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遭遇

ベットで目が覚めるのは実に三日ぶりだった。

というより、起きたら目の前に天井があるという光景に若干感動しながら、ゆっくり身体を起こす。

あの後貰った報酬は、一番安い宿で二泊出来るだけの金額だった。

あんな楽な仕事でこんなに貰えるなら、もっとやってもいい気がしてくる。

なにせこっちは魔物を追い回すだけでいいのだ。

魔物相手なら命の危険さえもない。

なのに金額は命を張る仕事だからと高額。

___________よし、今日も討伐の仕事にでも向かうか。

目指すは自分の家の購入。

それと一生遊んで暮らせる金だ!

俺はもうあの世界に帰るつもりは無い。

そして何より、異世界と言ったらハーレムだ!

同志達には悪いけど、俺はあんな退屈な世界よりも、獣耳娘や魔法が存在するこの世界の方がいい。

きっと奴らも許してくれるだろう。

アヌメイトへ行く約束をすっぽかした件も含めて.......。

「カケル?起きてる?」

ドアの向こうからは、別の部屋に泊まったメイリーの声。

きっともう準備を済ませたのだろう。

「おう、でもまだ準備がかかりそうだから先にギルドに行っててくれ」

「分かった、じゃあまた後でね」

そんな声を残して足跡が遠ざかって行った。

______________さてと

と俺は制服のポケットから赤いスマホを取り出す。

当然電波は入っていない。

こっちに来てから一度も入っていないのだ。

念のため電話を発信してみる。

相手は家族の中でも割と仲の良かった兄さんだ。

『ただいま、電話に出ることができません............』

スマホから流れてくるのは無機質なオヴァサンの声だけで、兄のイケメンボイスは聞こえてこない。

ちなみに、妹との仲はあまりよろしくない。

それこそ家の中では居ないものとして扱われるくらいに。

だが、俺達は昔から仲が良くなかったわけではない。

小学生くらいの時は、親が俺を見放そうとも妹は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とベッタリだった。

が、中学二年の冬、空手を辞めたその時から妹の態度が一変した。

俺に向けていた愛嬌たっぷりな笑みは、人形のような無表情に変わり、俺に向けていたあの無邪気な声は、二度と掛けられなくなった。

まあよくある話だ。

どうにもスマホは使えないらしいので、また時間を空けて試すとしよう。

「ああ、なんか嫌なこと思い出したな〜」

家のことはできれば思い出したくない。

思い出してもそれは遠い日の思い出。

通り過ぎてしまった光だ。

振り返っても、その手は決して届かない。

____________まるで流し素麺みたいだな。

我ながらうまいと思った。

というか、_____________ツボった。

うん、何が面白いんだろうね?

いいえ、何も面白くありません。

そうですとも、俺の頭が異常なんです。

自覚していても笑いは止まらない。

聞いた話では、笑いすぎて死んだ人が居るという。

聞いた当初は、「そんなわけないでしょ〜」と軽く見ていたが、実際笑いすぎると窒息しそうになる。

というか、苦しい!

ヘルプ!

ヘルプミー!!

............数十分後。

「あ〜、死ぬかと思った.......」

____________いやマジで。

俺はギルドに向かう道を一人で歩く。

笑いが止まってからもう結構経ってるのに、未だに腹が痛い。

「結構メイリー待たせたけど、_______やっぱり怒ってるよな?」

このまま置いて逃げてしまうのはどうだろうか?

この世界がどこまで広いかは知らないけれど、世界の果てまで逃げ切ればまず見つからないだろ。

うん、そうしよう。

くるりとその場で百八十度回転した時だった。

「..........痛て?」

なぜ疑問形か?

事実だけを言えば凄く犯罪臭がするから言いたくはないのだけど、言わないとダメだろうか?

