意外な共通点
「なんでお前ここにいるんだ?」
ラーバスは確か、俺よりも二ヶ月早く出発していたはずだ。
だとしたら、あそこから徒歩二日で来られるこの場所に俺よりも早く出発したラーバスがいるわけがない。
「おい、貴様!ラーバス様になんという口の聞き方だ!この方は協会認定の勇者であられるぞ!」
「...........で、なんでここにいるんだ?」
「無視するなぁぁ!」
「まあまあ、リナ。この人は僕の友人のテンショウカケルだよ」
「その名前って確かラーバス様の誘いを断った愚か者の名前でしたよね?」
____________言い過ぎだろ?
いや、否定はしないけどさ!
「愚か者じゃなくて、僕の友人だよ」
「悪いけど友人になった覚えはないぞ?」
「では僕が一方的にそう思っているということにしましょう」
「そうしておいてくれ」
こんなイケメンのリア充男はむしろ非リア充である俺の敵と言ってもいいんだけどな。
「それでカケル。こんなところで立ち話もなんだから近くの街で宿をとってそこで話しませんか?せっかくの再会ですし」
「別にいいけど、その敬語辞めないか?気持ち悪い」
「そう?じゃあそうさせてもらうよ」
そんな再会の会話の後、俺達はグランドデールへ戻っていった。
俺の隣にメイリー、その対面に右からリナと呼ばれた女の子、ラーバス、その隣にピンク色の髪の女の子と並んで座っている。
「さて、それじゃあ僕のパーティーから紹介するよ。こっちの緑の髪の子はリナ=エクアドル、十七歳。剣士だよ」
「ふんっ!」
_____________嫌われてるな〜。
この子は相当ラーバスにご執心らしく、ラーバスと仲のいい俺が許せないのだろう。
「で、こっちがルーマリー=カルダン、二十歳。魔術師」
「よろしく〜」
こっちはゆるふわ系のお姉さんだった。
好意的とは言わないまでも、嫌われているって程でもない。
つまりは無関心か!
「あと、そっちのお嬢さんのために僕も自己紹介しておくよ。僕はラーバス=ジェラトリオ、十六歳。さっきリナがチラッと言ったけど/協会認定の勇者として魔王討伐の旅をしてる。よろしく」
