103 早出
「翔くん…、翔くん…、起きるでござる」
「ん、何」
「出発するでござるよ」
「え、もう?」
眠たい目を擦りながら、起き上がると辺りはまだ真っ暗。
「翔くんが、皆が起きる前に出発しようと言ったでござる」
そうだった、また出発するときに一緒に付いていくと言われたら面倒なので、皆が起きる前に出発する事になっていた。
気付かれないように、そっと起き出し精霊達を起こす。
精霊達なら、後で追いかけて来そうだけど…。
回りにいる皆の顔を一人ずつ見ていく。
アナンタ、寝顔が可愛いな、頬っぺたを指で突くと、
「もう、食べられない…」
夢の中でも何か食べているのだろうか。
空、沙羅、ラウサージュ、ちゃんと帰ってくるから待っていてくれ。
エマ、ルナ、まだ知り会って間もないけど行ってくるよ。
隼人、潤、博、紗耶香あとは任せたぞ。
静かに僕はその場を離れた。
「翔くん、これを着るでござる」
「何ですか、このボロ切れは」
「ばれないよう、装備は最小限でこのボロ切れを着て、乞食になりきるでござる」
僕はボロ切れを纏い、中剣だけを二本左右のホルダーに刺した。
「なかなか似合うでござるよ」
「ムラサメさんも」
素で言っているのか、皮肉なのか分からなかったが、こんな格好で誤魔化せるとは、思えなかった。
精霊達は、まだ寝とぼけいるみたいで、姿が見えないように空を飛んでいるけど、時々高い木にぶつかりながらフラフラと飛んでいた。
「直接、王都近くまで早足で駆け抜けるでござるよ。
ついてくるでござる」
最初は、余裕で付いて行けたが、少しずつスピードが速くなる。
どうやら、僕の様子を見ながら早さを決めているようで、最後の方はほとんど全速力で走っていた。
「翔くん、前方ゴブリン5、一気に倒すでござるよ」
「え、ゴブリン?」
僕には、まだ見えていなかった。
既に、メニューが使えなくなっており、敵の位置が把握出来ていなかった。
暫く行くと…いた!
ゴブリンだ。
見えた瞬間、ムラサメさんは加速して一気に5匹を片付ける。
早い、敵の発見もだけど、倒すのも早い。
ゴブリン自体、そんなに弱くないはずだが、これもレベルと経験の差だろうか。
敵を倒しそのまま街道を爆走して、駆け抜けていた。
 





