ビバ、異世界生活
__________ああ、俺の冒険はここまでか。
意気揚々と出発してからまる二日。
一向に人の影一つ見えてこない。
腕時計する習慣のなかった俺がこんな時に都合よく腕時計をしているわけもなく、時間確認の手段は手元のスマホのみ。
そのスマホでさえ何時間経ったのかを確認するだけにしか使えず、現在の正確な時間は分からない。
それでも二回夜を過ごしたことだけは確かで、その間俺は何も食べていない。
唯一救いがあるとしたら、この草原には湖がいくつもあったことだ。
よくアニメなんかでは生水をそのまま飲んでいるが、現代日本では衛生上あまり薦められていないし、抵抗を覚える。
もちろん俺も最初は抵抗があった。
しかし、この場、この状況ではそんな事言っていられない。
生きるために人間は水を飲まなければいけないのだ。
こうして空腹を湖の水で紛らわせて騙し騙しやってきたが、流石にもう限界が来ていた。
ずっと何も入っていないままの胃袋は今日の朝、全く空腹を訴えなくなった。
視界がぼやけ、足取りもフラフラしている。
日を浴び続けたせいなのか、頭はガンガンし、今では喉の乾きすら感じなくなっている。
そもそもオタクがこんな長距離、日光を浴び続けて歩き続けるなんて無理ゲーだったのだ。
まるでRPGで最初の敵がラスボスだったってくらい無理ゲーだ。
もっというなら、素人にHP1で〇ックマンエグゼ6のフ〇ルテbxをバトル〇ップなしの、〇ックバスターだけで倒せと言っているようなものだ。
そしてついに俺は膝を地につけた。
_____________ああ、ここまでか........。
自らの限界を悟った俺は、地に伏して目を閉じる。
こうして俺の小さな冒険は幕を閉じたのだった。
〜BAD END〜
だと思った?残念、続きます!
目を覚ますと、目の前には見知らぬ天井があった。
ゆっくりと起き上がると、見知らぬ部屋。
___________あれ?ここはどこ?
たしか俺は歩き疲れてぶっ倒れたはずなんだけれど、なんでこんな地味にいいベットで寝ているんだろう?
「あ、目、覚めました?」
最初にぴょこんという擬音語が似合いそうな獣耳を持つ女の子が部屋に入ってきた。
その手には水の入った洗面器と濡れたタオルがある。
きっと彼女が介抱してくれたのだろう。
俺は巨乳でオレンジ色の髪の獣耳娘に向き直るとお礼を言った。
「い、いえいえ、顔を上げてください!私は当然のことをしただけなんですから!」
獣耳娘は赤い顔で、手をバタバタさせながら言う。
_____________うん、可愛い。
これなら"D〇g Days"にハマった我が同志の気持ちも分かる。
ロングスカートの端からチラチラ見える、ふかふかな尻尾。
さっきからピクピクと動き続けている獣耳。
しかも、メイド服というアイテムが威力をさらに跳ねあげている。
流石にロリ属性の俺でさえときめきかねない。
______________ってそうじゃないだろ!
俺は壁に思いっきり頭を打ち付ける。
獣耳娘が焦って止めに入った事で中断した。
頭を打ち付けたことでいくらか冷静に考えられるようになった俺は、今の状況を改めて見つめ直す。
よくわからない場所、消えたトンネル、動く獣耳、その獣耳の付いたメイド服の女の子、青い空、白い雲。
これはもう言い切ってもいいのではないか?
これだけ状況証拠があったらもう確定だろう。
そう、俺はどうやら異世界に来てしまったらしい。
どうやら異世界に来てしまったらしい!(大事なことなので二回言う)
「あの、どうかしましたか?まだ具合が悪いんじゃあ.......」
無言のままガッツポーズをとっている俺に獣耳娘が心配そうな声を向けた。
確かに、いきなり壁に思いっきり頭を打ち付けたり、無言でガッツポーズしだしたら心配するだろう。特に頭を。
「うん、大丈夫大丈夫。ごめんね驚かせて」
「いえ!その、大丈夫ならいいんです!」
テンパりながら必死に答えようとする姿を見ていると、心が和む。
「可愛いな〜」
「ふぇ!?」
「ん?どうかした?」
突然奇声を上げた獣耳娘。
「え、えっと、あなたが可愛いなんて冗談言うので......その....」
どうやら俺の心の声が漏れてしまっていたらしい。
恥ずかしいと思う反面、この子のテンパる可愛い姿が見れて嬉しくも思う。
「ごめんね、冗談じゃないんだよ」
「えっ!うぅぅ......」
赤くなって、こちらに背を向けてうずくまってしまった。
耳はペタリと折れてしまっているが、よく見ると尻尾をぶんぶん振っている。
「そういえばキミ名前は?」
うずくまったままの獣耳娘に投げかけると、持っていた洗面器を床において、すくっと立ち上がりこっちを向いた。
「私はモニタ=クレマーレです。気軽にモニタと呼んでください。あと、ここの看護師をしています」
____________ほう、看護師か?
ん?看護師!?
