凱斗の過去、葵の今
薄暗い雲から降る大粒の大雨にうたれながら道を歩く葵の頭の中には凱斗と香澄が唇を交えたあの瞬間の出来事が脳裏を駆け回っていた。
あの時、葵は凱斗にバカと一言呟き、その場を立ち去ったが本当は凱斗に香澄の事は興味ない、とはっきり言ってほしかった。
だがそれを聞くことなく逃げてしまったのは怖かったのだろう、もしも香澄の事が気になってるなんて話されたら、と思うと怖くて葵は逃げ出してしまったのだ。
葵の中の気持ちはさらに加速し、やがて走り出した。流れる涙を吹き飛ぶほどに全力で。
すると、
「なにしてんの」
聞き覚えのある声が横から聞こえ、葵は顔を上げその声のする方向を向いた。
葵が顔を上げ視界にいたのは凱斗の姉、舞冬だった。片手に下げているビニール袋の中身を見ると野菜などが入っている、夜ご飯の材料だろう。
「舞冬さん」
「何その顔」
「・・・・」
葵が下を向くと舞冬はため息を一つこぼした。
「凱斗の事なら聞いてあげるけど?あ、それ以外は却下ね」
「なら、話聞いてください」
普段はこんな雰囲気じゃない葵を見て舞冬はほんの少し覚悟を決めて家に招き入れた。
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「なるほど、凱斗がキス、ねぇ」
葵にシャワーを貸し、その後葵がうつむいていた理由を舞冬に話した。やはり舞冬は怒りと殺意が露わになっていた。
葵が下を向いていると舞冬は外でこぼしたため息と同じため息をして葵を抱きしめた。
これには葵も動揺し、えっ、と声が漏れる。
「あなたとはかれこれ8年ほどの付き合いになるわね、その中であなたは私にとって妹のような存在なの、凱斗以外にはほとんど興味ない私があなたを抱きしめているのは自分でも訳が分からないわ」
「舞冬さん・・・」
「私もあなたと同じような悩みを持っていたわ、その時にお母さんがこうやってくれたのよ」
「悩み?」
8年間一緒にいて一度も聞いたことのない舞冬の悩みが気になり聞いてみると、
「凱斗の事よ、私が11才の時に凱斗が来た、その時お母さんが言っていたのは親戚に預けていたもう一人の家族って言っていたわ、私は幼い時の記憶が無いのよ、だから凱斗が血のつながった姉弟だと思ってた、そのまま年月が経って私が15歳の時凱斗の事が一人の男性として好きだって気づいた」
初めて聞く舞冬の過去を聞き、葵は自分の事を忘れ舞冬の話す話に興味津々だった。
「でも相手は血のつながった実の姉弟、私は泣いたわ、凱斗を私の弟にした親を神様を恨んだわ、そしたらお母さんが話してくれたのよ、私と凱斗が実の姉弟じゃなくて凱斗は孤児院で育った赤の他人だったという事を」
「え・・・?」
今の今まで知らなかった葵は驚愕し、思わず声を上げた。
「それって、本当ですか・・・?」
「えぇ、凱斗の本名は剣咲凱斗、幼い頃に親に捨てられてお母さんが保護したそうよ」
明かされた凱斗の過去に葵は驚くがそれと同時に舞冬も凱斗と結婚できる、という事実を知り不安という気持ちもこみあげてきた。
「だからね、私今度告白するの、凱斗に。私は凱斗がどの女とキスしようが負けるつもりはないし、渡すつもりなんて毛頭ないわよ」
強くそう宣言する舞冬は葵の方を見て、葵に尋ねる。
「あなたはどうするの?8年間、積み上げたその気持ち、捨てるの?」
舞冬が葵にそう言い放った瞬間、葵の中の凱斗への思いが蘇ってくる。
「そんなの決まってるじゃないですか、凱斗は、誰にも渡しません!もちろん、姉さん、あなたにも!」
葵の中の迷いは消え去った。もやもやとした暗い感情は凱斗への「好き」で埋め尽くされ、だれにも渡さない、と心から誓った。




