天竜族の里
マップ画面を確認していると、直ぐに奥の方から笑い声が聞こえてきた。
親子の別れで哀しんでいるのかと思いきや、長とミランダは笑いながらやって来た。
「翔殿、起きたのか?」
「はい、今、起きた所です」
「それでは朝飯を用意しよう」
「あ、昨日、遅くまで飲み食いしたので、まだお腹は空いてないというか、食べ過ぎ飲み過ぎで少し胸焼けしている感じなので、朝食は遠慮しときます」
「そうか、なら良い薬があるがそれを出そうか?」
「それの方が助かります」
長が手を『パンパン』と2回叩くと奥からメイドらしき人が、長に近づいて行く。
長から注文を受けると直ぐにまた奥へと帰っていく。
そして暫くすると、竹で出来たコップに入った水と丸い1センチ程の薬を持って来てくれた。
「これは天竜族に伝わる薬で胃痛や食あたりなどを何でも治る万能薬だ。
飲むがいい」
そう言われると飲むしか無さそうだが、薬を取って口に近づけた瞬間、『臭い!』
思わず顔を背けたくなるほど、臭い。
何の臭いだろう。
草?生ゴミ?兎に角、これは食べ物じゃないだろう。
思わず躊躇してしまう。
「どうした?
飲まないと治らないぞ」
笑いながら話かけてくる長を、これは本当に薬なのかと疑ってしまう。
業と食べられない物を出して喜んでいるのではないか、まさか、僕を試しているのかとさえ考えてしまう。
まあ、天竜族の長が勧めた物を断る訳にもいかず、
『ままよ、どうにでもなれ』
と言う気持ちで薬を飲み込んだ。
あれ、意外と何も味がしないと思ったのも束の間、口一杯に苦味が広がっていく。
『不味い!』
今すぐにでも吐き出したい衝動を抑えながら、コップの水を飲み干す。
『足りない!』
水を追加で下さいと言いたかったが、口の中にはまだ薬が残っている。
さっきの水では流し込む事が出来ていなかった。
僕は慌てた素振りで、何とかジェスチャーで伝えようと、コップと口と手振りで伝えたが、それが何とか伝わったようで、今度はコップを5個に水を入れて持って来てくれた。
それを一気に次から次に飲み干し、何とか薬を胃の中へと押し込んだ。
あまりの苦さに既に僕は涙目になり、飲まなければ良かったと後悔していた。
「良薬は口に苦しと言うからな、ハッハハハ」
笑いながら話している長を少し憎らしく思えた。
確かに胸焼けは収まった…というよりかは、苦味が強すぎて、その苦味がまだ口に残っていたので他の事には気が回らない状態だった。
本当に万能薬なのかと疑いたくなる。
当分の間、今度は苦味に耐えなければならなかった。
 