「.......もごもご、もごもごもごもごもごもごもごもごも?」

俺の下腹部で見た目小学生くらいで銀色がかった緑の髪をした女の子が何かを話している。

______________一歩下がればいいのに........。

仕方がなく俺は一歩下がって離れてやる。

「ねえキミ、レディに下腹部を押し付けるのはどうかと思うよ?」

なにやらご立腹のようです。

「え?レディ?どこどこ?」

相手が小さな子でなければこう言っていただろう。

なに、こう見えて俺はロリ属性持ちだ。

子供への対応くらいは承知している。

「ごめんね〜、痛くなかった?泣かないなんて偉いね〜」

「ちょ、何するの!?」

頭を撫でていた手を払い落とされた。

「私はこう見えてもキミよりはお姉さんなんだよ!」

「そっか〜、凄いねぇ〜?いい子いい子」

「撫でるなぁ!!!」

怒られた。

「ウソじゃないんだからね!私ホントにお姉さんなんだから!」

必死になって信じてもらおうとしているロリっ子。

_______________超萌える!

思わずグットサイン。

「..........キミなにか失礼なことを考えてない?」

「ソンナコトナイヨ?」

「キミはすごく分かり易い性格をしてるんだね?」

_______________ロリっ子に同情された!

嬉しいような...........やっぱり嬉しいわ。

「こほん。とにかく私は今ちょっと急いでるんだよ。歳を信じてもらえないのには不満が残るけど、行かせてもらうぞ?」

「待って、キミの名前は?」

「私?私は......そうだね、さしずめ停まってしまった魔法使いかな。でも、小さい子の名前を気にするなんて、キミはロリコン?」

「違う、ロリ属性だ!」

「変わらないじゃん、そんなの。って人をロリ呼ばわりってひどい!」

「何を言ってるの?"ロリ"というのは最高の褒め言葉だよ?」

「そういうのは思ってても口に出しちゃダメだと思うよ?本当の名前はまた次に会うことがあったら教えてあげる。じゃあね!」

そう言い残すとマイエンジェル___________ロリっ子は立ち去っていった。

___________折角なんだからのじゃロリが良かったな。

心の奥ではそんな事を考えていた。


「お、そ、い!カケル遅い!」

ギルドに着くとメイリーが激怒していた。

それはもう、頭に角が見えそうなくらいに。

「ま、待ってメイリー!話せば分かる!話せば分かるから!その振り上げた拳を収めて!」

「ダ〜メ♡五発は殴らせて♡」

「いや、その、とても可愛いと思いますが、可愛く言っても許容できることとできないことが........」

メイリーとは三日の付き合いになるが、こんなに可愛い声は初めてだ。

なんでそんな甘えるような声を出すんだよ!

不思議と五発くらいは殴られてもいい気がしてきた。

いや待て、俺はロリ属性であってもM属性は持っていない。

そんな俺が戦士職の本気のグーパンに耐えられるわけがない。

なにせ、本気のメイリーの怪力は探偵〇ペラ〇ルキーホームズのエ〇キュールバ〇トンにも劣らない。

俺は、殴られた後を想像してなんとか正気を取り戻した。

「カ〜ケル。ジッとしててね?痛くはしないから♡」

「いや、あのね、そんな指の関節ポキポキ鳴らしながら言っても怖いだけですよ!?」

「ん?私って怖いのぉ〜?」

「い、いえ!とても可愛らしいと思います!あー、ホントにメイリーは可愛いなー!モニタともいい勝負だ!」

ロリっ子には嘘が下手だと言われたが、今回の場合は真実を言っているので大丈夫だろう。

_____________って待てよ?俺、今なんて言った?

「カケル________________モニタってだれ?」

人間は命の危機に瀕した時、いらん一言を言ってしまうらしい。

目の前に立つ、可愛い顔を笑顔なままコメカミを引き付かせて、笑う。

..........笑っている。

「えっと、モニタっていうのはだね、すごく可愛い獣人の女の子なんだよ」

何故か童話の人物紹介みたいになってるし!

「へぇー、すっっっごく可愛い女の子なんだ〜。ふ〜ん」

目が、目が笑ってない!

なにそのヤンデレみたいな目!

桂〇葉さんバリだぞ!

______________ってこのネタが分かる人って居るのかな?

でも思えば、ここで殴られて怪我をすれば___________いや、辛うじて生きていれば、またあの天国に行けるのでは?

...........それはいいかもしれない。

今までの怖い顔が崩れたのはそんなふうに諦めをつけた時だった。

「はぁ、もういいよ。ホントはそれほど怒ってるわけじゃないから」

「え!?そうなの!?」

メイリーを中心に半径五メートルの人間の円を作るほど怒気を発しておいて、怒ってないことはないだろう?

「そうだよ。さ、仕事探そ」

掲載ボードに歩いていくメイリーの背を追いかけて、横に並び、掲示板を見る。

"ジャイアントピープル討伐"

うん、無理だ。

"オーガ討伐"

ゴブリンでお手上げだったんだぞ?舐めてんのか?

"ブル〇ドラゴン討伐"

いやいやいや、ブル〇エクスプロ〇ジョンとか撃たれたらひとたまりもないぞ!?

"果物の収穫"

一気に難易度が低くなったな!?

実際、魔物類になら無敵モードで無双できるが、あれはあれで気分が悪くなる。

だって考えてみてくれよ!いまの今まで目の前で歩いてた生き物を吸収するんだぞ?

まん丸でピンク色の星の戦士もビックリだよ!

コピー能力!魔物カー〇ー!ってか?

「なあ、今日は休まない?」

早くも朝の決意が鈍っていく。

そうだよ、別に今日やらなくても明日から頑張ればいいんだよ!

「_________カケルってサボり癖があるよね?」

「癖じゃなくて生き様な?」

そこを勘違いされては困る。

俺はやる時はやる人間だ。

ただ、人よりやる気が少ないだけで。

「.........ねえカケル。なんか外騒がしくない?」

「ん?そうだな?」

確かに外が騒がしい。

まるで喧嘩を見ている野次馬たちが騒いであるかのような声。

「やれー!」

「殺せー!」

殺せ殺せ声殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ___________________________魔女を殺せ!

魔女?

どこかで聞いたことのあるワードだな?

いやアニメとかじゃなくて、つい最近この世界で。

「カケル、見に行ってみよ」

メイリーはギルドを飛び出し、群衆に突っ込んでいった。

「ちょっと〜、一人で突っ走らないでくれよ!」

俺は何故か嫌な予感を覚え、メイリーを追いかけた。

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