11 歓迎会
日が落ち辺りは暗闇に包まれていた。
所々、置いてあるかがり火を頼りに、集合場所である傭兵団本部前にある広場へとやって来た。
隼人はセレナさんと別れてから青ざめたまま、ここに来るまで何かを聞いても頭を振るだけで一言も喋らなかった。
一体、何があるのだろう?
隼人を見ていると嫌な予感しかしない。
行きたくない気持ちでいっぱいだったが、折角、歓迎会を開いてくれるのだし、それにこれからお世話になる村の人々にも顔を見せとかないと、近所付き合いが悪くなると思いやって来たのだが、既に宴会が始まっており、何処から沸いてきたのだろうと思うほど人々でひしめきあっていた。
この拠点のほとんどの人が集まっているみたいだった。
真ん中に周りを照らす為か木材が組まれ、大きなかがり火が燃え上がっていた。
それを囲むように座卓テーブルが並べられ、その上には酒や飲み物、見た事もないような食べ物や料理が並んでいた。
本当に食べられる物なのかと疑問に思っていたが、この拠点の村人達はそれを美味しそうに食べ、笑い声や怒鳴り声、もう既に酔っ払っている人もいる。
過去に学年でやった林間学校のキャンプファイヤーを思い出し、周りを見ていると僕も一緒に楽しい気分になってくる。
「あっ、来た来た。
こっちに早くおいで~」
僕達が来たのを見つけたセレナさんが、手を振りながら呼んでいた。
「それでは皆さん静粛にお願いします」
ざわついていた会場が、セレナさんの言葉で静かになった。
団長と言うだけあって、指示は徹底されているのだろうか?
拠点の皆からも尊敬され、リーダーとして認められているんだろうという印象を受けた。
「新しく入団した人を紹介しますね。」
『はい、新しく入った人ここに並んで...。』
「それでは右側から翔くんに、祐太くん、海斗くん、紗耶香ちゃんに、沙羅ちゃんね。
皆、仲間になったんだから仲良くしてね」
「よろしくお願いします」
クラスメイト達は、それぞれあいさつする。
「明日から隼人くんとこの4人で、パーティー組んで貰うからね。
今日は仕事も全てを忘れて歓迎会を楽しもう~!
それでは、お待ちかねの新人歓迎会始めます。
え~っと隼人くんも一緒にやる?」
「遠慮します」
即答、隼人の返事は、とても早かった。
「それじゃ、4人で始めますか。
最初にいつもの新人恒例、私との剣稽古をやります」
木刀を1人ずつ渡たされた。
一体、今から何が始まろうとしているのか、突然の事で考える事が出来なかった。
そして木刀が全員に行き渡ると、セレナさんも木刀を持ち構えた。
「手加減するから、かかってきなさい。
一人ずつでもいいし、全員でもいいわよ」
『えっ!なんでいきなり!?』
だって今まで木刀は勿論、剣道なんてしたことないし、それもいきなりセレナさんと稽古だなんて、とてもじゃないけどムリムリムリ、絶対無理、無理すぎるだろ!
どう戦えば良いのかも分からないのに、団長になるくらいだからこの拠点でも1、2位を争う強さだろう。
そんな人と稽古だなんて、ゲームなら始めたばかりのレベル1の初心者が、いきなり魔王に戦いを挑むようなものだろう。
返り討ちにされるのがオチだろう。
周りではどうやら賭けが始まったらしく、いつまで立っていられるかという倒れる事が前提で賭けをやっているようだ。
「翔、男なら一人で行け!!」
隼人が叫んでいた。
自分は戦わなくて良くなったからといって、元気になりやがって!
