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グランドデール

二ヶ月だ。

二ヶ月という時間を病院で過ごした。

俺は再び退院間際を思い出す。


何でも骨折などの怪我は普通、治療魔法で治すそうなのだが、俺の場合は魔法を吸収してしまうためその治療法が使えず、仕方がなく普通の治療を受けていたところ、二ヶ月も経ってしまった。

でもこの二ヶ月、決して辛いものではなかった。

毎日ただ寝ているだけでいいし、しかも獣耳美少女がいろいろ世話を焼いてくれる。

まさに俺達(オタク)の楽園だ。

しかし、俺は今日でその楽園から追放される。

ついに退院の日が来てしまった。

「退院おめでとうございます!カケルさん。ってなんで泣いちゃうんですか!?」

「いや、今日でモニタともお別れなのかと思うと涙が......」

「そ、そんな泣かないでください。生きていればまた会えますから」

「.....そうだね、自分で入院費が稼げつようになったらまた来るよ」

「それって大怪我して入院してくるってことですか!?ダメですよ、体は大切にしないと!」

___________うむ、叱られてしまったか。

「でも、私もまたカケルさんに会いたいです。ですから今度は違う形で会いに来てくださいね?」

ヤバイ、このまま持って帰りたい。

持って帰って一生愛でていたい。

そう思うが、現実は残酷である。

ついにその時が来てしまった。

「では、私は次の仕事があるのでそろそろお別れです」

「うん、分かってる。分かってるから最後にキスしてもいいかな?」

「ふぇっ!?........少しだけ....ですよ?」

瞳を潤ませ、上目遣いで許可を出した。

そしてモニタは目を閉じ、その花弁のような唇を控えめにすぼめ、背伸びをする。

_____________あれ?これってしちゃっていいの?まさかのモニタ√突入!?

冗談で言ってみたものの、いざこうなってしまうと非リア充だった俺にはハードルが高い。

しかし、だからと言ってここで逃げれば男が廃る。

俺はモニタの両肩を支え、自分の唇をモニタのそれに近づける。

「あー、モニタさん。そういうことは目立たないことろでしてくれないかしら?」

「「___________っ」」

あと一センチとのところでモニタの同僚に見つかった。

「そ、その違うんです!リーラさん!」

「いいわよ、分かってる。モニタさん、カケルさんの話ばかりしてたし、そうじゃないかとは思ってたのよ〜。じゃ、私はこれで。うふふふふ」

「リーラさーん!!!!」

リーラさんなる女性はさっさと立ち去っていった。

だったら最初から声かけないで欲しかったよ。

「なんかごめんね」

俺はモニタに苦笑いを向ける。

同僚にそういうところを見られたモニタには同情を隠せない。

「じゃあ俺はもう行くね」

モニタに背を向けた時だった。

「カケルさん!」

名前を呼ばれて振り返ると、すぐ側にモニタの可愛らしい顔があって、唇に柔らかいものが触れた。

「っ!?」

それがモニタの唇の感触だと気づいたのは、モニタが離れてからだった。

「も、モニタ.....?」

「カケルさんにまた会えますようにと、カケルさんが怪我や病気をしませんようにっていうおまじないです。それと......私がしたかったから...です」

______________うわぁぁ!可愛すぎる!

ヤベー、もう離れたくない!

なんて我儘は許されないよな。

「じゃあモニタ、今度会った時にはご飯奢るよ」

「はい、楽しみにしてます!」

そう言って、今度こそモニタに背を向けた。


というのが二日前。

現在俺は大きな街に来ていた。

"グランドデール"この街の名前だ。

話によると、ここには冒険者ギルドがあるらしく、登録すれば世界中どこでも冒険者として名乗れるらしい。

そして冒険者の何がいいかと言えば、例えオタクでも、ニートでも、引き篭もりでも、絶対に職に就けることだ。

就職難の日本とは違って、ギルドに登録すれば誰でも"冒険者"という職に就くことが出来る。

というわけで早速ギルドに来てみたのだけれど、さて困った。

「こちらの欄を全て記入してください」

と言われ、紙をもらったまではよかった。

だが問題はここからだ。

______________文字が読めん。

決定的に致命的。

何故か言葉が通じるから完全に失念していた。

実はこの世界の文字を見るのはこれが初めてだ。

まさかこんな落とし穴が在ろうとは......。

しかし、「これってなんて書いてあるんですか?」なんて恥ずかしくて言えない。

俺は今更ながらにラーバスについて行けばよかったと後悔した。

「あの、それ書かないの?」

冒険者を諦めようとした時だった。

横から声を掛けられた。

声のする方にいたのは銀の髪の女の子だった。

「いや、書かないんじゃなく、文字が読めないから書けないんだよ」

「それって胸を張っていうことなのかな.......?」

俺だって恥ずかしいんだよ!

もう開き直らないとやっていけないよ!

「実は私もこれから冒険者登録しようと思ってるんだけど、良かったら一緒に書かない?」

「........助かる」

みっともなくてもいい、俺はこの子に頼るぞ!

