勇者登場!
確かに魔法は俺に直撃した。
それは間違いない。
じゃあなんで生きている?
答えは簡単だった。
魔法が俺の体内に吸収されたからだ。
「..........ほう」
エルドラドは愉しそうに口元を歪め、黒い生き物たちは騒ぎ始める。
だが、今この状況で一番驚いているのは誰でもない俺だ。
「怯むな!撃て!」
エルドラドの一喝で、黒い生き物たちは再び魔法を打ち始める。
が、どれもこれも俺の体に当たったものはすべて吸収されていく。
_______________「無駄無駄無駄無駄無駄!」とか叫びたくなるな。
そして魔法の雨は止む。
どうやらどれだけ撃っても意味が無いことが分かったらしい。
「なるほど、随分と威勢のいい人間だと思ったが、まさかこんな裏技を持っているとはな」
「ふっ、俺はまだ実力の一割も出してないがな」
________________言いたかったこのセリフ!
まさかこんな形で言うことになるとは思わなかったが、長年の夢の一つが叶った。
「ほう、では是非とも貴様の実力とやらが見てみたいな」
「いいか?俺の国にはこんな言葉がある」
俺はエルドラドに今日一の決め顔を向けて言い放った。
「明日から本気出す!働いたら負けだ!」
「..................」
「つまり、魔王のために働いている負け犬に、働かないダメ人間の俺は倒せない!」
きっと調子に乗っていたのだと思う。
魔法が効かないからって自分が無敵なんだと思い上がっていたのだろう。
だからこんなセリフをペラペラと言えたのだろう。
それが地雷だとも知らずに。
「貴様、今なんと言った?我を魔王のために働いている負け犬と言ったか?」
明らかにさっきと雰囲気が違う。
ここにいるのはさっきの将軍っぽい奴じゃない。
修羅だ。
修羅がここにいる。
「魔王様のために働くことは名誉なことだ。それを負け犬だと?________ぶっ殺す」
確かに強力な魔法が効かない俺はすごいんだと思う。
でも、果たして"魔法が効かない=無敵"なのだろうか?
いや、違う。
だったら殴られてこんなに痛いはずがない!
俺はエルドラドの巨大な拳でぶん殴られた。
アッパー気味に殴られたためか、宙に浮いた。
そして背中から地面に落下したが、殴られた瞬間咄嗟に後ろに跳んだことでいくらか衝撃は和らいだ。
昔何度も何度も兄に負ける度にとっていた動作のおかげで助かるとは皮肉な話だ。
まさか直撃を喰らったわけではないのに肋骨を持っていかれるとは思わなかった。
多分今は肺には刺さっていないから大丈夫だけど、ここからはあまり派手に動けない。
というか、次の一撃は避けられそうにない。
エルドラドは次の攻撃に備えている。
_______________今度こそ死んだかな?
こんな状況なのにどこか冷静に物事を見ているいる俺がいた。
我ながらホントに大した神経だな。
たとえ死んだとしても心残りは何も無い。
俺が死んでも誰も困らないし、誰も悲しまない。
それに、生きていても何も出来ない。
だったらここで死んでもいいじゃないか。
俺は諦めて目を閉じ、衝撃を待った。
しかし待っていたそれは一向に来る気配がない。
ゆっくり目を開けるとそこには___________勇者がいた。
赤いマントに金色の劔、銀の鎧を身につけたその青年は勇者という言葉がぴったりだった。
「よく頑張りましたね。もう大丈夫です。ゆっくり休んでください」
そんな、心から労う声を発する背中に俺は
「ああ、ホントに疲れたよ。全く、もっと早く来てくれればいいのにさ」
それだけ言ってゆっくり目を閉じた。
「すみません、本当は結構前から見てたんですよ。でもあなたの能力を見極めるためにわざとギリギリまで待ったんです」
青年は既に眠っている翔に向かって謝罪した。
すべてを見ていてなお助けなかったと、この青年言っているのだ。
申し訳ない気持ちで眠っている翔を一瞥した後、青年はエルドラドに向き直る。
「その黄金の聖剣、貴様勇者ラーバスか?」
ラーバスと呼ばれた青年は否定も肯定もせず、ただ劔の切っ先をエルドラドへ向ける。
「忠告だ、今すぐ手を引け。でなければ殺し合うことになる」
そして先ほど翔に向けた優しさの込った言葉はそこにはそこには在らず、明確な殺意、隠せないほどの敵意が込っていた。
「あのラーバス=ジェラトリオと戦う準備なんてしていない。ここは引かせてもらおう」
そう言うとエルドラドは悪魔たちを連れてあっさり去っていった。
「さて、じゃあ彼を病院に________________って目の前が病院じゃないか。病院の前で怪我をするなんて、とんだカモ状態だね」
そんな軽いジョークを言いながら、勇者ラーバス=ジェラトリオは翔を背負い、病院に入っていった。
目を覚ますと、目の前には見知らぬ天井があった。
ゆっくりと起き上がると、見知らぬ部屋。
___________あれ?ここはどこ?
確か俺は_______ってあれ?前にもこんなことあった気がするな。
「あ、目、覚めました?」
という声と一緒に獣耳娘が入ってきた。
____________あ、思い出した!
前にも全く同じシチュエーションがあったじゃないか!
