猛獣
幽霊さんとの別れの後、幽霊さんの指し示した方向を目指してひたすら進んでいる。
もらったカバンの中には、少し大ぶりなナイフと小さめのナイフ
水袋と、その中に入れておくと水をきれいにしてくれるらしい浄化石がいくつか、
強めにこすり合わせると火がついて消さない限り中の魔力が尽きるまで(魔力!!)たいまつくらいの火を出し続ける篝火石。
あと、ものを小分けに入れられる小袋いくつか、なんてものがはいっていた。
食料や採取した薬草なんかもあったらしいけどさすがにダメになっていたみたい。
何とか水場を発見して水袋にくむことができた、これでとりあえずは水は大丈夫そう。
あとは食料さえどうにかできればいいんだけど これに関しては幽霊さんからとんでもない方法を教わった。
曰く
『食えるもの全部教えてる暇はなさそうだからとりあえずこいつを教えておく
これは毒消しになる薬草だ。この森にはやべぇ毒を持ってるものはとりあえずないはずだ。
せいぜいはらいたを起こすくらいだ。それならこの薬草で治るから
だからとりあえず食ってみてやばそうならこの毒消しを飲め。それで識別可能だ。
あ、キノコだけは絶対に手を出すなよ』
だそうです。
漢識別とか言うらしい。
まあ、一日あればたどり着けるらしいし、そこまでの無茶をするつもりはさすがにないなぁ
着くよね?
三日後
私はまだ村にたどり着けないで焦っていた。
「そっか、一日で着くっていうのは道を知ってるならって前提だったんだ」
そもそも村に近づけているのかすらあやしい。近くに人が住んでいるなら踏み固められた道くらいあるはずなのに。
「まずい、もう水袋が空だ。」
腰に結び付けている水袋はもう頼りない重さしかなかった。しばらく水場を見つけられてなくて飲み水の補給をできていない。
食べ物はどうにか木の実や果実が確保できているから、水分が全く取れないわけじゃないけど、このままだとどれくらい持つのか。
焦る理由は他にもあって、昨日くらいから木の幹とか大きな岩の表面に大型の動物の爪痕のようなものが残っていた。
「大型の動物はいないって思ってたのに。」
昨日初めて痕跡を見つけたとき、万が一に備えて武器を作った。
とはいっても簡単なもので、木の棒の先端近くにツタを固く巻いてから棒の先端を裂いて、裂け目に割って鋭くした石を挟んでさらにツタを巻いて固定した即席の投げやり三本。
さらに石の代わりにナイフを挟み込んだちょっといい槍一本
あと木の皮をはいで作った即席の盾
足元は植物を編んで作ったサンダルみたいな靴を履いている。
私はこんなものを作ったことは多分無いはずなのに、一つを試行錯誤しながら作ったとたんに何故かどんどんと作れてしまった。
実は私には隠れたモノづくりの才能でも有ったのかな。
なんて思っていたんだけど、投げやりを練習してみて、少し練習しただけで狙ったところに投げられるようになったのでどうも今の自分は才能の塊なんじゃないかと思い始めた。
「ふふふ~ん来るなら来い!!」
まあ、ほんとに何かの猛獣が出たらさすがにまずいとは思ってるけど、自分を奮い立たせるためにあえて強いことを言ってみる。
正直、昨日木の幹に爪痕を見つけてしまってから恐ろしくて眠れていない。
夜は木の洞に潜り込んで震えながらすごした。
そのせいで余計に水を飲んでしまった気もする。
ふと、目の前の森が途切れているのを見つけた。
「もしかして、村に着いたのかな?」
さすがに飛び出すようなことはしないでそっと木の陰から様子をうかがってみる。
そこには森の中にぽっかりと空いた大きな池があった。
「おお!やった、村じゃないけどこれで水が汲める。」
腰から水袋を外して池のふちまで行って水をくむ。
水袋の口からコポコポと泡が上がってくる。
ピッチャピッチャ
コポコポ
ピッチャピッチャ
「うん?なんだろうこの音……」
ふと横を見ると
池の水を飲みながら目だけでこちらを見ている熊のような動物がいた
目が合う
コポポポポ……
水袋が満タンになった。
とりあえず水面から取り出して、口を縛って腰に戻す。
そしてもと来た森のほうにゆっくりと戻っていく
目は離さない
ピッチャ
熊のほうも水を飲み終わって視線を外さないまま体をこちらに向ける
「……」
「……」
そのまま木の裏へ飛び込んだ!!
グルゥオオオオオ!!
「ひゃん!!」
視線が切れた瞬間に熊が咆哮を上げてこちらに向かってくるのを感じた。
「ううぁぁどうしようどうすれば」
とにかく無我夢中で木に登る。
何とか木の上の方まで登ってこられたとおもって、下の様子を見てみると
グルルルル
がっしがっし
「わああ!普通に登ってきてるぅー!!」
は!そういえばこんな時のために武器を作ったんじゃないか。
背中に括り付けていた投げやりを一本抜き出して下に構える。
狙うは顔!!
