106 追いかけて
どうしてアナンタが、こちらに飛んできてるんだ。
「どうしたでござる」
「アナンタがこちらに向かってきます」
「どうするでござるか」
「エアル、アナンタに戻るように伝えてくれ」
「は~い、ご主人様」
エアルが急いで飛んでいく。
だが、アナンタとワイバーン部隊20騎との戦闘が始まった。
ワイバーン部隊は、問答無用で攻撃を仕掛けてくるが、アナンタは軽やかに交わしていく。
人が操作して動かしているワイバーンよりも、アナンタ自身が飛んでいる方が優位に思えるが、数が多すぎるので時間の問題かと思われた。
アナンタが口を開け奇声を上げる。
「ガォー」
ドラゴンの咆哮だろうか、20騎のワイバーンは、人の意思とは無関係にちりじりになって飛んでいく。
『早く逃げてくれ』
僕は、そう願い続けていた。
その時、エアルが戻ってきた。
「ダメです~。絶対、ご主人様の側にいると聞かないです~」
アナンタは少しずつ近いてきている。
ここで、僕がワイバーンを攻撃すれば、僕の居場所もばれてしまうだろう。
どうするべきか。
「翔くん」
ムラサメさんが心配そうに、声をかけてくる。
アナンタは、必死にこちらに向かって飛んできている。
ワイバーン部隊は、まだ80騎、上空を旋回していた。
考えたすえに、
「ムラサメさん、すいません。
先に進んで下さい。
僕が、敵を引き留めます」
「翔くん、敵はワイバーン部隊に、まだ騎士団もいるでござるよ。
一人では無理でござる」
「アナンタは、この世界で僕の家族なんです。
僕に、見捨てることは出来ない」
「翔くんらしいでござるな。
分かったでござる。
なるべく早く装置を破壊して戻って来るから、それまで敵を引き付けてくれでござる」
早くアナンタを助けないといけないが、自分達の逃げ道も考えないと。
「ウェスタ、なるべく空き家に火をつけて回ってくれ。
騒動を起こして混乱させる」
「わかりましたわ、ダーリン。
ダーリンの為に頑張りますわ」
「エルダは、ゴーレムを出して、騎士団の注意を引いてくれ」
「了解しました、ご主人様」
「エアルとアルケーは、アナンタを助けるぞ」
「は~い、わかりました」
「承りました、ご主人様」
「ワイバーン部隊に向けて、ウインドカッター、ウォータービーム」
風の牙と高圧の水が、ワイバーン達に襲いかかる。
翼に穴が空き、落ちていく者、ワイバーンが暴れだし違う方向に行く者、操縦していた騎士が落ちて、ワイバーンのみになった者など、三割ほどが離脱しただろうか。
僕だけが、命令して何もしていないような気がするが…。
先程の攻撃でこちらの位置がばれただろうか。
ワイバーン部隊の半数がこちらに向かってくる。
「エアルはアナンタを、アルケーは僕を手伝ってくれ」
「は~い」「承りました」
アナンタはドラゴンの咆哮を発動させる。
何匹かのワイバーンは逃げ出したが、それほど効果はないようだった。
エアルのかまいたちがワイバーン達を切り刻み
アルケーのウォータービームもワイバーン達を貫いていく。
僕は剣を構え、襲ってくるワイバーンを迎え撃った。
数が多すぎてきりがない。
そこへ、街の向こう側から騎士団がやってくる。
ワイバーンでさえ、手こずっているのに騎士団が来たら…。
僕は死を覚悟した。
まだこんな所で死にたくない、最後まで足掻いてやる。
「泥沼」
やって来る騎士団の前に沼地を作ってやった。
これで迂回するしかないので、時間が少し稼げる。
僕はワイバーン部隊と戦いながら、場所を移動していた。
ワイバーン部隊の連携攻撃に僕は手こずっていた。
攻撃してきたワイバーンに、斬りかかろうとすると、別方向から来たワイバーンが襲いかかる。
それの繰り返しだった。
それでも何とかワイバーン部隊の半数は倒した頃だろか、ワイバーン部隊が撤退した。
「攻撃が止んだ」
僕は何とか生き残っていた。
「ご主人様~」
アナンタが翼を広げ降りてくる。
「どうして来たんだ」
「だって、ご主人様が私を置いていくから」
「アナンタが傷つくところを見たくないから、置いてきたのに」
「そんなの嫌なの、ご主人様を守るのが私だから」
ここまでは来たからには、どうしようもない。
何も言わず、アナンタの頭を数回撫でた。
皆無事脱出する事だけを考えよう。
ムラサメさんは、無事潜入できただろうか。
僕は、いつの間にか王宮の方へと歩み出していた。





