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「ドルアーガの塔」の夏

作者: まつだ

小6の夏。じいちゃん家に帰省したら、いとこのYにいちゃんがファミコンをもってきていた。新作カセットもいっぱいあって、夢のような時間だった。

そしてその中に「ドルアーガの塔」があった。当時のゲームと言えばほとんどが英語のタイトルばかりだったので、このタイトルは異質でTVCMの不思議な雰囲気とあいまって、とにかく奇妙な、正体のわからないゲームと思っていた。当時のナムコのカセットには裏に簡単な紹介文が書かれていて、それには「ロールプレイングゲーム」とある。時はいまだドラクエ前。ロールプレイングゲームといえば「ハイドライド」だった。確かに剣と楯、鎧の主人公はハイドライドと同じだった。その上ダンジョンとスライム。僕にとって、ロールプレイングゲームと言えばスライムになったのは当然だった。

その時はまだゲーセンに足しげく通う前だったので「ドルアーガ」がゲームセンターにあったゲームであること、クレイジーなゲームであることなんて知らなかった。今思えばファミマガで記事を見かけた記憶もない。

しかし、すでにゲームセンターに通っていたYにいちゃんはこれがどういうゲームなのか知っていた。そして、僕に言ったのだ。

「これをクリアしよう」

帰省は3日間。その間にこのまったく知らないゲームをクリアしよう、と誘われたのだ。いやおうもなく、ドルアーガアタックが開始された。ゲーム開始はその日の夜。大人たちが寝静まってからだった。深夜にこっそりと居間に集まり、ファミコンをスイッチオン。暗い画面に映し出されるタイトル画面。

「10面までは宝のだし方は知ってる。それからは探すしかない」

ゲームの説明はされていないため、さっぱりわからなかった。

さっそくYにいちゃんがプレイ開始。そして僕は不思議とこのゲームを遊ぼうとは思わなかった。

そしてゲーム画面。CMで見た通りのそれだった。レンガの敷き詰められた迷路。そこにいる鈍い黄色の主人公、ヒーロー。

とにかく足が遅い。それが第一印象だった。スライムを倒すと宝箱が出た。その中にはツルハシ。……ツルハシ? この世界にはツルハシがあるのか?

1面でもう謎が謎を呼ぶ奇妙なゲームだった。

「1面はスライムを3匹倒すとマトックが出る」

Yにいちゃんがそう説明してくれた。なるほど、さっぱりわからん。マトックとはツルハシらしい。

「壁が一回壊せる」

というと、迷路の壁が一枚壊れた。そのまま鍵を取って1面クリア。なるほどさっぱりわからん。

「鍵を取って扉を開けて、階段を上がると次の面に行く」

それは見た。僕はうなづく。

「これが60階まで続く」

気が遠くなった。あと2日。昼間は大人がテレビを見るから夜だけなら明日の夜だけじゃないのか?

「そしてこのマトック。宝物が各階に隠されている。これの出し方を探さないといけない。さっきも言ったけど、10面まではしってるからそこから先は頑張ろう」

そう言って笑った。眠そうだった。僕が眠かったのかもしれない。その時は薄暗い居間でテレビの明かりがうすく明るかったのを覚えている。

2面から10面。何度も何度もゲームオーバーになり、コンティニューを繰り返す。

この中では10面が辛かった。レッドスライムの呪文を受ける、なのだけれど、こいつがまったく呪文を吐かないのだ。しびれを切らして背中を見せたら吐いてきてやられたこともあった。めちゃくちゃ腹が立った。

そして11面。

「ここからは判らん」

そこからの記憶はのこっていない。ゲームオーバー、コンティニュー、ゲームーオーバー、コンティニュー。やったことをメモに書いて、これは外れ、これじゃないの繰り返し。なんかのはずみで偶然宝箱が出ると嬉しさ80%、なんで?20%だった。どうして出たのか判らない。それまでの操作を思い出す。こうじゃないかと考えるのだが、ここはいったん面を進めよう、となる。

しかし、無情にも朝が近づき、疲労困憊の体で、泣く泣く、惜しみながら、血の涙を流して、ファミコンの電源をオフにした。こうしてドルアーガの塔と出会った。この塔の持ち主、ドルアーガにはまだ会えていない。いつか会えるのか。気を失うように寝た。

