107 星の力
王宮に近いていくに連れ、王宮を守る騎士の数も増えてくる。
アナンタを守り、精霊達の力を借りながら、ここまで来たがここから先へ進むのも困難になっていた。
『もう見える位置まで来ているのに』
自分の力の無さに、打ちひしがれていた。
もう逃げ道はなく、四方向から騎士団が迫っていた。
精霊達を一方向ずつつけて、何とか頑張っているが時間の問題だった。
エアルの鎌鼬、アルケーの水圧、エルダの土槍、ウェスタの炎柱、そしてそれぞれを交わしてやってくる敵を僕が倒していく。
ムラサメさんは無事だろうか、装置は破壊できただろうか。
僕は、気付かないうちに叫んでいた。
「ムラサメさ~ん」
「何か、呼んだでござるか」
不意に後ろから声がした。
振り向いて見ると、そこにはボロボロになり、至るところ傷だらけで血を流しているムラサメさんがいた。
「無事でしたか」
「無事に見えるでござるか」
「装置は、破壊できたのですか?」
ムラサメさんは、無言のまま顔を横に振る。
「そんな」
「王宮の横にある三角の建物の中にあるみたいでござるが、警備が厳重の上、防御魔法がかけられていて、誰一人として入ることが出来ないでござる。
たまに、ゴブリン達が出ていっているから、あの中で魔獣が作られている可能性があるでござる」
「それじゃ、破壊する事は無理何ですか?
セレナさん達が、危ないかも知れない」
「セレナ達には、頑張ってもらうことを祈るしかないでござる」
「この事をセレナさん達に伝えないと」
「それも無理でござるよ。
拙者も見つかってしまったし、騎士団達も一緒に連れてきたから、もう逃げることも出来ないでござる」
大勢の騎士達が僕達を取り囲んでいた。
この都市にいるほとんどの騎士達が集まっているだろう。
「気付いているでござるか」
「何をですか」
「騎士達の目を見て見るでござる」
言われた通り、騎士達の目を確認してみる。
騎士達の目は、皆、虚ろで何処を見ているか分からない状態だった。
「これは…」
「そう、多分、操られているでござるよ。
広範囲で多人数を操るには、強大な魔力か、強化装置を使っているかでござるが…」
「すべて、あの三角の建物の中ということですか」
あの建物さえ壊せれば、騎士達も元に戻るかも知れない。
でも、今の状態では無理だった。
それどころか、そろそろ限界が近いて来ていた。
「ご主人様、もうダメです」
「私も無理かもです」
「ダーリン、逃げて」
「ご主人様、限界でございます」
騎士達が、もう目の前まで来ていた。
僕は、もうここまでだと確信した。
『最後に皆に会いたかったな』
「アナンタ、まだ飛べるだろう。
逃げるんだ。
精霊達は、アナンタの警護を頼む」
「ご主人様は…」
「僕はいいから、早く行くんだ」
「でも、ご主人様が死んでしまう」
「いいんだ、僕の分まで生きてくれ」
「嫌です、ご主人様、最後まで一緒にいます」
「私達も、最後まで…」
「駄目だ、早く」
騎士達の猛攻撃が始まった。
横からは騎士達が、上からは槍、弓矢が雨のように降ってくる。
騎士達を切りつけていくがキリがない。
「翔、く、ん」
ムラサメさんが、何本の矢を受け、斬られ、僕の方までカバーしてくれていたのだろう、沢山の血を流し倒れた。
「ムラサメさん」
名前を呼ぶが、騎士達の攻撃を受けるので精一杯だった。
「ご主人、さ、ま」
そして、アナンタの幼い体に数本の矢が刺さり、血を流し倒れた。
「アナンタ~!」
僕は自分の力の無さに哀しみ、怒りを覚え、その瞬間、何かが弾けた。
僕は、暗闇の中にいた。
無重力なのだろうか、感覚が分からず浮いているのか、立っているのか寝ているのか分からなかった。
「誰も、居ないのか」
僕は叫んでみたが返事は帰ってこなかった。
そういえば、この世界に来た時と同じ事に気が付いた。
『もしかして、このまま帰れるのか』
と思ったが、このままでは帰れない、まだ皆を探していない。
それに精霊達、アナンタ、ムラサメさん、早く助けないと、もしかして僕は死んでしまったのだろうか。
まだ死ぬわけにはいかない。
もっと力が、力が欲しい。
その時、声が聞こえた。
「力が欲しいか」
「ああ、欲しい」
「どんな事をやっても欲しいか」
「欲しい、皆を守れるくらい、誰にも負けない力が」
「それなら感じるのだ、この星の力を、大地のぬくもり、大気の匂い、この星に生きている者すべての命を、聞こえてくるだろう生命の音が、大地の鼓動、大気の音、木の音、水の音、すべての音が星の音になる。
一度聞いているだろう。
星の音を、もう一度感じるのだ」
少しずつ音が聞こえてくる。
音は、重なり合い、音楽となり
音楽は段々大きくなってくる。
僕の回りに音楽は集まり輝き始める。
まるで、星が僕に少しずつ力を貸すように。
 