知っていて黙っていたな!自分は逃げた癖に。
「どう見ても無理だろう!」
「翔く~ん、早くかかってきなさい」
「僕ですか?...」
仕方ない、セレナさんも手加減してくれると言ったから、木刀と木刀を何回か合わせればいいかと、そんな軽い気持ちだったが、それが後で後悔する事となった。
木刀なんか持ったことないから、剣道みたいに見よう見まねで構えてみる。
「それじゃ行くよー
ちゃんと受け止めてね」
と言って、駆け足でセレナさんが近づいてくる。
木刀と木刀が当たる瞬間、『えっセレナが消えた?』
と同時に突然、背中に痛みが走った。
「うっ~~」
僕はその場にうずくまり、痛すぎて言葉にできなかった。
一瞬、呼吸が出来ずに1人苦しんでいた。
『何が起きたんだ』
僕は訳も分からず頭が真っ白になっていた。
セレナさんの攻撃を背中に受けた事が分かったのは、呼吸が何とか出来るようになってからだった。
手加減してくれるはずじゃなかったのかよ!
痛過ぎるだろう!
「まだまだよ、行くよー」
まだ続くのかよ!
一体、いつまで続くんだ?
このまま僕は死んでしまうのではないのか?
ただの一方的な暴行ではないのか?
何度も意識を失いそうになりながら一方的に殴られまくり、何十回目だろうか。
ついに僕は地面に倒れた。
「さぁ、次はあなた達よ、全員でも構わないわよ」
祐太、海斗、沙羅、紗耶香の4人でセレナさんを囲んで戦う作戦に出たが、4人の攻撃が全く当たらない。
手加減しているといってもやはり強い。
次々に倒されていく。
女だからといって容赦ない。
皆、僕と同じように何度も叩きのめされた。
せめて一撃セレナさんに入れたいと僕は思った。
僕にセレナさんに立ち向かう勇気を、そして倒せる力を下さい。
こういう時は神頼みだ、だがそう思い願っても何も起こらない。
異世界でも奇跡は起きないかと思っていたら、不意に耳元で声がする
「あ~あ、だらしないわね。
一方的にやられて男の子なら一撃くらい入れなさいよ」
「誰?」
「え、私の声が聞こえるの?
ちょっと、こっち見て」
地面に這いつくばったまま、声のする方に顔を向け確認すると、そこには身長20センチくらいで透明な羽根、最初、蝶かと思ったが、小さな人に羽根がついたようなものだった。
「妖精?」
「私が、見えるの?」
「あぁ」
「凄い!セレナでも力を借りて使うことが出来ても、見ることも聞くことも出来なかったのに、流石、放浪者って事かしら。
私は風の精霊シルフ、名前はエアリエルよ、よろしくね。
やっぱり、近くで見るとあなたの波動が凄いわね」
「波動?」
「まぁ、簡単に言うと魔力のエネルギーみたいなものね」
「よし、決めた!私が手伝ってあげるから頑張ってみて」
そう言うと、僕の周りに風が絡み始めた。
そのお陰なのかは分からないが少し力が湧いたような気がした。
せめて一撃入れたい、その思いでふらつきながらもなんとか立ち上がった。
「よし、翔~!行け~頑張れ~!」
隼人が何か叫んでいるようだけど、僕にはもう周りの音は聞こえていなかった。
僕は木刀をゆっくりと構える。
立っているのがやっとの状態だが、セレナさんに一撃いれることが出来るだろうか?
僕は一撃の為に最後の力を込めた。
「翔くん、大丈夫?
これで最後、行くわよ」
セレナさんがまた駆け足で突っ込んでくる。
僕の周りの風は、セレナさんには見えないのだろうか。
先程とは違いセレナさんの木刀が正面から振り下ろされる。
木刀が僕の体に当たる瞬間、僕の周りの風に弾かれる。
「えっ!、うそ」
セレナが驚いた瞬間、一瞬だが体が止まっていた。
僕は、それを逃さなかった。
セレナさんに向けて最後の力を込めた突きを行なった。
「うぉーーーーーー!」
が、もう少しで当たると思った時、僕は力尽きその場に倒れて気を失ってしまった。
「ま、まさか、精霊魔法が使えるなんて...」
セレナさんは驚きを隠せなかった。
僕が最後に覚えていたのは、セレナさんの驚く顔。
そして次に気がついたのは、自分のベッドの上だった。





