。
ただの焼き料理になってしまう。
いずれは作りたいと思いながら、塩を振り味をつけた。
ハムレットの復興にも手伝いたかったが、出来ることがなさそうなので、騎士達、大工などに任せるしかなかった。
明日には王都に着くだろう。
僕のテントの中には、精霊達、沙羅、ラウサージュ、ミディア、ルナ、エマが居て女性達の長話が始まっていた。
僕だけ除け者みたいになっていたので、早々に寝ることにした。
女性達って良く話が続くよなと思いながら一人眠りについた。