...................。

「そう、ここに名前書いて。ってなにその字?」

俺は名前を書く欄に、"天翔翔"と漢字で書いた。

その結果、女の子からは変なものでも見るような目を向けられる。

どうやらこの世界に漢字は無いようだ。

「これは漢字って言って、てんしょうかけるって読むんだよ」

「テンショウカケル?珍しい名前だね」

「そう言うキミは.......田中千佳子(たなかちかこ)?」

「メイリー=ゼルマディア!誰!?タナカチカコって!」

当てずっぽうに言ってみたが、どうやら違ったらしい。

「じゃあメイリーと呼ぼう。よろしくな、メイリー」

「なら私もカケルって呼ぶね」

「お好きにどうぞ」

ここに来てまたまた美少女と仲良くなった。

「これで記入欄は埋まったな」

「カケルってホントに全然文字が読めないんだね........」

「自慢じゃないけどな!」

「うん、自慢じゃないよ?私はカケルのこれからが心配だよ」

初対面の女の子に心配されてしまった。

なんとも情けない。

「そうだ!私達パーティー組まない?」

妙案とばかりにメイリーは提案する。

「パーティー?」

「そう、パーティーを組めば仕事もスムーズに進むし、カケルの近くにいれば私も安心するし!」

_______________どうしよう。

美少女とふたりで仕事なんて夢のようなシチュエーションなのだが、ラーバスの誘いを断った手前頷きづらい。

「わかった、そうしよう!」

三秒悩んで、そう結論を出した。

よくよく考えると悩む必要なんてなたっか。

ラーバスと行くのが嫌だった理由が気乗りしなかったって理由なら、メイリーとパーティーを組む理由が気が乗ったからという理由でもいいじゃないか。

「ホント!?ホントにいいの!?」

「もちろん、俺としても都合のいいことが多いし」

「そっか、なら冒険者登録と一緒にパーティー登録しないとね!」

「じゃあそういう方面はメイリーにお願いするよ。俺は字読めないし」

「うん、任せて!」

俺達は受付に記入した紙を持っていった。

「ではステータスを測るので、こちらに手を置いてください。メイリー=ゼルマディアさんからどうぞ」

「はい!」

メイリーが"こちら"と呼ばれた黒い板に手を置くと、数秒経った後にピーンと音がなった。

「測定完了です。ではこちらをどうぞ」

お姉さんはメイリーに一枚の紙とカードを渡した。

そこには今しがた測定されたと思われる数字が書いてあった。(数字以外は全然読めない)

「メイリー=ゼルマディアさんは筋力と俊敏性が高いようなので、戦士職をお勧めします」

ご丁寧におすすめの職まで推薦してくれるようだ。

「では次、..........あなた」

天翔翔(てんしょうかける)だよ!読めないならそう言って!余計悲しくなるから!」

文句を言いつつも俺は黒い板に手を置く。

ここは異世界系お決まりの、"主人公のステータスが凄過ぎて周りがざわめく"というシチュエーションだろ。

______________さあ、目覚めよ俺の才能!

............。

................。

...................。

何秒経ってもあの音が鳴らない。

受付のお姉さんも首をかしげている。

「あの、故障ですか?」

自分で言ってみたものの、さっきまでちゃんと使えていたのに突然故障はないか。

「これは____________術式が破壊されていますね」

お姉さんは黒い板を調べてそんな結論を出した。

「破壊されてる?でも俺は何もしてませんよ?」

「はい、それは分かっています。術式を破壊するなんて簡単にはできませんし、カケルさんがなにかしたようにも見えませんでしたので」

話のわかる人で助かった。

これで「弁償しろ」なんて言われたら、いろいろとヤバかった。

「すみませんが、あちらのを使ってもらってもいいですか?」

俺はお姉さんが言う通りに隣にあった同じ物に手を置いた。

............。

................。

...................。

____________鳴れよ!

「ちょっといいですか?」

お姉さんは今俺が使った板を手に取った。

「やっぱり術式が破壊されていますね。でもこれは_________いえ、なんでもありません。テンショウカケルさんのステータスは測定不能としますね」

ギルドとしてもこれ以上備品を壊されるのは嫌なのか、無理やり終了させられた。

そして俺には、一切数字の書かれていない紙と、一枚のカードが手渡された。

「測定不能だって!なんかカッコイイよね!まるで凄い人みたい!」

______________違う!こういうのじゃなくて、ステータスがカンストして測定不能って書かれたかった!

そんな俺に、ふとある仮説が浮かんだ。

「メイリー、あれってもしかして魔法で測ってるのか?」

「うん、そうだよ?でもなんで?」

今ので合点がいった。

ハハハ、簡単なことだったんじゃないか!

俺に魔法は効かない。

なぜなら、魔法が俺に触れた瞬間その魔法は吸収されるからだ。

でも、魔法という形では吸収できないから一度純粋な魔力に分解して吸収すると考えると、術式が破壊されていたという問題も合点がいく。

つまり、全て俺が悪かったのだった。

その事実に気づいた俺は、逃げるようにギルドの外に出た。

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