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魔女

私は魔女。

停滞した魔女。

歳はとれないし、人の記憶にも残らない。

残る必要が無い。

ただただ忌み嫌われるだけの存在。

誰とも関わりを持たず、関係も持たず、ただ世界を旅し続けるだけの存在。

人間から迫害されながら旅をする存在。

そんな私だったのに、ある街で男の子と出会った。

彼は魔女だと言った私を恐れなかった。

肝が座っているのか、それとも魔女の厄災を知らないのか。

どちらであったとしても、関係ない。

私はなんであんなことを言ったのだろう?

分かってる。

私は彼に期待した。

裏切られると知りながらに期待した。

いや、私が一方的に期待したのだから"裏切られる"と言うには語弊がある。

とにかく何故か私は彼に期待した。

私は久方ぶりに、誰かにまた会いたいと思えたから。

「キミ!大丈夫!?」

「えっ?」

ああ、やっぱり。

彼は来てくれた。

_________________来てしまった。


輪になった人だかりの中心、そこには三人の男と、彼らに蹴られている女の子が一人いた。

さっきの周りの反応からして、この子が魔女というやつなのだろう。

しかしなんだろう?

あの特徴的な銀色がかった緑色の髪を俺は知っている気がする。

そう思うと、数十分前の記憶がフラッシュバックしてきた。

『ねえキミ、レディ下腹部を押し付けるのはどうかと思うよ?』

そんなセリフを言ったのは誰だったか?

そんなの決まっている。

それを理解した瞬間、俺は飛び出していた。

「キミ!大丈夫!?」

「えっ?」

俺の顔を見て一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、直ぐに嬉しそうで悲しそうな笑顔になった。

「なんだよ?お前。そんなことしていいのか?こいつは魔女だぜ」

ニヤニヤと愉しそうにそんなことを言う男達。

それを見て喜んでいる野次馬達。

無性に腹が立った。

それもここ数年で一番に。

こんな幼い女の子をイジメてなにを愉しそうにしている?

ふざけんなよ?

目にいっぱいの涙を溜めて、一切の抵抗をしない女の子。

相当痛かっただろう。

相当悔しかっただろう。

俺は男達を一人ずつ睨みつけ言い放った。

「悪いけど俺にはこの世界において魔女がどんな存在なのかは知らない。だからあんた達がやっていることはもしかしたらこの世界では正しいことなのかもしれない。だが、こんな小さな女の子が泣いてるんだぞ!こんな小さな女の子が必死に痛みに耐えてるんだぞ!俺はそんな行為は許さないし、見過ごせない!」

そう、俺はこの世界のことはほとんど知らない。

でも、俺にとってこの行為は間違っている。

それが悪であっても構わない。

俺は俺の正義を貫こう。

「魔女だぁ?それがどうした!小さい女の子は存在するだけで問答無用に崇められるべき存在だろーが!この罰当たりが!バーカ!」

俺にとっての絶対的正義はロリだ。

ロリは正義であり、至高であり、神である。

それを足蹴にするとはなんとも罰当たりな。

しかし、どういう事か周りからは一切の反応がない。

女の子を足蹴にしていた無礼者達でさえ愕然としている。

なぜそんな反応をするのか俺には全然理解出来ないが、俺はこの反応を知っている。

これはあれだ、ロリの素晴らしさに気づいたのだろう。

こうして世界は平和になっていくのだろうな。

「.......けるな....」

ん?男の達のひとりが何かを呟いた。

「ふざけるなよ!この野郎!?」

「なんだ!?」

男がブチ切れた.

「なんかカッコいいこと言い出したと思ったらなんだよ!?てめぇただの変態じゃねぇか!」

「違う、ロリ属性だ!」

「うるせぇ!お前をカ少しカッコイイと思った俺が恥ずかしいじねぇか!」

「別に男にカッコイイとか思われたくないわ!アホ!」

「あー、もうほんとに頭にきた!少し痛い目に遭わせてやるよ!そうすりゃてめぇのクソみたいな性癖も少しはマシになるだろ!」

「性癖じゃない!信仰だ!ロリっ子は処女だからこそ神聖なんだろうが!性の対象で見るなんて失礼だぞ!」

「どっちでもいいんだよ!とにかく魔女退治は後だ!てめぇら!まずはこの病人を治療するぞ!真っ当な人間にしちまえ!」

あれ?なんかこの人たち実はいい人なんじゃないか?

だが、こっちだって生半可な気持ちでロリを崇拝しているわけじゃない。

簡単に真人間にされてたまるか!

俺は全力で走り出し、迫り来る男達に突っ込んでいった。

そして男達を躱すと、女の子の手を掴んでその場を逃げ出した。


この子が街の人たちから嫌われている以上宿に戻るのはダメだ。

そのため、俺達が今いるのは森の中。

クマさんに出会わないように慎重に進んでいき、ある程度開けたところで腰を落ち着けた。

「助けてくれてありがとう」

「当然のことをした迄さ」

「言葉だけ取るとカッコイイんだけどね〜」

言葉の中身も"ロリを助けるのは当然"というカッコイイ理由なんだが?

それにしてもこの子、どうも言葉遣いに違和感を覚える。

見た目はそれこそ十二、三歳くらいなんだが、なぜか歳上のお姉さんと話しているような気分になってくる。

「あは、気づいた?だから言ったでしょ?私はキミよりは歳上だって」

やはり寂しそうな笑顔が浮かぶ。

或いは諦め。或いは恐怖。或いは期待。

いろんな感情の入り混じった笑顔を見て、女の子の言葉などどうでも良く思えるくらいに強い疑問を抱いた。

なにがこの子をここまで追い込んだのか?