この獣耳娘の名前は確か、モニタ。
モニタ=クレマーレ。メイド服を着た看護師だ。
「ああ、大丈夫だよ。モニタは?」
「はい、カケルさんのおかげでなんともないです!」
ニコッと太陽のような笑顔が俺に向けられる。
しかしすぐのようにその太陽は雲に包まれる。
「でも、なんであんな無茶をしたんですか?カケルさんは病人さんだったんですよ?」
今にも泣きそうな顔をしながらモニタが訴える。
きっと相当心配させたのだろう。
「ごめん、知的好奇心には勝てなかった。今は反省している」
「ホントです、もう心配させないで下さいね?」
「.......はい」
妙に強気なモニタに気圧され、それ以外の返事が出来なかった。
______________でも可愛いからいいや。
「そういえばカケルさんにお客様が来てるんです」
「俺に?」
誰だろう?この世界に知り合いなんていないはずなんだけど。
「実はもう外に来てるんですよ」
「そうなの?どうぞ」
ドアの外に声を向けると、そっとドアが開かれた。
「どうやら気が付かれたみたいですね」
入ってきたのは勇者のような格好をした男が入ってくる。
「えっと〜、誰?」
ガクッと勇者風の男がズッコケた。
「はは、そういえばキミとはチラッと会っただけでしたね」
ポリポリと頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「僕の名前はラーバス=ジェラトリオ。ラーバスと呼んでください」
「俺は天翔翔、なんとでも呼ぶがいい」
差し出された右手を取り、握手する。
そうだ、ようやく思い出した。
確かこのラーバスが俺を助けてくれたんだっけ?
「さっきは助けてくれてありがとう。少しは感謝する」
「少しなんだ.......、うん、素直に受け取っておきますよ。でも、さっきというのはちょっと違いますね。カケルはあの事件からまる二日眠ってたんですから」
______________oh、マジですか?
「それで、本題に入りたいのですがいいですか?」
「どうぞどうぞ、できるだけ手っ取り早くお願い」
「では余計な話は省きますね。実はカケルには僕のパーティーに入ってもらいたいんです」
「_________なんで?」
この場合のパーティーがチームを意味している事くらいアクセントの位置でわかる。
でもなんでこの俺がそんな誘いを受けるのだろうか?
「あの時、僕はカケルの戦闘を見てたんですよ。そしてあの能力ももちろん」
___________あの能力?
ああ、魔法を吸収したあれね。
でもそれが一体何になるのか?
実際、魔法を吸収できたとしても物理攻撃は有効。
だからこうして寝ているわけなんだが?
「なんで?ですか。そうですね、こういっては何ですが、カケルは近いうちに大物になると思ったからですね」
「大物に?ないない!生粋の虹オタの俺が大物になるなんて絶対ないわ!」
「ニジオタ?それが何かは知りませんが、カケルには才能がある。僕は君が欲しんだ!」
「ふぇっ!」
なぜモニタが驚く?
別にいけどさ。
「確かに、あのエルドラドを単身で撃退したラーバスは確かに強いんだろうし、アンタについて行けば俺の能力も少しは役立つんだろうな。それに食い倒れて死にそうになることもないだろう」
「もちろんです!一日三食と毎日の宿を約束します!だから僕と一緒に__________」
目を少年のように輝かせるラーバスの言葉を遮り、俺は言いたくてうずうずしていた言葉を発した。
「だが断る! 」
「........え?」
「 だが断る! 」
「いや、二回も言わなくても聞こえてますよ?それで、理由を聞かせてくれませんか?」
「理由?いいよ聞かせてやる。よく聞けよ」
一拍置いて、理由を告げる。
「 気乗りしない! 」
ドヤ顔で俺はラーバスを見てやる。
ラーバスとしてはもっとまともな理由が帰ってくると思っていたのだろう。
惚けた顔のまま固まっている。
だが、気乗りするかしないかというのはオタクにとって大事なことだ。
気乗りしないアニメを見たって途中放棄するだけだし、気乗りしないラノベを買っても最後まで続かない。
そして何より、男とふたり旅なんぞ御免被る。
「そ、そうですね、本人が嫌だと言っているのに無理強いはできません。では僕はこれで失礼させてもらいますが、もし気が変わったらいつでも言ってください。待っていますから」
硬直から解けると、ラーバスは部屋を出ていった。
「か、カケルさん、どうして断ったんですか!?ラーバス=ジェラトリオさんと言ったら協会認定の勇者様ですよ!そのパーティーに入れるなんてすごいことなんですよ!?」
話が終わるとモニタが突っかかってきた。
まあ可愛いから何でも許すけど。
「だって、男とふたりで旅するよりもモニタみたいな美少女と話してた方が楽しいし」
「ふぇっ!?」
尻尾と耳が同時にビクッと立った。
こういう反応がいちいち可愛んだよな。
「も、もぅ、からかわないで下さい!」
「いや、本心だけど」
「__________っ」
モニタはうずくまってしまった。
___________何も言い返せず恥ずかしがってるモニタたんカワユス。
「そういえば今更なんだけど、ここの入院費どうしよう?」
「入院費ですか?」
ベットの端から目から上だけを出したモニタが反復する。
「入院費ならラーバスさんが払っていきましたよ?」
なんと男前!?
____________ラーバスの奴絶対モテるな。
確信を持って言える。
やはり奴と俺は相容れない存在だ。