狐の嫁入り
下校風景を撮るために凱斗、香澄は手をつなぎ、千鶴と乃々二人の二カメ態勢で最後の撮影が始まった。
凱斗と香澄の撮影を見ているのはもちろん楓花、葵、紅葉も影から監視している。三人の視線は凱斗を刺すような鋭い視線で隠れているが視線のせいで完全にいることがバレバレである。
それは鈍感な凱斗でも「あいつらどこかにいるな」とわかるほどだった。
「えいっ!」
と、手をつないでいた香澄は凱斗の手からすり抜け、凱斗の腕に抱き着いた。さっきよりも距離が近くなり柔らかい二つの豊満な果実が凱斗の腕を侵食し、さらに追い打ちをかけるように上目遣いまでもが炸裂し、もうどうすればいいのかわからなくなる。
「凱斗君、前にキスしたでしょ?あれは、いたずらとかじゃないよ、私は本気だからね?」
「えっーーーーー」
凱斗が口を開こうとした刹那、凱斗の口元に柔らかい感触と共に温かいものが唇を埋め尽くし、香澄の髪が風でなびき、優しい香りが鼻孔を刺激する。
凱斗の体と香澄の体はほとんど密着状態で身動きがとろうにもとれない。
そしてキスする直前に香澄はとある事を呟いていたのを凱斗は思い出した、「大好き」とか細い声で呟き凱斗は唇をふさがれた。
目を少し開けると香澄の顔はほのかに赤く、それをみて凱斗は胸が切なく傷んだ。
それから、唇と唇が重なった状態がしばらくたち、香澄が唇を離すと香澄は千鶴のほうへ小走りで駆け寄り、千鶴にしか聞こえない声で呟き、そのまま走って去っていった。
「えっと、これは予想外だったから驚いているんだけど、これは使ってもいいかな?」
「ーーーえっ、あぁ、香澄が良いなら俺は構いませんが・・・」
「そう、ありがとね、今回の取材はここまでにするよ、おつかれ」
生のキスシーンを始めてみたのか、すました表情の乃々は顔を真っ赤にして放心状態に陥っていた。
放心状態なのは乃々だけではない、さすがにあの大胆さには千鶴も少し驚いていたし、若干顔も赤くなっていた。
そしてキスされた本人に関しては、恍惚とした状態が続いていた。
「・・・・バカ」
影から監視していた葵は下を向きながら、足早にその場を去っていった。
「バカ・・・凱斗の・・ばかぁ・・・・」
葵の靴には大粒の涙が零れ落ち、葵の視界は涙で溢れた。
無理はない、目の前でキスされ凱斗もあんな表情をしていたのだ、あんなまんざらでもなさそうな表情は見たくなかった。
そんな凱斗に関することを思い出すと涙が止まらない、今まで一緒にいた約8年間の思い出が走馬灯のように脳裏をめぐる、それはまるで葵の中から凱斗が去っていくような感覚だった。
「旦那様の・・・浮気者・・・・」
傷心しているのは葵だけではない、もちろん紅葉も目に涙をためていた。
「唇・・・奪われちゃったな・・・」
楓花、葵、紅葉の気持ちを表すかのように、洪水のように雨が降り出した。




