エルフの村
(ここは?)
熊が倒れていくのを確認したところで気を失ってしまったのは覚えているけど、今まで寝ていたのはどうやら柔らかいベットの上のようだった。
目を開けて、まだはっきりしない頭で天井をぼんやり見ていると、すぐそばで人の話し声がきこえた。
「しかし、こんなに小さいながらも立ち向かっていった気力は戦士に最適な~」
「まずはちゃんと一族の伝統を教えて技の伝承を~」
「まずは本人の適正うんぬんよりも意思をじゃな……」
話し声の方向に首をグリンと倒してみると、なんだか話し合いが白熱しているらしい三人組がいた。
しかし、私としては話し合いの内容よりも、その三人の見た目があまりにも特徴的過ぎて声も出さずにあんぐりと三人を凝視し続けていた。
(か、髪の毛が薄緑色してる!!三人ともすんごい美形だし。
それに何より……み、耳が長い。この人たちって。)
記憶はいまだ戻らないけれど、目の前の不思議な見た目の三人組を表す言葉はなぜか頭の中に浮かんできていた。
エルフ
と。
話し合いを続けていた三人のうち、女性がふと、こちらを向き、言葉を出せずにパクパクと口だけを動かしている私と目が合った
「あら。ちょっと二人とも、目を覚ましたみたい。」
「っていう感じで気が付いたらあの森の中にいて、何もわからないんです。」
どうやら私はあの後この人たちに助けられたようだった。
あの場所で目を覚ましてから、湖で熊に出会い、倒したところまでを説明したところで、村長と呼ばれていた青年がこの場所のことを教えてくれた。
曰く、ここは私が目を覚ました森の、さらに奥にあるエルフたちの村であること、
たまにあの熊のような魔獣と呼ばれる生き物が森に入り込んでくること。
今回、その魔獣を倒すためにツルギさんが森に入っていたが、魔獣を見つけた時にはすでに私が倒していた後だったこと。
「じゃあ、森の中にあんな魔獣?がいたのはたまたまで、普段はあんなのいなかったんですね。」
「そうじゃな。そう考えると君はとても運がわるかったの」
「しかし、その年で一人で魔獣を倒してのけるとは。なかなか戦士の素質がありそうだな」
「ちょっとツルギ!!その話は今はまだ早いでしょ。」
またツルギさんとツナギさんがケンカを始めそうになってきた。
慌てて話題を変える。
「あ、あの 皆さんはエルフ……なんですよね」
言ったとたん三人にキョトンとされた。
「?そうじゃよ 君と同じな。」
「え?」
「君もエルフじゃろ?そんなことまでわからなくなるものなのかの?ほれ」
そういって私に謎の円盤を渡してきた。
表面がピカピカに磨かれた金属みたいなものだったけど、どうやら鏡みたい。
覗き込んでみると
「!!っ」
髪の色こそ違うものの、目の前の三人と同じようにとがった耳をした美しい顔の少女が、鏡越しにこちらを覗き返していた。
少女が鏡を見て驚いているのを眺めながら、村長達三人は少女に聞こえないように小声で話し合う。
「どうやら本人は全く何も知らないようじゃの」
「ということは村で育ててあげることになりそうね。ふふふ」
「何上機嫌になってるんだよ。」
「だってあの子かわいいじゃない。村でもちょっと見ないくらいの」
「まあよい。少なくとも何か思い出せるまでは家で預かることにするかの。」
そんな話をしていると少女がやっと再起動した。
「あ、あの」
「どうした?」
「えっと、私も同族、つまりエルフなんですよね。それにしては私だけ髪が白いみたいなんですけど」
「はぁ。そこまでわからないってことは本格的に何もかも忘れちまってるんじゃな。」
「君はエルフはエルフでもハイエルフだよ~」
「わぁ!?」
ツナギさんが後ろから私を抱き上げてそのまま膝の上に座らせた。
そして私の髪の毛を手で優しく流す。
「白い髪の毛はハイエルフの証。本来は聖域って場所にまとまって住んでいるはずなんだけど、君のことはわからないんだって。」
「ええ!じゃあ、私はどこから来たんですか」
「ごめんね、ちょっと調べてみたけどわかんなかったんだ。でも大丈夫だよ」
ツナギさんは話ながらずっと私を優しく撫で続けてくれた。
「心配せんでも君が何者かわからないからと放り出したりせんよ。わしらの同族であることには変わりないはずじゃからな。」
「それにお前はまだ子供だ。大人に守られるべきな。」
どうやら三人とも私をこの村に受け入れてくれるつもりらしい。
森で目覚めてから何もわからなくて不安だったけど、何とか居場所を見つけることができそうだった。