沈黙
いやあぁぁぁぁああ!!
何が平穏な日常よ!
何が破滅の日よ!!
自分で波乱の道を選んでどおおするの!!?
お、おちつきなさい、シェリル。
わ、私は巫女。
こ、こんな事なんでもないわ!!
そうよ!平然とするのよ、シェリル!!
私なら出来るわ!!
ドレットは私といるのが自然なの!
陽が昇って沈むくらい当然の事なの!!!
シェリルの顔は青くなったり、赤くなったり、かと思えばニヤニヤしだし、かと思えば泣きそうな顔になり、次の瞬間に真顔になる。
側から見たら、気が狂ったとしか思えないだろう。
それは対面に座るドレットも例外ではなかった。
「シェリル?だ、大丈夫か?」
大丈夫よ!!
そう答えようとした思考とは裏腹に、体が勝手に動き出す。
「大丈夫じゃなあああああい!!!」
走った後に火柱が上がりそうな勢いで、ぶつかった相手を弾き飛ばしつつ、シェリルは大食堂から逃げ出した。
ポカーンとしながら見送ったドレットは、頬杖をついて溜息を吐いた。
「・・・参ったなぁ。」
「なんだありゃ。竜巻か?」
アギトが指差した方向に物凄い砂埃が舞い上がっている。
とは言っても、旋風や竜巻はイグニスでは日常茶飯事である。
「竜巻にしては小さくないかい?」
「移動速度も大分速いな。すぐこの辺まで来るぞ。一応避難しとくか?」
「そうだね・・・って、あれ、人みたいだ。」
「こんな炎天下にあんな速度で走るなんて何処の馬鹿だ。」
「ほんとだねぇ、どれ、馬鹿の顔を拝んでやるかい。」
カグヤが指さした方向からは、確かに人影が見える。
陽炎に包まれながら、砂埃を巻き上げ、猪の様に直進してくる。
ボサボサの金の髪を振り乱し、何かから逃げるかの様な必死さで走ってくるそれをニタニタと笑って見ていたカグヤの顔が凍りついた。
「あの馬鹿・・・・、折角二人きりにしてやったのに。」
その言葉でアギトは察したようだ。
「ぶっ倒れる前に、止めとくか。」
アギトは砂埃の進路を塞ぐようにたちはだかった。
数分もせず、だが予想よりも早く、砂埃の主はアギトの胸板に飛び込む形となる。
「うお!?」
ズザザとアギトの体押し込まれた。
一回りは小さい女性の力とは思えない。
周りが見えていないのだろう、ふごーふごーと唸り声を上げながら未だ進もうとする女性にカグヤがそっと声を掛けた。
「おちつきな、シェリル。一体全体どうしたんだい?」
そこでシェリルはやっと我に返った。
「カ、カグヤさあああん」
ヘナヘナと腰から砕け、ついにはその場に座り込んでしまったのだ。
「ドレットとなんかあったのかい?」
ドレット、と言う名前を聞いた途端、シェリルの顔が引き攣る。
「私、ドレットに、告白しちゃいましたあぁぁ」
人目も憚らず、シェリルはついにうわああぁぁんと大泣きをしてしまったのである。
親愛なるシェリル。
手紙で挨拶を済ます事を許してほしい。
今シェリルの顔を見てしまうと、全てを捨てて、最後の日まで側に居たいと思ってしまう。
それは、今は良くても、時間が経つ程に後悔する選択になるだろう。
シェリルと過ごした時間は、俺の人生を大きく変えた。
シェリルはオレにとって、初めての友達だから。
初めて、他人を大事に思う事ができたから。
自分が、自分以外を想うようになるなんて、思いもしなかった。
きっとこれが人を好きになるって感情なんだろう。
でも、俺たちは、決して結ばれない。
シェリルが、世界の命運を握る、救いの巫女だから。
そしてオレが・・・・・
ドレットは筆を置いた。
そしてオレが・・・・。
ドレットは手紙をクシャと丸めた。
それを机の上に放ると、既に旅支度を終えた背荷物を担ぎ、宿屋のカウンターに向かう。
「伝言を頼む。」
店番をしていた人の良さそうな熟女が、嫌な顔一つせずにうなづく。
「金の長髪、青い眼の人形みたいな娘に伝えて欲しい。
10ヶ月後に、聖都フレアルファで待つ。」
ニコニコしていた熟女は、一瞬顔を曇らせ、しばらく沈黙したあと意を決したように口を開いた。
「本当にいいのかい?こんな事言いたかないけど、あの子、あんた無しじゃ生きられないよ。付き合うのが、嫌になったのかい?」
「・・・あの子には強くなって欲しいんだ。」
「一人で生きれる事が、必ずしも強いってわけじゃないんだよ。
愛する人の元でこそ、女は強くなれるってもんだ。」
「・・・オレが求める強さとは違う。」
「・・・そうかい。判ったよ。もう何も言わない。いつか、一緒になれると良いね。」
「・・・そうだね、ありがとう。」
有り金は全てシェリルの部屋に置いてきた。
これからは金を稼ぎつつ北に向かわなければならない。
「イグニスからフレアルファ迄の護衛、か。」
イグニスの冒険者ギルドで、北に向かう依頼書を探すと、ギルドに登録を済ませ、出発まで座って待つ。
数分もせず顔合わせがあった。
あどけない顔つきに怪訝な顔をされたが、アギトやハヤテが散々言いふらしてくれたのか、ギルドの受付が後押しをしてくれた。
「今日から冒険者か・・・。さて行くか。北へ。」
そしてドレットは、イグニスを後にした。




