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第2話 剣と魔法の助け舟

 大きな音をたててゴーレムの拳が地面に叩きつけられ、土煙が舞い上がる。次第に薄まっていく土煙の中から2人の人影が飛び出した。一真と沙紀だ。咄嗟に二人とも横に跳んだことで何とか拳は回避することができていた。

「いつの間にこんな近くに……」

一真は剣を構える。ゴーレムはゆっくり拳を地面から離す。振り下ろされた地面は小さなクレーターになっていた。赤く光る眼だけがある頭部がこちらを向き、ズシン、ズシンと音をたてながら近づいてくる。どうやら動きは遅いようだ。一真は思い切って相手に突っ込む。ゴーレムは右腕を引き、パンチをしてきた。しかし、先ほどの振り下ろしより動きが鈍い。一真はさらに右の方に移動して避ける。そして伸ばされた右腕を切りつけると、妙に柔らかい手ごたえで右手が落ちた。どうやら硬いのは拳の部分だけのようだ。サッと後ろに下がると剣を構えて様子を見る。右手は崩れて土に戻っていった。今度は切り口から粒子は出ていない。

(動きは遅いし、何とかなるか? )

「うぉぉぉ……」

突然ゴーレムがうめき声のようなものを出した。すると、切り裂いた部分の土がボコボコと盛り上がり右手を形成した。

「なっ回復するのか! 」

「くっ! 」

沙紀の矢がゴーレムの頭部に突き刺さる。一瞬動きが止まるが、まるで効いてないかのようにまた動き出す。

「ダメみたいね……逃げましょう! 」

「言われなくても! 」

戦闘経験なんてあるわけがない二人にとって、目の前のゴーレムは先ほどのイノシシよりはるかに危険だった。二人はゴーレムに背を向けて全力で走り出す。相手も追いかけてくるが、どんどん相手の足音は遠くなっていった。そのまま走り続けると、目の前が開け、目指していた道が見えた。振り返ってゴーレムがついてきていないことを確認して、一旦立ち止まる。2人とも息があがりかけていた。

「どうだろう、撒けたかな……」

「……とりあえず大丈夫そうね、足音も聞こえないし。でも、今のうちにここから離れましょう」

少しでも離れておきたい、そう思った沙紀は道に向かおうとするが、突然目の前の地面が盛り上がった。驚いて沙紀の動きが止まる。

「なっなに!? 」

盛り上がった土は次第に人に近い形に変わっていく。変化が終わるころには先ほどのゴーレムの姿になっていた。

「グォォォォッ! 」

先ほどまでとは違う、地の底から響くような叫び声に気圧されてしまう。叫びとともに振り回した腕が沙紀を一真の方に吹き飛ばす。

「きゃあっ! 」

「うっ! 」

咄嗟に手を剣にかけようとした一真は受け止められず、二人とも倒れこむ。ゴーレムは腕を地面にめり込ませた。そして、叫び声を上げながら腕を引き抜くと、腕の先には巨大な土の塊がまるでグローブのようについていた。

「くそっ! そりゃ反則だろ! 」

ふらつきながらも立ち上がり、どうにか逃げようと沙紀の手を掴む。

「とにかく逃げるぞ! 」

「無理……足に力が……」

腰が抜けてしまったのか、沙紀は立ち上がれない。ゴーレムは腕を振りかぶり、二人目がけて振り下ろす。

(まずい、死ぬっ……! )

背中に寒気が走る。反射的に片腕で身を守ろうとした瞬間、二人のどちらでもない声が響いた。

「ウィン・ガーティア 」

2人の目の前に透明な明るい緑の壁が現れ、拳を受け止める。

「えっ? 」

「こ、今度は何だっ? 」

驚いている二人の前でゴーレムの拳が砕け、通常のサイズまで小さくなる。そこに駆け込んでくる姿があった。

「はっ! 」

駆け込んできた誰かは、左手に持った盾で拳を弾き、右手の剣で腕を切り裂いた。

「二人とも、大丈夫か? 」

駆け込んできたのは銀色の鎧を身にまとった金髪の青年だった。2人を守るようにゴーレムとの間に入り、こちらを振り向いた。

「あ、ああ」

「そうか。少し待っててくれ」

そう言うと盾を正面に構え、左の拳を受け止めると、そのままゴーレムを押し返す。突然のことで状況を把握できていない二人の後ろから急に声が聞こえた。

「まったく……一人で張り切りすぎ」

サッと振り向くと、濃い青色のゆったりとしたローブを着た少女が立っていた。二人を守った壁を同じ緑の髪が風で踊っている、

「えっ……あなたは? 」

「そう言う話は終わったら。それじゃ」

そう言うと、少女は二人の前に会った壁をすり抜け、杖を構えた。

「ウィン・ローア」

彼女がそう言った瞬間、杖から緑の矢のようなものが放たれ、ゴーレムの頭部に突き刺さる。

「今のって、魔法……? 」

「この世界、どうなってるんだ? 」

「ウィン・ローア」

再び緑の矢を放つ。放たれた緑の矢がゴーレムの頭部を貫き、ゴーレムの巨体が音をたてて倒れこんだ。

「倒した……の? 」

透明な壁越しに見ていた沙紀の言葉に、先ほどの矢を放った少女が返した

「まだ、コアの活動は止まってない」

そう言われてゴーレムの方を見ると、身体を構成する土が動きだし、失った腕を頭部を再構成した。唸り声のようなものを上げて立ち上がる。

「頭壊しても動くの? 」 

「コアが残っていればゴーレムは動き続ける。頭じゃないってなると、胴体の方か」

金髪の青年が振り回す腕を避け、懐に入り込む。そして右手の剣で相手の左肩から胴体を斜めに切りつける。さすがにそのまま真っ二つにはならなかったが、深い傷が残った。そして、何かに確信したかのように少女に叫んだ。