のだけれど、昼には起きてファミコンで遊んだ。昼間はなぜか「ロードファイター」と「バンゲリングベイ」でばかり遊んだ。しかし、どこか愉しくなかった。

そして2日目の夜。またドルアーガの塔にのぼる時間になった。

すっごく楽しみだった。代わり映えしない迷路が続くのだけれど、そこに埋め込まれたたった一つの謎を解きあかす面白さは、これまでのどんなゲームにもなかった。

メモを整理して、16面までの宝物の出し方はおそらく判っている。今日もアタックが開始された。

昨晩偶然発見した宝物の出し方は全部正解だった。すごい速さで進んでいく。あっというまに16面についた(前日比)。

16面の謎を解く。これは簡単だった。壁に沿って一周歩いたら出た。

17面は何もしていないのに出た。18面も何もしていないのに出た。

「なんだこりゃ」

不思議だ。何もしていないのに宝物が出る。不思議だ。13面の宝物の出し方を知った今となっては本当に謎だ。

「これは罠なんだろう」

Yにいちゃんはそういう。そして19面に着いた。まだ朝は遠い。そんな時間だった。

「この音楽はドラゴンがいるのか……」

いつもと違う音楽はドラゴンがいる証だった。そうなるとこの面自体がむつかしいのだ。その上で宝物を探すしかない。

思った通りここで超絶ハマった。

なにをどうやっても宝物が出ないのだ。敵を全部殺す、壁を壊す。歩く。剣を出さずに歩く。上から下、下から上、右から左、左から右に歩く。そして何より19面はドラゴンとソーサラーが一緒に出てくる面なのだ。コンティニューの繰り返しだ。

「ここはもうあきらめて次に進もう」

何度目の挑戦だろうか。Yにいちゃんがついにあきらめた。時間は昨日の終わった時間を越えていた。

「行くぞー」

眠そうな声で鍵を取り、扉を開けた。

「うわ!!!!!!」

僕はその瞬間声を上げた。面クリアした瞬間だった。画面の端にたしかに宝箱が見えたのだ! クリアしたら出る?! そんなのどうやったら取れるんだ?!

絶望だった。あらゆることを試した、偶然なんてない。19面の宝箱は面クリアすると出る、だ。しかし、それでは取れないじゃないか。ここにきてなんという謎が!

眠さと興奮があいまって、しかし、すぐに眠気は消え去った。新しい面だ。

「なんじゃこりゃ!」

Yにいちゃんが声を上げたのも無理はなかった。

20面は真っ暗だった。何も見えない。ついにファミコンが壊れたのだと思った。死んでまた始まるがやっぱりまっくらだった。ゲームオーバーになりコンティニュー。まだまっくらだった。

「もうやめるか……」

そのまっくらな画面は僕らの心を折るには十分だった。僕たちは顔を見合わせると、ファミコンの電源を切った。さようなら20面。

こうして短い「ドルアーガの塔」の冒険は終わった。

その後、19面の宝箱の出し方は「扉を開ける」だと判った。だがゲームを再開しようとは思わなかった。僕はカセットを持っていなかったし、友達も持っていなかった。始めようもなかった。

さらにしばらくして春ごろに月刊ジャンプに隠しコマンドが発表された。それは面セレクトとすべての面の宝物を手に入れられるコマンドだった。このころ、隠しコマンド発表と言えば月刊ジャンプだったように思う。スターフォース無敵、ソンソン無敵などなど、月刊ジャンプで知った隠しコマンドは多い。

このコマンドには驚いた。その袋とじをなんどもなんども読み返した。そしてカセットを持っていたI君に貸してほしいと電話をすると、自転車で彼に家に向かった。もう夕方だった。

息せき切って帰宅すると隠しコマンドを入力。やった、ついに面セレクトができる! 宝物が全部ある! 60階だ! ……60階のクリアの方法はファミマガで知っていた。


そして、ついに、エンディングへ。長い長い。冒険だった(そしてズル)。


時は流れて2015年。未だにDSでドルアーガを遊んでいて、クリアは出来るし、あの時あれほど探した宝物の出し方は全部知っている。ソーサラーだって簡単に倒せるようになった。

そして、いまだに、あのCMと2日間の不思議の体験は記憶に深く深く刻まれている。

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