思い浮かぶ原因はただひとつ"魔女"だ。

「そうだったな。うん。ところで今度会ったら名前を教えてくれるって約束は覚えてる?」

訊くと、女の子は泣き出した。

「え!?なに!?なんで!?」

俺、なんか泣かせること言ったか!?

「違うの。キミが悪いわけじゃないから大丈夫。ちょっと嬉しくて」

嬉しい?そんな泣いて喜ばれるようなことは一言も言ってない気がするが?

「それも含めて後でちゃんと説明するから、まずは約束通り自己紹介するね。私は"停滞の魔女"ワーテル=クロース。本名をアリス=結城=ローレマリー。こう見えても百五十歳だけど、よろしく」

_________________えっ?今なんて言った?

ゆうき?勇気?有機?結城。

まさか.......。

「ゆうきってもしかして漢字?」

「そうだよ?結に城で結城。でもそれが分かるってことはやっぱりキミ日本人?」

驚いた。

まさか俺の他にも異世界人がいたなんて。

「ああ、俺の名前は天翔翔。生粋の日本人だ」

「やっぱりそうだ〜!"ロリ"って言葉が通じるからもしかしてって思ったんだ〜!」

「え!?"ロリ"ってこの世界では通じないの!?」

「通じないよ〜。あれはあの世界特有の言葉だからね」

「マジかよ。"ロリ"ってあの世界特有なのか。だったらロリ教を布教しようか」

「それはやめようよ。っていうか翔くん私の年齢についてはノータッチなんだね?」

「見た目が若くて小さければ精神年齢なんて気にしないさ」

「翔くん、本物のロリコンなんだね」

「なんでそんな不治の病の患者を見るような目をするんだよ!?」

「ロリコンは病気だよ?」

「さっきからロリコンロリコンと言ってるけど、これはロリ属性だ!」

「同じだよ!?言葉が違うだけで!」

このまま話し続けても平行線のままだろう。

俺は諦めて別の話に移した。

「で、魔女って何なんだ?」

むしろこっちが重要だったりする。

「魔女っていうのはね、厄災みたいなものだよ。そこにいるだけで周りにいる人たちに迷惑がかかる。だから私たち魔女は同じ場所にいつまでも存在していられないし、さっきみたいにいろんな人から迫害されるの」

「.........魔女については分かった。納得はしないけど理解はした。でも"停滞の魔女"ってなんだ?それに名前が二つある理由も分からないんだけど」

「魔女にはそれぞれ呪いがかけられるの。そしてその呪いによって二つ名が変わってくる。私の場合は身体の成長が停滞する呪いがかかっているから"停滞の魔女"そして、最初に言った名前は私のこの世界での名前で、魔女としての名前なんだよ。名前で魔女と特定されないように、魔女としての名前と普段使う名前を分けて使ってるの」

なるほど。

合理的だな。

「でも、呪いが停滞ならさっきの反応はどういう事なんだ」

「そうだね、それも説明しないと。私たち魔女は固有の呪いの他に、魔女全体が持っている呪いがあるの。忘却の呪いって言うんだ。視界から消えると、私に関する記憶がすべてが消える。魔女になってからの私のことを覚えてくれてたのは翔くんが初めてだよ。それでつい泣いちゃった」

てへと頭に手を当てて舌を出す。

_____________可愛いぞ!

世の中のロリ属性持ちなら今のでときめかないはずがない。

「でもなんで翔くんには呪いの効果が無かったんだろ?」

それなら予測は立つ。

というかこういう展開は決まってあれだ。

「多分俺の能力だと思う。呪いってつまりは魔術みたいなものなんじゃないか?」

「うん、それに近いよ。でも魔力じゃなくて呪力が使われてるけど」

「呪力?」

聞きなれない単語が出てきた。

「呪力っていうのは、人を恨んだり、嫉妬したりっていった負の感情から発生する力のことだよ。呪いは大気中の呪力を吸収し続けることで効果を発揮し続けるの。それで翔くんの能力って?」

「いえ、なんでもありません」

魔力じゃないなら俺の能力は関係ないだろう。

っていうかあんな自信満々に言っておいて実は違ったとか恥ずかしい。

「でもホントに良かったの?私と一緒に逃げてきたって事は、今頃翔くんは魔女信者って事で手配されるもとになるけど.........」

..........マジかよ!

明日から頑張るとか言ってる場合じゃねぇ!

その明日すら危ういと!?

「あ、でももしかしたら翔くんに限っては大丈夫かも」

「え?なんで?」

「だって翔くんは"魔女の私"を助けに来たんじゃなくて、"小さい女の子"の私を助けたんだよ?」

「なるほど、つまり俺が魔女信者ではないという証明になると?」

「確証はないけどもしかしたらね」

その幼い顔に、大人の雰囲気が漂い出す。

俺はそんなアリスを"可愛い"ではなく"綺麗だ"と思った。

「あ、でも翔くんは違う理由で手配されるかもね。例えば小児性愛者_______________」

「ロリ属性だ!」

「いい加減飽きたよ?そのツッコミ」

「ツッコミじゃなくて訂正な?」

「いちいちうるさいなぁ〜、もう」

冗談めかして笑うその姿には"綺麗さ"はなく"可愛いらしさ"に戻ってしまっていた。

「それで話は戻るんだけど、翔くんの能力って何なの?」

グイッと顔を寄せてくるアリスに俺は折れるしかなかった。

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