「あの傷の真ん中に手ごたえがあった、あそこだ! 」

「分かった。少し持たせて」

少女は杖を構えて、ゴーレムをジッと見据える。彼女の周りに風が渦巻いているように感じた。青年の方は腕の攻撃を盾で凌ぎながら相手の腕に何度も攻撃を加えていく。

「どうした! まだこちらは余裕だぞ! 」

先ほどとは逆向きに胴を切り裂いた。ゴーレムの動きが一瞬止まった。

「ウィン・リスターナ」

彼女の言葉とともに渦巻いていた風が集まり、鋭い槍が形成される。軽く杖を振ふると、一直線にゴーレムに向かって飛んだ。その槍は青年がサッと身を引いたところを駆け抜け、ゴーレムの胴体に風穴を開ける。空いた穴の中心に黒い水晶球のようなものがあった。おそらくアレがコアなのだろう

「もらったっ! 」

ゴーレムの動きがグッと遅くなったところに、青年が剣を手放し、コアを引き抜いた。その瞬間、動きが止まり、身体がボロボロと土に戻っていった。青年はコアを取り出した透明なビンに入れて封をしてしまうと、剣を拾い、こちらに近づいてきた。少女が再び杖を振ると、目の前にあった壁がスゥッと消えていった。青年が盾と剣を一旦置くと一真と沙紀に手を差し出した。

「二人とも立てるか? 」

「だ、大丈夫……です」

「私も……」

二人が手を出すと、彼は手を掴み、軽く身体を引き上げた。その力に驚きながらも、一真はお礼を言った。

「助かりました、ありがとうございます」

「そんな畏まらなくてもいい……怪我も無いようだな」

青年は一真の姿を見るとそう言った。

「あなたも大丈夫そうね」

「ふえっ!? 」

沙紀はすぐ近くから聞こえた声に驚く。声の方を見ると少女が側に立っていた。

「そうか、ならよかった」

そう言うと青年は剣と盾を拾い直す。突然、少女に尻尾を掴まれた。

「うひゃっ!? 」

「あなたの耳、本物? 尻尾は本物みたいだけど……」

尻尾を触りながら少女がそう言った。

「耳も本物だよ! あと、尻尾から手を放してくださいお願いします」

そう言うと少し残念そうな表情になりながらも離してくれた。

「驚いたな、君はハーフなのか? このあたりでは見かけないのだが、なぜここに? 旅の途中なら安全なところまで同行しよう」

少女がその言葉に少しムッとした表情になる。

「ジーク、またそうやって……まだ依頼終わってないよ」

「そう言われても、放ってはいられなくてな。コアが心配なら君が持っていればいい」

そう言ってジークと呼ばれた青年はコアを入れたビンを取り出す。少女はハアとため息をつくと差し出されていた彼の腕を押し返した。

「分かったわ……」

「ありがとうっとすまない、話をそらしてしまった」

ビンを仕舞い、こちらに向き直った。

「それで、君たちの行先はどこだ? 」

そう言われて、二人は困った顔でお互いを見た。そして一真が申し訳なさそうに話し出した。

「あの……申し訳ないんですけど、ここどこですか? 」

青年と少女は不思議そうな顔をする。

「森の名は無いはずだが、そこの山はサウラという名がある。このあたりを通るのなら知っていると思ったのだが」

「いや、あの、そうじゃなくて、国とか地方とかだとなんていうんですか? 」

「そこからなのか? 」

さすがに予想外の言葉だったのか、ジークの表情には驚きが見えた。

「ここはレイジャという国で一番近い街はノーレイという。聞き覚えはあるか? 」

「レイジャにノーレイ……」

「いえ、まったく聞いたこと無いです」

一真が呟く横で沙紀がサッと答えた。それを聞いてジークと少女は顔を見合わせた。

「……そうか、どうやってここに来たか覚えているか? 」

「どうやってと言われても……信じられないと思うんですけど、気がついたら森の中にいたんです」

「私たちは偶然そこで会ったの」

二人の話を聞いて、少女が質問してきた。

「魔法のせいかもしれない、一番最近のことで覚えてることは? 」

「覚えていることっていっても、二人ともいつも通りに家を出たことまでしか覚えてないから何とも言えないわ」

「そう……」

僅かに疑いの目線を向ける彼女を遮るようにジークが話を変えた。

「まあ、とにかくノーレイに移動しよう。あそこなら一番近い街だ。君たちも疲れているようだし」

そう言うと、一真と沙紀に透明な液体の入ったビンを差し出す。

「俺はジーク、ジーク・ライジア。ジークと呼んでくれ」

「私はリーナ・サイフィーア……」

ビンを受け取ると一真も名前を伝える。

「俺は北上一真です。一真って呼んでください」

「ん? カズマというのは家の名ではないのか? 」

「私たちの住んでいたところでは、あなたの言う家の名が先に来るの。だから彼の名前は一真なんです」

そう答えた沙紀に頷きながらジークは名を聞いた。

「なるほど、そんな土地があるのか。君の名は? 」

「私は火野坂沙紀、しばらくお世話になります」

「カズマとサキか、では出発しよう。それと、年もそんな離れてないと思うから、わざわざ丁寧な言葉は使わないでくれ。そんなことをされると少し恥ずかしくなる」

二人は頷くと、ジークの導きでノーレイに向かって歩き始めた。

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