「は、はいっ!よろしくお願いします!」
メイリーが緊張したように返事を返す。
「ハハハ、そんなに固くならなくてもいいよ」
ラーバスの言葉とは裏腹に、メイリーの緊張はより強まっていった。
「こりゃダメだな。この子はメイリー=ゼルマディア、歳は不明、戦士職だ」
ガチガチで自己紹介なんて出来そうにないメイリーの代わりに俺が紹介する。
「彼女はカケルのパーティーメンバーなのかな?」
「.........そうだけど?」
「僕の誘いは気が乗らないからって断ったのに?」
意地の悪い顔でラーバスが訊いてくる。
内容も意地悪なんだけど。
「気乗りしたからパーティー組んでるわけだけど?」
「そうかい?キミの能力は対悪魔戦では切り札になり得るし、できれば僕のパーティーに入ってもらいたかったんだけど」
それが本音か。
まあなんとなく分かってたけどね。
「そうそう、実はこの能力なんだけど、魔物にも適用されるらしいぞ?」
「な!?それはつまり魔物も吸収できると?」
「そういうこと〜」
それを聞いたラーバスは険しい顔で俺を見た。
「やはりキミは僕と来るべきだ。キミの能力は魔法戦において最強の力となる」
その真剣な眼差しを見つめ返して、俺も言い返す。
「何度言われても答えは変わらん。断る」
「貴様っ!」
俺の言葉に激昂したリナが掴みかかろうとするが、ラーバスがそれを制す。
「今はそれでもいい。でもいつか気が変わってくれることを願ってるよ」
「そんな日が来ればいいけど」
俺とラーバスの話が一段落したところに、今まで沈黙を通していたルーマリーが口を開いた。
「ところでカケルさん?の自己紹介がまだですよ?」
「おや?ルーマリーが他人に関心を持つなんて珍しいね?」
「はい、カケルのお持ちの"能力"に興味があります」
あー、そうですか。
「んじゃ、改めて。天翔翔、十七歳。ステータス測定不能なため職は無い」
「それでカケルさんの能力は?」
______________あ、やっぱり名前とかにはこれっぽっちも興味無いのね?
軽く落ち込みながら、能力について説明をした。
「触れた魔法を吸収する能力?」
「正しくは"魔力で形成された物を分解して吸収する能力"みたいだけど」
「......そんな能力は聞いたことがありませんね。ぜひ一度見てみたいのですがいいですか?」
「まだいいともなんとも言ってないのに魔法準備するの止めて!ちょ!ラーバース!!!」
「ルーマリーは知識欲が高いからね。こういうことは確かめたがるんだよ」
「呑気に解説しないで止めろ!うわっ!」
撃たれた。
思いっきり魔法撃ってきやがった!
大人しそうな人だと思ったのに!
「ホントに魔法が吸収されましたね?でもどうして?もう一回いいですか?」
「いいわけねぇだろ!って待て待て待て!」
結局その実験と称したイジメは数十分間続いた。
そんな地獄のような階段の後、街の噴水前で腰をかけた。
「カケル!ラーバス様と知り合いだなんて聞いてないよ!」
「ラーバス"様"?」
様ってなに?
あいつそんな偉いのか?
まあ協会認定の勇者ってくらいだから優遇はされてるんだろうけど。
「そうだよ!ラーバス様は協会認定の勇者、それだけでも凄いことなのに、今まで悪魔の襲撃を何度も防いできたんだよ!」
「それはそれは......」
_____________ホントにすごいやつだったのか......。
「そんな人からのパーティーの誘いを断るなんて.......カケルってバカ?」
反論の余地はない。
ラーバスのパーティーに入ることは即ち勇者の仲間という看板を背負うことが出来るわけで、これを受けて得することはあっても損することは無いだろう。
だけどそれはなにか違う気がする。
名声が欲しいからって仲間になるのは何か違う。
「パーティーに入る入らないってそんな損得で決まることなのか?俺はその人の助けになりたい、守りたいって思う人のパーティーに入るべきだと思う」
「つまりカケルは私を守りたいと思ってくれたの?」
「いや、成り行き」
「偽善者ぁぁ!!」
なんとでもいうがいいさ。
キモオタと罵られ続けたおかげでもう慣れたよ!
「メイリーは確か、俺が心配で組んでくれたんだよな?」
言うと、メイリーは急速に沸騰したかのように赤くなった。
「そ、そんなことより!あの能力なに?」
やっぱりそこを突いてくるよな?
黙ってた俺も悪いと思うけどね。
「実はあの能力については俺もよく分かってないんだよ。魔法を分解して吸収出来ることは知ってたけど、魔物にも有効だなんて知らなかった」
「知らなかったで済めば警備兵はいらないよ!」
「そのネタってこっちにも在ったんだ!?」
「?このネタってそんなに驚くもの?」
「ソウデスネ、フツウニミンナツカイマスヨネ?」
「なんでカタコトなの?」
「そ、そんな事より、そろそろ行こうか?」
「行く?どこに?」
____________どこにって.......。
まさか本気で忘れてないよな?
「仕事の報酬のことって覚えてる?」
「あ、........うん、オボエテルヨ?」
「カタコトで言っても説得力ないんだが」
「ごめんなさい、忘れてました.........」
「ごめんなさい済めば警察はいらないんだがね」
「はい........ってケーサツってなに!?」
おっと、間違えて日本バージョンで言ってしまったか。
「で、行くの?行かないの?」
「でもいいの?今回私何もしてないんだけど.......」
なるほど、何もしてないのに自分が報酬を受け取ってもいいのか?ってことか。
「何言ってるんだよ。俺達__________仲間だろ?」
「か、カケルぅぅ!!」
人生に一度は言ってみたいセリフの一つをまた一つ消化した。
泣きついてくるメイリーの手を引いて、ギルドに報酬を貰いに向かった。