投げ落とすように飛ばしたやりは思った以上に鋭く熊の頭に飛んで行った。
やったと思っていたけど、やりは眉間のあたりに刺さったあと分厚い頭蓋骨を滑るようにして後ろにはじかれてしまった。
……グォオオオ!!
致命傷にはならないけど、大きな傷をつけられたことに怒ったらしい熊はまた私めがけて登り始める。
うわわわ!何とかしないと。
もう一本のやりを取り出して、今度は目を狙って投げてみる。
しかし、さすがにさっきので警戒されていたらしく、腕を一振りさせてはじかれてしまった。
さすがにもう一本を投げる余裕はない。
ていうかあと一本しかない。
しかし下から勢いよく熊が登ってくるので下りるわけにもいかない。
となったら 別の木に飛び移るしかない!!
迷っている暇はないから必死で枝の上を走り隣の木に向かって全力で飛んだ。
「わっとっと意外といけるじゃん!」
予想以上にうまく飛び移ることができた。 少しよろめいてしまったけどこれくらいなら大丈夫そうだ。
さらに次の木に飛び移る。
グオッグオ!!
振り返ってみるとさすがに熊もここまで追ってこれないようで木から降りるところだった。
しかし降りたらまた下から追いかけられる。
今のうちに距離を離さないと。
私は木の上をひたすら飛び移って移動を繰り返す。
下では熊がこちらを睨み付けながらひたすら追いかけてきていた。
どこまで逃げればいいんだろうと弾む息を必死に抑えながらジャンプを繰り返す。
すると先の地面が大きな段差になっているのを見つけた。
あれだと木の上からだと進めるけど地上からだと迂回する必要がある。
そこにたどり着いてから下を見ると案の定熊はおってこれなくて迂回しようとしていた。
「よし、今のうちに隠れよう。」
熊は段差を迂回して小さな獲物が逃げ込んだあたりに登ってきた。
しかし上を探してみても先ほどまで木の上を飛び回っていた小さな影は見つからなかった。
臭いで探そうとするも先ほど額につけられた傷から血が流れて鼻について、自分の血の匂いであまり臭いをたどることができなかった。
頻繁に鼻をなめとることで少しだけ臭いを追ってみるとどうやら地上に降りてきて、このあたりに潜んでいるようだった。
ドスン!!
近くの木に体をぶつけて爪をたたきつける。
たいていの獲物は潜んでいてもこうすると驚いて飛び出してくる。
ガサッ
案の定近くの茂みで物音がしたのでそちらにとびかかる。
しかしそこには獲物はおらず、小さなカバンが落ちているだけだった。
ふんふんと臭いを嗅いでみると、先ほどの獲物の匂いと、森で取れる木の実などの匂いがした。
カバンに噛みついて引き裂き、中の食料を食い荒らす。
思わず夢中になっていると。
「こっちだバカ熊!!」
はじかれるようにそちらを振り向く 瞬間
狙ったかのようにその目に迫る石のやりの
先端
ぐしゅ
ギャアアアアウ!!
「よおし!!」
木の皮を使って隠れていた木の洞から飛び出す。
カバンにため込んでいた木の実が荒らされたのは痛けど、そのかいあって最後の投げやりを熊の目に当てることに成功した。
明らかに当てるのは難しい条件だったけど、不思議と失敗する気はしなかった。
これで逃げてくれたら大成功だったけど、熊は闘志を失っていないみたいで、いまだにこっちに向かって敵意を向けてきている。
あと手元にある武器は大型ナイフと手製やりがひとつずつ。
さすがにナイフを使って作ったこのやりを投げてしまうのは厳しい。
熊は頭を振ってやりを抜こうとしたが、やりの先端の石の固定が外れたようで、傷に残ったようだった。どうも痛みで朦朧としているようにみえる。
どうやら攻めてくる気力は無いようで、ひたすらこちらを睨み付けながらカウンターを狙っている……のかな。
こちらもやりを構えるけど、反撃を受けずにこちらから仕掛けるには少し長さがたりない。
お互いに膠着状態になっている。
仕掛けるしかない、か
手元の木の皮の盾を熊に向かって投げつける
どうせあの盾だと熊の爪をたたきつけられたらばらばらになってしまう。
案の定警戒していた熊は盾を爪でたたき割った。
でも同時に動き出した私のことを見失った。
すでに私は熊の振りぬいた腕の方向に回り込んでいた。
そして、無防備に伸びきった腕のした、わきのあたりにやりを突き立てた。
グオォ!ッゴプゥ
熊は口から血を吹き出しながらも私がいる方向に腕を振り回す。
やりが抜けずにもたついていた私はそれを完全にはよけられずに服にひっかけられてしまった。
ふきとばされて背中から木にぶつかって息ができなくなる。
「つっ~~!!」
熊は血の泡を口から吹きながらもこっちにやってこようとしていた。
うぅ、もう少しだったのに。このままやられちゃうのかな。
でもまだナイフが残っている。ただでやられてやるもんか。
ナイフを取り出して、熊を睨み付ける。
しかし、熊はなかなかこちらにやってこない
見ると熊はゆっくりと倒れていくところだった。
「か、勝ったの?」
その様子を見届けて、私も背中の木にもたれかかるようにして意識を失ってしまった。