どっからどう見てもメイドなんだけれど!?
どう見てもナース服じゃないんですけれど!?
これはナース属性の方々の怒りを買うやつだな。
ナースナース詐欺だ!
純愛系を謳う鬱アニメみたいなものじゃないか!
っと、怒りにかまけて俺自身の自己紹介がまだだった。
「俺は天翔翔、ショウショウと呼ばれていた時期もあった。ついでに職業は学生兼オタクだ」
_____________学生については"元"だけどね。
「学生さんですか!すごいです!どこの学生さんですか?」
妙に食い付きのいい獣耳娘ことモニタ。
学生に何か思い入れでもあるのだろうか?
「俺の学校は桜乃森高校って名前の平凡な学校。兄さんは栞ノ宮学園っていうお金持ちの集まる学校だったんだけどね」
______________兄さんの場合は学力もよかったから、親も喜んでお金出してたよなぁ。
「コウコウですか?聞いたことない学校ですね?カケルさんはどちらの出身ですか?」
「日本ってところ。アニメとかでは"極東の国"とも言われてる」
「"極東の国"ですか〜。なんだかカッコイイですね!」
________________うわっ!眩しっ!
モニタの笑顔はまるで太陽のように眩しかった。
「でもニホンなんて国聞いたことないです」
「そうだろうね、そもそもこの世界には無い国なんだから」
「この世界には無い?」
「いや、何でもない」
今のは完全に失言だったかな?
多分だけど、俺が異世界の住人だということは黙っていた方がいい気がする。
でも下手に隠すと怪しまれそうだし..........隠さずに隠していくのが一番かな?
『え?そんな事一言も言ってないだろ?』みたいな感じで行こう。
そんな決意をした時だった。
外がやけに騒がしい。
そしてドンと爆発音。
なんか嫌な予感がする。
「モニタ?」
不安げな顔を向けると、モニタもアワアワと焦っていた。
何が起こっているのかと窓から外を確認すると、なんか角の生えた黒い生き物が、どこからともなく火や水を出していた。
あれはまさか俗に言う魔法だろうか?
オタクとしては捨ておけない。
______________もっと近くで見たい!
そんな衝動に駆られて、モニタが止めるのを無視して外へ駆け出した。
外に出ると町は酷い状態だった。
建物はどれをとっても半壊状態、当然のように、アスファルト加工されていない道も穴が開き、あちこちで火が上がっていた。
「砲撃止め!」
と言う渋い男の声がすると、それまで飛んでいた魔法はピタリと止まる。
声の方を見ると、赤髪で強面のガタイのいい男がいた。
着ている鎧から見てもあの男が司令官だろうと判別がつく。
町の人たちは既に逃げているため、今この道には人間は一人もいない。
そう、俺を除いては.........。
「なんだ?貴様は」
________________やっべー、見つかった。
状況は最悪と言っていい。
"さっきまでは大勢の人間の一人"だったのが、今は"目の前の人間"になってしまっている。
「おい人間。答えろ」
男の周りの黒い生き物が両手を突き出し、魔法陣を展開している。
あれはさっき見た。
魔法を使う準備に入ったんだ。
というか、あれは銃で例えると、あとはトリガーを弾くだけの状態だ。
_________________さあ、俺の冒険を始めようではないか!
「人に名前を訊くなら、まずは自分から名乗るべきじゃない?」
早速やらかした!
挑発してどうするんだよ!?俺!
でもアニメでは普通こう言うよな?
あ、でもそういうのって大抵バトルアニメで、そのあと激しいバトルが展開される流れだよな?
あぁぁ!もうヤケクソだ!
どうにでもなれ!
「ほう、言うではないか人間。いいだろう。我が名はエルドラド。魔王様直属の幹部也!」
「俺は天翔翔!桜乃森高等学校二年生。学生だ!」
何張り合ってるんだよ!俺!
"魔王直属の幹部"と"学生"。
釣り合わねぇ!
「学生か。学生の身分でその勇ましさ。良き戦士と見た」
「いい戦士だと思った?残念、少し空手のできる平凡な学生でした!(ぷゲラ)」
だから何言ってんの!?
いや、自分なんだけどさ!
「随分と分かり易い挑発をするものだな。どうにも罠にしか見えんのだが?」
「じゃあそうなんだろうね、俺はお前の中ではwwww」
「ふむ、なかなか面白い人間だな。聞いたことのない言葉ばかりだ。だが今回我は魔王様より人間を殺してこいと命じられていてな。少々残念に思うが、貴様にはここで死んでもらう」
エルドラドが何か言っているようだが、俺はある言葉に反応していてほとんど聞いていなかった。
________________こいつなんで俺の昔のあだ名を......?
「総員、撃て!」
と言うエルドラドの声で我に帰ると、火の玉、水の玉がすごい勢いで飛んできた。
________________あ、死んだ。
そしてそれらは恐ろしい威力を持ったまま、俺の体に直撃した。
〜BAD END〜